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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
4 マグワイア
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マラの仮面

「ところでエストワールは以前からマグワイアを疑っていたようだぞ」

 雲母は引き出しを開け、資料を手渡した。


「マグワイアが工房に赴任してすぐに工房の経費が増えたので、私に捜査依頼が来たのだ。その結果、マグワイアは工房で使う材料の仕入を特定の業者に絞り、高額で取引していた。そして仕入先から多額の資金を受け取っているところまでは判明していた。


 問題はその資金がどこに流れているか、調査中だった。想像でしかないが、マグワイアがアブソルティスならば、ライカに渡っていたと考えるのが筋だろう。マグワイアが殺されたのは、その過程でのいざこざかもしれん。旨味を知った誰かに邪魔をされたか、裏切りにあって消されたか。どちらにしても魔の森で見かけた王宮神官というのは偽者に違いないだろう」


「正体を突き止めなければなりませんね」


「結界内に密かに侵入できる者で、それ以外の可能性があるとすれば騎士級の貴族と近衛だな。国王が魔法で直接、魔の森に転送することができる」


「近衛?」

「王直属の部隊で、王の身柄を守ることだけに専念している者たちだ」


「それはナイでしょう! 王を守る人々が森に入る理由が無い」


「騎士級の貴族の一択だな。奴らは常に力を欲しているし、最近、悪い噂を聞いたぞ」


「噂?」

「ある村を全滅させて、金品を強奪したという噂だ」


「村にある金品なんて大したものではないでしょうに」

「えらいお宝だったんだろうよ」


 ※    ※    ※


「お宝といえば、ジェットにこれをもらいました」


 どこかの民族が作った木彫りの仮面だ。ツノがあり、口は裂けて牙がある。決して好印象ではないが、怖いわりにどこか間が抜けており、憎めない。


「どこの国のお土産か? 否! ……これは珍品。マラ族の仮面だ」


「マラ族っておとぎ話に出てくる村ですよね。鬼の村で、勇者が退治する話とかでは敵役で使われたりして……違うんですか?」


 雲母はニヤニヤと笑って、思わせぶりだ。

「ジェットは何と言っていた?」


「いや、特には……お土産としか聞いていません。そういえば調べると面白いことが分かるって言っていました。魔法効果が付属しているところまでは理解できたのですが、それ以上は詳しく分からなくて……」


 キララの触覚がピンピン動く。仮面の魔法術式を読んでいる。


「付属効果はそれほどでもない。術式の中に呪いが含まれている。ジェットが匂わせたのは、この呪いのことだろう。マーラー神話は知っているか?」


「高潔で最強で人々を率いたマーラー神は、神の子として勇者をこの世界へ送り込む。そうしてジータ国を今でも守っているというのが定説ですよね。勇者召喚の根拠となる神話です」


「この呪いはマーラー神を完全に否定する。なぜならマラ族を歴史から消し去るためにマーラー神話が作られたからだ。王宮に都合が良いように、鬼として敵にされたが、マラ族は鬼などではなく人間だ。


 禁書には魔法に長けた戦闘民族だったと記されている。千年前、マラ族の勇者エギスガルドはジータ国の王となる者と一緒に戦った史実がある。


 呪いはその頃のものだ。王の裏切りによってエギスガルドは殺され、美しい友情が断たれた。その時の強い念が呪いとなって、仮面の術式に組み込まれておる」


「呪いですか~。嫌だなぁ。ジメッとして、根暗ですね」

「王は友情よりも何を選んだか分かるか」


「そんなの権力に決まっているでしょう」

「だあああ! 簡単に答えを言うな! つまり利用されるだけ利用され、マラ族は絶滅した。もう千年も前の話だ」


 ハルトは眉を寄せる。

「? それ、ちょっとおかしくないですか?」


 キララは仁王立ちして、激怒した。

「だから遅い!! 深く考えろと常々言っておろうが!! お土産かと聞いた時点で気付くべきだ」


「そうでした。千年前の木の仮面が、お土産品と間違うほど新品のはずがないですよね。司書長が嘘を言っているわけないとすると……マラ族は存在している?」


「わはは! その通り。ごく少数だが平民として隠れ住んでいるという噂だ。ただし広い国を探し尽くすのは容易なことではない。隠された存在だから、なおさらだ」


「なぜ隠すのでしょう。マラ族だという証は仮面だけ?」

「一族にしか使えない特殊魔法が存在する。それが一番の証拠だ」

「特殊な魔法?」


「それを素直に答えては、マラ族の存在理由を答えているのと同じ。当ててみよ」


「極めてレアで真似できないとすると、誰でも使える属性魔法の進化とは考えにくい。重力魔法・時間魔法は極めてレアな魔法というほどでもない。昔からあって、真似できないほど強力な魔法……空間魔法だ」


「正解! 簡単にあておって、少しは面白くしろ」

「マラ族は平民なんですよね。それで空間魔法って、シェヘラザールが?」


 司書長キララは頷く。

「あの者は人質なのだ。村人の命と引き換えに聖女と名乗り、勇者を召喚している。それが彼女なりに村を守る方法なのだ。だから勇者を召喚しているからといって、シェヘラザールのことをあまり恨まないでおくれよ」


 ハルトは頭を掻いた。

 恨むはずなどない。陽翔も俺もシェヘラザールのことが大好きなのだから。


 こうして出会えただけで、嬉しいのが本音だ。


 ※    ※    ※


 カエデは教室に戻り、ため息をついた。


 今日もハルトを探しているが、捕まえることができなかった。

 選抜試合でハルトの正体をばらすようなことをしてしまい、もう一度謝っておきたいのに、チャンスがもらえない。


 自分の席に座ると、ジュンタが新しい剣を自慢し、ジュンタも喜んでいる。

「これ、すっごくいい! 魔力なんて筋力と違って簡単に増えるもんじゃないし、魔法剣ならキンタにぴったりだ。火炎剣とか威力倍増だな。どれくれい上がるの?」


「驚くなよ。四倍……いや五倍だ!」

「五倍!? すっげぇ……どこで手にいれたんだ?」

「それは言えない」


「何だよ、もったいぶるなよ! ジェネシスのレギュラーになったからって秘密にするのかよ~」

「それとこれとは別だろ。新しい武器で出発しようと思ってさ……カエデ、どうしたんだ?」


 いつものカエデにしては勢いがなく、教室の端で眺めていた。

「あんたたち、元気で羨ましいわ」


 ジュンタはカエデの隣に座って談笑するが、微笑みがぎこちない。

「どうしたんだ?」

「クラウドに怒られちゃって」


 キンタはぞっとする。

「クラウドさんでも怒るのか? っていうか、何を言ったんだよ」

「ハルトのこと、あれやこれやと聞いてくるものだから断ったの」


 ジュンタは呆れる。

「またハルトかよ。キンタが勝ったんだし!」

 キンタは無言だ。


 試合結果には満足していない。フレイムバーストで威力を見せつけた。圧していたのは事実だ。でも最劣なのに、一発も当たらなかった。マキシマムフレイムを放つ直前で降参されたけれど、全然怖がっていなかった。


 周囲の生徒の視線が気になる。おこぼれでレギュラーにしてもらったんじゃない。

 ハルトは弱い。それはみんなが知っていることじゃないか。


 じめじめとした笑いでレインが入ってきた。


 召喚されてきたばかりでジェネシスに入った秀才である。全体攻撃の強みを生かし、キンタを追い越してレギュラーメンバーになった。しっとりとした長髪とジメジメとした言動から、チームで雨のニックネームを得ている。


「実力があるヤツならすぐに分かる。どっちがどれだけ全力出していたか程度のことはな?」

 ジュンタがかつてなく怒った。

「キンタが勝ったんだぞ!」


「ガキは黙ってろ」

 ジュンタが批難ゴウゴウのまま、追い出された。


 もう一人、ニワが現れて教壇の前に立つ。

「じゃあ、今からジェネシスの作戦会議をはじめまーす。クラウドさん欠席だけど、決めちまわないとな~。部外者は出て行ってくださ~い」


「キミも。早く出て行ってくれ」

 キンタの前でレインはそう言った。


「人に言えないようなことをして勇者として恥ずかしくないか。どこの闇ルートか知らんが、モノに頼らなければ、勝てないなら、所詮それが君の実力なんだよ」


 キンタは爆発したような怒りを内側に秘めたまま、歩きだした。

 カエデが立ち上がると、キンタは笑った。

「いいんだ。認めてもらえないことには、ここにいても仕方ない。チームの輪は乱したくない。おい雨、使いこなして、慣れた武器だと証明できれば問題ないんだよな」


 レインは鼻で笑う。

「そうだよ」


 教室の外で、キンタはジュンタを振り払った。

「ついてくるな」




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