真夜中のお茶会
深夜の小部屋に十五人ほどの勇者見習いが集まった。
アフタヌーンティーならぬミッドナイトティー。この茶会はハルトのチーム結成に協力してくれそうな面々が集まったものだ。
「さぁ皆さん、まずはお茶会を楽しんでくださいね~」
脳内に叩きこんだ応募書類と本人たちを見比べながら、ハルトは笑顔で対応していく。軽やかにテーブルをまわり、紅茶を注ぎつつ、ひとりひとり挨拶をする。
ハルトはもてなしのプロフェッショナルだ。
素っ気ない会議室には細長い木のテーブルが二つだけ。それをテーブルクロスや卓上の花で飾り、かすかに流れるBGMで、ゆったりした空間を演出する。そしてメインとなるティーセット。魅惑の甘い三段タワーがいくつも並んでいる。その脇にはサンドイッチやちょっとした肉料理のオードブルまである。
食料事情が悪い中なので、部屋に入るだけで別世界のようだった。
穏やかな空気に、女子の会話が弾む。
「これミルクティーよね。何年ぶりかしら!」
「何のミルクかしら。独特だけど美味しいわ」
「スコーンとも良く合う!」
夜中にこっそり呼ばれて、甘いものを食べてお喋り。普段から厳しく鍛えられてきた女子メンバーは、ちょっとお洒落をして、ティーパーティーするのはとても楽しい。
艶やかな女子の豹変ぶりに、男子は圧倒されつつある。普段勇ましい野郎共だが、ここでは紳士的に振る舞わなければいけない空気ある。
ハルトはテーブルを小さめにして、お互いのつま先が当たるような密接な会場作りをした。作為的に男子と女子を縦列で座らせ、正面で向き合うように座らせる。まるでお見合いパーティーのような空気にした。
男は単純だから、女の子が可愛くなって、目の前に座るだけで、すでにご褒美な場合もある。それとはまったく関係なく、辛党のメンバーにはとりあえず肉を与えるに限る。
「おお、ミートパイもあるぞ」
ハルトは微笑む。司書長が自慢する。
「ここにある食材は全部ハルトがモンスターを狩ったり、畑で収穫して調理したものなんだぞ」
ほとんどの生徒が驚いた顔をした。本当のことなのだが、最劣勇者なのだから、嘘をついているのではという疑いの視線まである。
美味い夜食と紅茶が出るときいて集まったメンバーは、興味本位が実情だ。年齢幅は広く、シニアクラスから数人のオジサンもいれば、どうみても年下の幼い子供までいる。 司書長が集めたのは人柄重視なので、和やかな会話が進んでいた。やる気満々というよりは茶会を楽しむメンバーばかりである。
そこへ遅れて松葉杖の少年が入ってきた。
ハルトは立ち上がった。
「キンタ!」
ジェネシス所属が決まったはずで、名簿にも名前が無かったのに、どういうことか。
「司書長に呼ばれたが……何だ、この甘ったるい空気は……うぜぇ。テメェら遊びに来たのかよ。チームに入ろうっていう気合がねぇな」
司書長は頷いた。
「さきほど声をかけた。ジェネシスから除外されたと連絡が入ったのでな」
キンタは末席に座ると、ハルトはすぐに紅茶を淹れる。
「大丈夫? もしかして俺が魔物狩って食料調達しろなんて言ったから……?」
「誰がお前のためなんかで行動するかよ。ちょっと修行してやっちまったんだ」
「修行? そういえばこの前、魔の森から一人でどうやって戻ってきたんだよ」
「クラウドさんが助けてくれた。この間の魔の森でカエデに助けられたこともあって、一人は危険だからって追いかけてきてくれた」
「へぇ、案外優しいんだな」
「そうなんだ。でも残念だな。あの後、クラウドさんが修行つけてくれたのに、怪我しちまって。内緒にしてくれよ? 責任問題だからな」
クラウドがキンタを救った。ジェネシスの新メンバーとして、気にかけてくれていたということだろう。もともとキンタをジェネシスに入れる目的があったのだから、守る理由は納得できる。
ということは、魔の森の入り口で派手に森を破壊したのはクラウドだ。その実力はキングサーベルタイガーと角熊の攻撃を退けるほどだ。それだけの実力があるなら、キンタが怪我をするのはどうかと思うが、単にキンタが自爆したのだろうか。
――いや。違うな。
クラウドはジェネシスのメンバーにさせたくなかった。もともとはカエデの誘いでハルトが指名されたくらいだ。キンタは当て馬にされたのだ。でもメンバーにしたくないからといって助けておきながら怪我をさせる?
――分からんなぁ。
※ ※ ※
司書長は微笑む。
「まぁ、聞いてくれ。ここに集まるのはそれぞれに悩みを抱えている者。中でもハルトは最劣勇者として仲間に貶められている。けれどランキングを除外して、実力をはかるなら、彼は別次元だ」
ざわめく室内でハルトはじっと待つ。
成績が悪いという印象しかない。司書長の言うことが本当かどうかより、教師を買収したのではないかという疑いの目がある。けれど本当に成績が悪いなら、神官に処分されてここにはいない。
そこまで想像できる人間はいないのか?
キンタが手を挙げた。
「司書長の言うことに間違いはないぞ。プーのズルさと逃避術は神がかっている。何人の猛者が翻弄されたことか。この俺が保証しよう、こいつは使える」
キンタが保証するならという空気が漂ってきたが、ハルトは複雑だ。そういう意味での強さはいらないんじゃないか?
司書長が必死にフォローする。
「ハルトには深い理由があって、まだ勇者として卒業することはできないのだよ。その彼が今回のチーム戦で実力の一端を披露することに決めたのだ。皆、彼の本当の実力を見たくないか?」
いったん落ち着いたところで、ハルトはプレゼンテーションを始めた。
ランキングが上位なのは、勇者の塔で活躍した数に比例するものであって、明らかに実力のある者でも塔に入らなければランキングでは下位になることを図表で示した。
「ランキングは王宮神官が生徒の順位付けするためのもので、卒業者を出すための仕組みだ。本来ならば魔の森に生徒が戦ったり、収穫するのが望ましいが、それで生計が成り立ってしまうと、卒業したくない生徒が出るので、危惧している」
「卒業したくない生徒なんているの?」
ハルトは苦笑する。ここにいると言いたいが、ここには監視があるので下手なことを言うと牢屋行きだ。
「チーム戦はランキングに反映されないが、フォレストパレスのスタジアムで観客が入れるほど人気がある。したがって知名度と内申書は爆上がりする。もう少しで卒業許可が降りそうな生徒が期待していい競技だ。
ここに集まった皆さんは勇者の塔の最上階に行くことは現状では難しいだろう。だが俺の手にかかれば不可能ではない」
あまりの自信に満ちた言動は普段のハルトではないように思えた。それでテーブルの後方の二人が悪い笑みをみせて、騒ぎはじめた。
「自分のこと棚にあげて、何かほざいてるぜ!」
「真の実力? たった今見せて欲しいもんだよなぁ!!」
暴れ回ろうとして立ち上がった時にテーブルが揺れた。紅茶が零れ、悲鳴が上がった。三段タワーになったスィーツのティーセットが倒れていく。
時間と心を込めた料理が無駄になるのは耐えがたい。
『戻れ』
何人かの生徒は時間魔法だと呟いた。しかし戻れと言ったが、ちょっとした重力魔法だ。二人の生徒は椅子に引き寄せられて座らされ、ティーセットも元通りの位置に収まる。
「この世界で一番強いスキル。ある者は剣術や体術だといい、ある者は魔法こそが最高だという。でも本当に強いのはテイマーだ。どんな敵も味方にして、自分の使い魔にする。もし、それがモンスターだけでなくあらゆる生き物、例えば人間に対しても有効だったら? 踊れと言えば喜んで踊り、死ねといえば歓喜の笑みで自分の手で首を斬るんじゃないかな」
ハルトはゆっくり立ち上がった。
「試してみるか? 今晩、自殺者が出ても俺のせいじゃないけど?」
脅しに屈しないのはキンタだけだった。可愛いことに、睨んでくる。
だからハルトは笑う。
「冗談だよ、俺の実力が見たいなら仲間になってからだよ。その代わり一緒に戦って必ず優勝しよう。少人数でも本気で優勝を狙いたい奴だけでいい」
男子後方の席から、ヤジが飛んだ。
「そんなこと言って、一人も集まらないんじゃないの? 頭下げろよ! いつもみたいにお願いします、仲間になってくださ~いって!」
同じテイマーだからと司書長がリストに載せた奴。名前はニックだ。気に食わない、絶対にその顔忘れないからな!
「お前には絶対に頼まない! 仲間同士助け合って平等なのがチームだろ。興味本位で集まる人間ばかりなら、俺は別に一人だっていいんだ。それでもって全員叩き潰すからな」
すると一人の少女、ジェシカが挙手した。
銀色の髪と鋭い瞳は冷たい印象があるが、行動力があって、せっかちだ。質問や意見があれば、言わずにいられない。
「そちらから呼んでおいて、叩き潰すなんて。司書長がせっかく声をかけて集まったみなさんに、失礼ではありませんか」
「そこは謝ろう。けれど俺の決意はそういうことだよ」
「もう一点疑問があります。弱い者は不必要ということでしょうか」
「君の弱いという認識は腕力や魔力だけの問題?」
「いいえ。違います。剣が強くて魔法が使えたとしても、何かしら問題を抱えていて戦えない人間もいるということです」
ハルトは微笑む。
「個々の問題には言及しない。ただここに集まった人間は戦えない状況でも、戦おうという意思があるものだと思っている。第一に俺だって訳ありだから、みんな平等だ。そこはお互いの思いやりだと思う。
このお茶会を開くことを公表した時、多くの生徒が最劣の俺のチームに入るヤツなんていないと馬鹿にした。でもこうして多くの人が集まった。皆さんの中には悔しい想いを抱いて、ここにリベンジしに来た人もいるだろう。
せっかくの機会だから無駄にしたくない。“みんなで優勝目指して頑張ろう!”と掛け声だけで終わせたりしない。それでは何も変わらないからね。
俺は最善を尽くす。いつものような甘い顔と態度は捨てる。本番まで、俺は厳しく物言いをすることだろう。勝ちたいからだ。心しておくように!」
ニックはミートパイを食べながら笑った。
「最劣に強くしてもらおうだなんて、誰も思ったりしねぇよ。いっそのこと“チーム下剋上”をやめて、“チーム訳アリ”にしたらいいんじゃね?」
「食べながらお話すると、喉に詰まりますよ?」
ハルトの予告通りにニックは苦しみだして紅茶をガブ飲みする。魔力を使ったつもりはないが、無意識にやってしまったとしたら、死なないだけ彼は幸運だ。
「たくさん食べたなら、もう用はないでしょう。お帰りください」
「せっかく集まってやったのに、邪魔者は帰れってか!」
「集まってやった? そういう高飛車なところが君の欠点で、嫌われたんじゃないの?」
クスクスと誰かが笑った。
「うるさい!」
「明日の夕方、俺の家の前に集合したメンバーに改めて話をしよう。もし人数が多いなら相応のテストを受けてもらうから、そういう恰好で集まるように」
ジェシカは立ち上がった。
「なによ! プーのくせに偉そうだこと!!」




