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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
4 マグワイア
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新しい剣

 夕方、キンタが魔の森に入ろうとすると、門番蛙がいた。


 ゲコ! ゲココゲコッコ!(! また来やがったな!)

「フレイムバースト!」


 ゲコ!(危!)

 蛙の大ジャンプ蹴りが炸裂する。


 ベッキッ!

 激しいキックで隣の木が完全に折れた。


 ゲコ?(あれ?)


「お前さぁ! ハルトに使役されてんだろ」

「ッゲッコ!(ギクッ)」


「ハルトが言ってた。使役するモンスターより主は強くなくちゃいけない。だから俺はまずお前を倒す!」



 その頃、ハルトはログハウスでミートパイの具を炒めていた。

 人を集めるにはまず、美味しい料理。そして魅力的な話だ。雲母司書長の誘いに何人集まるかは分からないが、かなり期待しているし、たっぷりもてなせば良い結果が出るはず。


 ジェットがどろどろになって帰ってきた。

「いやぁ、参った」

「どこ行ってきたの!?」


「遺跡だ」

 ジェットは含み笑いをした。


「遺跡の攻略は進んだのか?」

「マグワイアの件があるから、ずっと行ってないよ」


「司書長に仮面のことを聞かなかったのか?」

「聞いたよ。マラ族の仮面だって言って……」


 ハルトは外の気配が気になり、遠くを見た。蛙の合唱が切なく聞こえる。


 ”え? キンタに負けたの?”


 カエルから通信だ。


 ”うんうん。仕方ないよ、いくら君が水と大地の属性があるからって、あっちは炎剣だしね~。もう、そんなに落ち込むなよ~。よくやった”


 ハルトはキンタが心配だ。蛙程度に最初から炎剣に頼っているようでは、後がもたない。


 ――何で満月の日に魔の森に行くんだよ。もう少し頭使えよな……みんなお祭り騒ぎしているのに、水差したら、本気で怒るじゃないか。


「お風呂湧いてるから」

「お、さすがだな」


 とりあえず、ジェットを全裸にさせて風呂に直行させる。洗濯物をまとめながら、手早く料理を再開する。炒めたミートパイの具は荒熱を取っておくが、問題はパイ生地だ。今日中にやっておきたかったが、時間が足りない。


「仕方ない。粉からはやめて冷凍パイ生地を使おう。スコーンも手抜きするしかないな」


 積み重なったボウルがガラガラと床に落ちた。


 ――窓の外!


 急いで外を見ると、弾丸のように魔力の塊が森へ突っ込んでいく。


 見習い勇者など比にならない実力だ。森の入り口にいるモンスターはひとたまりもないだろう。ハルトの瞳が青白く光を放つ。マナの地下脈を通して、緊急連絡網を広げる。


 “総員退避!!”


 指示を出してすぐ、森で爆発音がした。


「無駄に殺しやがって」

 ちょっとムカついた。俺の領域でキンタを襲うつもりか?


 ハルトはエプロンを脱ぎ捨て、くるりと手首を捻ると短剣を手にした。カッとなっていて、そのままでかけようとした時、ジェットが風呂から顔を出した。


「出かけるのか?」

 さすが元勇者。魔力感知は鋭い。


 ハルトは三歩進んで五歩下がる。

「うん。散歩」


 フードマントを羽織ると仮面があったことを思いだす。

「完璧!」


 ゆらり、幽霊のようだ。音ひとつないまま、その姿が消えた。


 ジェットは苦笑いをした。短剣と仮面を持って散歩?

「もう少し、嘘のつき方を勉強させるべきだな」


 ※    ※    ※


 森の入り口に立つと、一本の道がまっすぐに出来上がっていた。派手な剣戟で森の木々を倒し、燃やしている。道幅二メートルの距離百メートル。


 これは難しい判断だ。

 それで精一杯だったのならハズレ。最小限に抑えたのなら、大当たりだ。


「ウィンディア」

 翡翠色の鳥が現れ、ハルトを乗せて森の上空を飛ぶ。


 ハルトは苦笑いだ。魔力が二つ、ひとつは燃えるような炎の色だが、疲れて弱っている。これはキンタに違いない。


 “赤い方は殺すな、門番蛙に回収させる。後から来た侵入者には気をつけろ。何が目的か分からないぞ”


「とにかくお手並み拝見するしかないな」


 侵入者が慌ててしまうような巨大モンスターを向かわせた。角のある熊と、キングサーベルタイガー。この二匹に囲まれたら普通の勇者でも怖気づくだろう。


 巨大モンスター二匹はさっそくターゲットを発見したようですでに交戦状態に入った。ハルトは近くに降りて、じっくり茂みから観察することにした。動きは早く、茂みの中だけあってなかなか顔と正体が掴めない


 しばらく歩んで、異変がおきた。

「!」


 音も匂いも気配もなく、そして地面もなくなっている。


 ――UP!


 気持ちは呪文を唱えたけれど、口も魔力集中も間に合わなかった。


 もう足が別の空間にズップリ入っている。空間をひと繋ぎにするのは、ずるい!

 俺だって空間魔法を使いたいのに、ずるい!!


 落ちた場所が悪くて木に串刺しとか、もの凄く深い土の中だったらどうしよう。水の中も嫌だ。虫だらけの洞穴とか最悪だし!!


 ちょっと安心した。上空の冷たい空気だ。


 いきなり落ちて、空が見えているのは問題だが、命の危険はない。相変わらず空には結界があって、オーロラのように輝いている。


「せっかく移動するなら、外だったらよかったのに」


 重力魔法でゆっくり降り、平らな石の屋根に到着した。苔や草の生えた古い石で、周りは魔の森だ。

「遺跡の上か」

 かなり遠くまで飛ばされたようだ。


 綺麗な星空を見ながら念じて唸った。

 交戦状態にならなかったのは良いが、偵察が台無しだ。


 ――シェラ、君なのかい?


 “一翔、どうしたの。どうして怒っているの?”

 ――今なにしてるの?


 しばらく返答がなかった。

 “お風呂です”


 想像してしまって、赤面した。


 ――どうもお邪魔しました。


 ハルトは周囲を警戒する。

 またどこかに飛ばされてはたまらない。先に術者の気配を見つけるのが先だが、満月のせいで魔力の波長が乱されて、いつもより把握が難しい。


 ――思いきって飛んじゃおうかな


 意識を魔力にのせて放てば確実に分かる。だが身体が無防備になるので、その間に刺されでもしたら、人生がエンドだ。そういう時は陽翔に協力してもらい、身体を守ってもらうのが絶対だ。


 ――まぁ、それほど重要でもないしな


「ウィンディア」

 再び空の上から魔力感知で侵入者を探しつつ、キンタのもとへ向かう。


「!」

 また邪魔が入った。進行方向がキラキラと輝きだす。

「避けろ」


 ウィンディアはリリーよりも素早さで劣るから、どこまで実戦で通用するか疑問だ。それに人間との実戦経験が無い。

 魔力を纏った矢が自在に方向を変えながら飛んでくる。魔力で動く矢ならば、魔力を制限することで落下する。しかし矢がマントや羽根をかすった。


「あっぶねぇ」

 魔力だけに気を取られていたら、魔力の無い矢を混ぜてきた。戦闘はこれからだ。ウィンディアには荷が重い。矢の方向で敵の位置は特定できたから地上戦に持ち込もう。


 飛び降りて森に着地すると同時に剣が振り下ろされる。

「だからそれ、ずるいって!!」


 三度の攻撃はジェットより遅い。他に攻撃も気配もないから、相手は一人だけなら問題ない。攻撃を避けつつ背後に周り、ギリギリと首を絞めた。背中に手をあて、マナコアからの魔力の流れを乱して遮断する。

「ぐは!」


 ――5・4・3!


 あと2秒で完璧に封じられたのに蹴りでバランスを崩された。敵は拳と短刀で攻めるが、段違いに早くなった。魔力が滞るのを感じて、すぐに体技中心に切り替えてきた。


 ――魔力ナシでも余裕か


 真正面から戦う勇者の動きよりも、攻撃が多彩。短剣を振り回す動きは変則的で独特だ。裏拳やしびれ薬の匂いがして、正統派の剣士というよりは戦って勝つことが重要なようだ。

 森の茂みを利用して隠れ、相手の顔すら分からない。


 ひとつ確かなのは、さほど殺気を感じない。

 矢も短剣も動きを封じる動き。本気で殺し合いをするなら、もっと急所を狙えるはずだ。


 ハルトは焦れた。こうしている間でもキンタが心配だ。

「何の用?」


 すると体格が腕や脚が見えた。堂々と正面きって戦うつもりか。

『お前の動き、うちの者ではないな。誰だ』


 全身が見えると木彫りの仮面を被っていた。しかもそっちのほうが恰好イイ仮面だ。間の抜けた仮面のチビとは全然違う。


 ――何これ、流行ってんの?


「名乗るわけないでしょ。仮面つける理由は世界共通だと思うけど?」


『その面を使って、悪事を働くことは許さん!!』

 いきなり激怒して、意味が分からない。しかも今度は本気だ。


 三度避けたがどれもギリギリだ。身長が倍ほどあるからリーチが足りない。ハンデがきつすぎる。足が気になって視線が落ちた。その隙に思いきり腹を殴られてぶっ飛ばされた。


 寝転がって太腿を抑えた。針のようなものが刺さっている。

 ――くそ。何の毒だ。シェラに解毒を頼まないと……


 朦朧としてきた。草を踏む音が近づいてくる。

「まだ殺さない」


 仮面に手を伸ばしてくる。必死に振り払う手が力尽きた。

 男が軽く蹴り、気絶しているかどうか確認する。


 だらりとした手足は短く華奢で、戦っていた時の筋力が出るはずがない細さだ。

「ただのガキじゃないか。生徒にしちゃ強いが……」


 男の脇で黄金色の光が炸裂し、視線が逸れた。


 ――完全に眠っているのに?


 同時に激しく後方に引っ張られ、木をなぎ倒し、岩に激突しても身体が潰れるように苦しい。苦しみの中でも、目を閉じまいと必死になっていると、笑った仮面がすぐ鼻先にあった。


 ふわりと宙に浮いたまま、仮面の向こうから睨んでいる。黄金色の瞳が神々しく、そして威圧された。絶対的な死の恐怖に身体が震えた。


 男は咄嗟に後方に魔法陣を展開し、空間魔法で姿を消した。


「よかった、逃げてくれて……」

 陽翔は崩れるように地面に座った。今のところ三分が限界だ。

「もう、兄さんったら」


 陽翔はリリーを呼び、柔らかな羽毛の中で再び眠りにつく。


 自分が肉体を借りた時の身体の負担。それがどれほど一翔の寿命を縮めていたかなど、以前は考えたこともなかった。魂の結合をして悟った結論がこれだ。


 ――これは一翔の人生なんだ。俺は見守らせてもらうよ



 ※    ※    ※


 キンタの目標はカエデが倒した蛇を倒して、無事に戻ってくること。前回と同じで、行きは簡単だ。新しい武器のおかげで、蛇も難なく倒した。


 蛇の牙などアイテム回収をしていると、眩暈がした。

「――あれ?」


 指先がダブって、頭が痛くなってくる。

「――う」

 しばらく感じたことがなかったが、魔力切れの前兆だ。

「魔力に頼りすぎたか」


 意識が朦朧としながら剣を振った。

 とにかく魔力は使わないことにして、魔力の回復を待ちつつ、一歩でも学校に向かって帰ること。魔力回復薬はすぐに使い果たし、大技が出せなくなった。


 魔力が完全に尽きればモンスターに手足を千切られ、はらわたを貪られる。息の音が止まるのと、痛みで気を失うのではどちらが早いのか。


「畜生」

 ゆらゆらと前だけを進む。

 あと何回戦えば……帰れる?


 そう思って気味の悪い笑みが出た。

 そういえば、安心して帰る場所などどこにも無かった。どこで死んだとしても同じこと。


 意識を失って、地面に倒れた。


 生暖かくて、ぬるぬるして気持ち悪いし、びよーん、だ。重力加速が半分、残りの半分はひどく内臓が浮く。


 目を開けると真っ暗だ。

「な……何!?」

 慌てたが、紐のようなもので腕と胴を縛られて動けない。



『ゲキョッ!』

 しばらくして、大ガマ蛙の悲鳴と共に、キンタは吐き出された。(あとでジュンタにその時のことを話したら、ガマ口からキンが出たと笑った)



 目の前で白く人影が浮かんだ。

「生きていてよかった」


 キンタは頷いた。

「ありがとうございます、クラウドさん」


 抱き上げて連れ帰ろうとしたが、クラウドは困った顔をした。

「君、すごい涎の匂いだよ」


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