戦術
「俺はキンタ。10歳だ。ここにきて四年になる。得意なのは剣技だが魔法も使える。ランキング27位で魔法剣士をしている。決め技はマキシマムフレイムだが、オールラウンダーだ。えっと、以後、宜しく」
ジェシカは疑問に思った。
「え? キンタって、本当に10歳なの? 一個ぐらい下だろうと思っていたわ」
うろたえるキンタの手を引っ張り、ハルトの隣に立たせる。
ハルトは気付いた。肩の位置が全然違う。いつもキンタに見下げられているけれど、態度のせいだけではなかったらしい。
「キンタ、また身長伸びたのか!」
「プーは伸びないなぁ。一生このままか?」
ハルトの黒髪を撫でまわし、キンタは得意そうだ。
「本当に二人とも同じ歳なの?」
ジェシカが疑っているので、キンタとハルトは焦った。まさか年齢詐称疑惑が上がるとは思わなかったのだ。
ハルトは慌てて言った。
「俺を引き合いに出すのやめてくれ。 俺は普通サイズなのにチビみたいじゃないか。キンタはもともと背が高いし10歳だって本人が言うんだから10歳だよ!」
もはやゴリ押しに近いが、キンタも賛同した。
「そうだ! 外見で判断するな」
ジェシカは首をかしげつつ、頷いた。
「まぁ、そうなんでしょうけど……。あ、わかったわ! ハルトは外見が子供だけど、中身がオジサンっぽくて、キンタはその逆ね! 体格は大人だけど、中身はまるで子供だってことよ!」
キンタとハルトはお互いに見つめ合った。まったく反論できないほどの真実だ。
それでも、ハルトは一言追加したい。
「ジェシカ、オジサンは無いよ……大人っぽいとか言って!」
「だって、いつも授業抜け出しダラダラと昼寝してるじゃないの。気が付くと何か食べているし、ご飯と昼寝だけってオジサンのすることよ」
鋭いツッコミに、ハルトは苦笑いだ。
「……。ではレギュラー選抜しよう。
レギュラーは五人で、補欠が二人だけど、補欠こそチームの救世主にしたい。レギュラーの補佐、世話役、荷物持ちで三倍働いてもらう。補欠になったからといって戦力を余らすようなことはさせないつもりだ。全員が活躍して、あなどれないチームにしよう。
まずはそれぞれの実力が見たい。約束どおり、俺が相手するよ」
ハルトは細長い鳥の羽根をメンバーの胸元に刺し、近くにあったスコップを振り回した。
「羽根取られたら、負けだからね?」
「スコップで戦うの?」
「怪我させるわけにはいかないよ。剣を抜くところまで追い詰めることができたなら合格だね」
ジェシカが立ち上がった。
「じゃあまず先鋒といったら、私ね。行くよ!」
自慢のスモールソードで風を切る。突きと払いで攻めてくる。ハルトはスコップの平らな部分で受け流すとガリガリと火花が散った。
カンカンと軽妙な音がする。
ジェシカは素早さが魅力だ。そこに力強さがどれだけ加わるかで、チーム全体の勢いが決まる。圧されるというには、まだ勢いが軽い。
――やっぱりもう少し腕力が欲しいなぁ。
キンタの視線がジリジリと熱い。
「プーの野郎、しっかり戦えるじゃないか」
ブツブツと文句を呟いている。その隣でカエデは満足そうだ。
「ジェシカ! 頑張って!!」
ジェシカは気合を入れた。
「この! この! 刺さりなさいよ!」
それは痛いから、ハルトは御免こうむりたい。
「連携してみようか。タンクも入って! ジェシカと……とりあえずキンタ」
キンタが待ちきれないとばかりに走り込んできた。
「とりあえずって何だ!」
火炎剣の炎が豪快に舞う。そこにジェシカの鋭い突きが加わった。初めてだろうに、なかなか良い連携だ。昔のキンタなら、熱くなって自分一人で突進していたが、戦闘時でも冷静に判断できるようになった。
「じゃあちょっと攻撃するよ~」
ジェシカは腹が立つ。攻撃は効かないし、スコップを捨てる余裕すらある。
「何その言い方、ムカつく!」
先に悟ったキンタがジェシカを突き飛ばした瞬間、二人を分かつようにハルトが突っ込んだ。衝撃を覚悟した。防御もできないまま二人は目を瞑った。
ガン!
タンクも突進しており、大盾でハルトの突進を抑えた。
「へぇ。攻めてくるね。でも、どれだけ耐えられるかな」
ガン! バキッ!
拳の二発目で、ヒビが入り、三発目で盾が割れた。それでもタンクの瞳はたじろがない。防御に自信があるのだろう。たかが子供に力負けするはずがないとでも?
ガッ!
四発目の蹴りで見事に粉砕され、盾が半分の大きさになった。
タンクは青ざめた。細く小さい体格から、どうやったらこれだけのパワーが出るのか想像もつかない。
「盾の中古は耐久力が落ちてるから買っちゃダメだよ」
ハルトは盾の淵を掴むと、空中に放り投げた。
「新しいの作ってあげるね」
「腕力で負けるとはな……」
盾の無いタンクなど無防備だ。
「まっすぐ受け止める力がいくら強くても、横からの力も考慮して。さぁ、どうすんの?」
ハルトは三人の羽根を手に入れて笑っている。タンクは慌てた。
「遅いから終了!」
「早すぎる! いつの間に!?」
カエデが笑って叫んだ。
「ハルトなら、全員攻撃しても大丈夫でしょ」
「ええ? カエデ抜きにしてよ!」
タツミとジオンの炎魔法を避けて急接近する。ジェシカ、キンタ、タンクの順で遠くへ突き飛ばし、二人の羽根を奪うのは造作もない。
「痛いことはしない主義なんだ」
ハルトが笑っていると、慈恩が慌てる。
「カエデ!」
「やあああ!」
ハルトは振り向くことなく、一瞬先取りで動いた。そしてカエデが振り降ろすはずの右腕を掴んで止めた。
「――! ずるいわよ」
「カエデの実力は知ってる。君の欠点もね。君は体力の回復が優先だ」
ハルトはゆっくりカエデの胸元から鳥の羽根を引き抜く。
「ジェシカは魔法で威力増大させよう。タンクは装備を新しくする、タツミと慈恩には技術的指導が先だ。キンタは放っておくことにして……」
キンタが走って戻ってきた。
「俺を無視するな!」
「じゃあ訓練担当な? タンクに体技指導して攻撃もできるようにしろ。タツミとジオンに魔法指導だ」
ハルトは笑う。
「カエデは俺についてきて」
そして二人だけ、イチャイチャとログハウスに入っていった。キンタの目には、そのように映った。
「あの野郎!」
※ ※ ※
それから数日、ハルトとカエデはティータイムを楽しんでいる。
「美味しいわ。こんなにゆっくりするの久しぶりだわ」
アールグレイに似た香りをゆったりと楽しみつつ、カエデは資料に目を通していく。ハルトは目の前で、チェスに似た五つの駒を動かしては、ペンを走らせていた。
「キンタとジェシカがいれば、ある程度の線までいけると思ったけれど、カエデが入ってくれたおかげで、ジェネシスに立ち向かえそうだよ」
「感謝しなさいよ? でも二人が新人なのはきついわね。5人全員が実力を出してこそのチームでしょう」
「普通のチームはね。でも補欠は入れ替わりで、うちだけは6人だ。一人増えれば何とかなるだろう」
「補欠との入れ替えは他のチームでもやっていることでしょ? 同じことをして勝てるの?」
「戦いは時間の勝負だ。戦闘中に交代を行う間は、4人で戦わなければいけない。陣形は崩れるし、防御力も下がる。その隙を突いて6人がかりで攻撃したらどうなる?」
ハルトはニヤリと笑い、魔法石の付いた腕輪を出した。レギュラーリングと呼ばれるチーム戦用の魔法アイテムだ。参加証であり、破壊されるとその後は戦闘に参加できなくなるので、皆の狙いどころだ。
「リングを5人以上が同時使用すると、ルール違反でチーム全体が失格になるから、必ず一人がオフしてから、スイッチを入れるだろ。平均して10秒は必要だ。これを音声感知式にする」
ハルトはカエデのレギュラーリングにシールを貼り付ける。
「セット」
カエデの腕輪の宝石が光を失い、代わりにハルトのレギュラーリングが光を放つ。
「最寄りのリングに反応するけど、混線をふせぐため、相手を呼んで使うように指示してくれ。間違って違うメンバーに待機ランプがついたらうちは失格だ」
カエデには希望の光にもみえた。
「いい! 勝てそうな気がしてきた」
「工房長の案だ。持つべきものは実力者だね」
「でも相手が交代するぐらいに追い込むってことでしょ? 実力が必要だわ」
「だから練習させているんだ。それでもって陣形はこうで……」
何枚も紙に書いてはカエデに見せる。
「チームに入ったことないのに、よくもポンポンと戦術が出てくるわね」
「テイマーはいつも後方でモンスターに指示を出す立場だからな。人間もモンスターもそんなに変わりないよ」
カエデは書類をいくつも見るが納得いかない。
リーダーが自分で、突破口はジェシカが作る。主戦力はカエデとキンタ。典型的な剣チームだ。盾役であるタンクには万能カウンターとして修行してもらい、チーム全体を守る。タンクの後ろで魔法補助をするタツミ。これで五人。
召喚されたばかりの慈恩とハルトが補欠だ。
「でもせっかくチームで頑張ると言っておきながら、自分をレギュラーにしないって、どういうこと?」
「チームのサポートに集中したいんだ」
その時、ひときわ大きい轟音がして家が揺れた。外はずっと騒がしい。キンタの怒号が飛び、炎でログハウスが燃えそうな勢いだ。
「おお~、やってるなぁ」
「それで初心者さんたちの相手はキンタがやるとして、私の修行相手はハルトがしてくれるのよね?」
「それはどうかな。俺とやらなくても、俺の可愛い子(使い魔)たちで十分なんだけどな」
「あれだけ結成の時に言っておいて、それは無いわよ。私はハルトの本当の実力が見たくて一緒のチームになったの!」
「それはカエデの気持ちだろ。俺は一言も本気で戦うとは言ってない」
そんなことをしたら、世界がひっくり返ってしまう。勇者の塔を破壊した見習いは過去に一人もいないのだ。人やモンスターとの戦うことはお遊び程度だが、実はこれは危険な火遊びだ。
――問題はアブソルティスだな
今となってはチーム戦に参加するのは、ハルトの挑発でもある。
ソウルブレイカーで殺そうと仕掛けてきたなら、勇者の塔でも襲ってくるに違いない。生け捕りにして、目的をはっきりさせないと落ち着いて生活できない。




