選抜試合
キンタがジュンタを探しに行こうとすると、カエデが走って突っ込んできた。
「そこにいたのね!」
その後をジェネシスのメンバーが追いついてくる。大人数でどうしたことかとハルトは惑うが、キンタは喜んだ。まっすぐこちらに向かって歩いてくる。
ジェネシスのメンバーが全員揃うと、すごい圧力を感じる。ガチガチに緊張していると、クラウドが言った。
「マサトが卒業することになった。一人、欠員が出る」
ジェネシスのメンバーは揃って顔を見合わせた。
「いいんですか!? 俺で!」
キンタは狂喜乱舞する。クラウドの視線がキンタを通り越す。
「カエデの推薦なんだが……消えたな」
キンタが怒りの炎を爆発させながら、後方のハルトを探す。
「どういうことだ?」
クラウドはジェネシスのメンバーを見まわした。
「今の動きを察知できた者はいるか?」
全員が首を振っている。ハルトが断ってしまうことや、逃げることはカエデが推薦した時から予測していた。その上で取り囲むために全員を連れてきたというのに、この始末だ。
クラウドは苦笑いする。
「キンタ、ハルトを捕まえてきたら、その時は君をメンバーにしよう」
キンタは余裕で笑う。
「お安い御用で」
そしてキンタの挑戦が始まった。
※ ※ ※
ハルトの魔力など微弱なものだ。体力は人並みで、頭はRBCに長くいるせいか、知識だけはある。本気で捕まえようとすればできる。ランキング上位にいるキンタがハルトに負けるはずがない。
なのにハルトと出会わない、見つからない。あっという間に数日が過ぎた。
キンタは授業が終わって振り返る。すると出て行った後だ。昼休みを狙おうものなら厨房には関係者以外立ち入り禁止。待ち伏せしては逃げられ、惨敗だ。ログハウスで待ち伏せしようものなら、いつまで経っても帰ってこないでこっちが寝不足になる。
逃げるのが上手い。
「ムカつく」
それでも長い付き合いだから、ハルトがどこで休憩するか知っている。午後の最初の授業はいつも遅刻で、食堂の片づけと遅めのランチタイムだ。
息も魔力も存在感も全部引っ込めて、そっと食堂に侵入する。
――今度こそ捕まえてやるぜ!
すると話し声が聞こえた。
「いつもすまないね」
「少しですみません。最近狩りにいけなくて。だから今日はオムライスです、リズちゃん好きでしたよね」
キンタは聞き耳を立てる。ハルトは本当に魔の森に入って狩りをしているようだ。
「リオールさんも好きなメニューがあったら言ってくださいね」
「ありがとう。考えておくよ。ところで狩りに行けないってどういうことだい? また恐ろしいモンスターが出たとか?」
「違いますよ。ウルサイ生徒に監視されているんです。だから森に行くのを控えています。間違って森に迷い込んだら怪我しちゃいますからね」
「警告してあげようか? こういう時神官の役職は役に立つぞ。どんな子なんだ?」
「キンタといいます。金髪で情熱的な子で」
「それは珍しい。」
「そうなんですよ。この世界に召喚されたショックで髪や瞳の色が変化することはよくあるそうなんです。俺も昔は金髪だったんですよ」
「でも君の瞳は綺麗な青だ。生まれた時からそうなのかい?」
「はい、なんか照れる~。あまり見つめないでください~」
「瞳はマナの色を表すそうだ。君の深い青はマナそのものだ。君が強いのも……」
ハルトは気配を察してリオールに弁当を押しつける。
「わかった。ありがとう」
リオールが去ったのを確認すると、ハルトはため息まじりにキンタを呼び出した。
「いつから聞いてたんだ?」
「悪かったな、ウルサイ生徒で!」
ハルトは不機嫌な瞳で睨んだ。まぁ待ち伏せしていたことは分かっていたけれども、ここはひとつ演技力で勝負だ。
「いい加減にしろよ!」
――ハルトが怒った!
キンタは鳥肌が立つほど、恐怖した。
「だったら俺に捕まれよ。それで俺はジェネシスに入れるんだから」
「意味わからない。俺は最劣だぞ?」
「だからだ。最低の実力の人間を捕まえられないとしたら、俺の実力が無いってことになる!」
「キンタはジェネシスのメンバーなりたいのか?」
「当たり前だろ。なんでそんな当然なことを聞く」
「キンタなら実力あるじゃないか。自分でチーム作れるだろ?」
「クラウドさんに認められなきゃ嬉しくない」
「クラウドの下がそんなにいいか? 俺はキンタがチーム作ったほうが自由でいいと思う。活気があって良いチームができると思うんだ」
「俺の好みの問題だろ。とにかく俺に捕まれ!」
完全に合意したわけではなかった。しかし利害は完全に一致した。キンタの監視が終わるなら、もう何でもいい。いい加減にしてくれ。
※ ※ ※
キンタに協力して、連れ出された先は体育館だった。
魔法込みで試合ができるほど頑丈に作られ、二階には観客用の席もある。
でもキンタと共に、体育館の中央で晒しものになるのは計算外だ。
たくさんの生徒が注目している。館内の客席だけでなく、両サイドに建てられた校舎の教室、そしてエストワールの部屋からも視線を感じる。
RBCのトップチームのメンバー決めで試合をする。この噂が広まるのは早かった。ハルトは強張った笑いしか出ない。
――これはまずいだろ!
とにかくここで最劣の生徒が立っているのはおかしい。
弱者を痛めつけるのが新しいジェネシスの方針かと憤慨する者もいれば、弱い勇者でも戦える気概をみせろという生徒もいる。
ハルトから少し離れた位置で中堅幹部のニワが呟く。
「野次馬どもめ」
ジェネシスのメンバーは勢揃いし、堂々として眩しいくらいだ。キンタですら、うっとりして正視できていない。
ハルトは焦れた。
「ねぇ、キンタに連れてこられたんだから、キンタがメンバー入りってことで良いでしょう!」
クラウドは鼻で笑った。細い紐一本で、両腕を縛られているだけなんてあり得ない。キンタが本気で戦ったのなら、ハルトがボコボコに殴られ、引きずられてきてもおかしくない。
「君にそんな話をした覚えはない。捕まえたのではなく、二人で仲良く示し合わせてここに来たのだろう!」
カエデはため息が漏れる。
――二人とも、嘘つくのが下手なのね。
「キンタの実力ではないなら、今度こそ全力を見せてもおう! 二人で戦って決着をつけろ。ジェネシス全員が見届けてやる!」
ハルトは青くなるばかりだ。
――うわ~。嫌な展開になってきた!
カエデがハルトの腕の縄を解いた時、ハルトは小声で囁く。
「何で喋ったんだよ」
「ごめん。クラウドもハルトが強いこと知ってるって、嘘つかれちゃって。誘導尋問されちゃったの」
「もう。仕方ないなぁ。気を付けてよ」
「フレイムバースト!」
キンタは魔法剣から派手に炎を出し、歓声が上がった。ハルトは素手で拳を構えた。
「行くぞぉ!」
キンタの炎を纏った剣が振り下ろされる。剣筋は良い。炎の量も質もいい。ただ、ちょっと遅いだけだ。
ハルトは避け続けると、クラウドが叫んだ。
「早く攻撃したまえ、君の特技は何だ!」
「特にないです? テイマーですもん」
動いて会話ができるほどハルトは余裕で、キンタは苛立った。
「誰とやってんだよ!」
クラウドは埒が明かないと踏んだ。すでに結果は明らかだ。
「全力でと言ったはずだ。使役モンスターを呼びたまえ。キンタ、君ができる一番強い攻撃をしろ」
キンタは首を振る。
「できません!」
一番強い攻撃といったら、火炎剣の最上位魔法“マキシマムフレイム”だ。避けるべき手段も障害物も無い状態では、当たらなくても逃げきれない。
「そんなことをしたら死んじゃいますよ!! それはあまりにも……」
ハルトはそっと後退したが、大柄なマサトの体格が壁になり、退路を塞がれた。
「俺は君に譲りたい。優しすぎる性格なのは知っているが、ここはひとつ勇気を出して戦ってくれないか?」
「俺は優しくないですよ? むしろ我儘な方です」
ハルトはマサトを避けたが、その先にはカエデとニワがいた。
「ハルトくん、一緒に戦おうよ!」
――よそ見している間に、チームに囲まれた!
クラウドは顔が良いうえに、抜かりない男だった。
「見くびるな。前のようには逃がさない。まぁ逃げたら逃げたで、ジェネシス全員よりも強いという証明になる」
「皆さんで俺を殺す気ですか? まいったなぁ」
「キンタ、友人だからといって手を抜くようでは認めんぞ!」
キンタは困りながらも剣から炎を噴き出させる。
「プー、俺もちょっと疑いたくなった。はっきりさせよう。ジェネシスのメンバーが認めるってことは、きっと大丈夫なんだよな」
キンタの剣に魔力が集中する。すごい炎の上がりように物見遊山で見物していた人々も逃げ始める。このままでは体育館だけなく両隣の校舎まで破壊されそうだ。
「マキシマムーーフレ……!!」
ハルトは両手を上げた。
「降参! 降参します。キンタに勝ったことなんてない!! カエデが夢でもみたんだろ。勘違いも甚だしい。こんなことで怪我したくないよ。――弱い者いじめなんて、君たちはそれでも勇者のはしくれか!」
言ってやった。チームジェネシスの存在意義にも関わることだ。この決めゼリフには逆らえないだろう!
クラウドは笑った。
「だから本当に弱いのか確かめているんだ。皆も知りたいことだろう。一人の少年が正体と実力を隠しているとしたら、それは卑怯者以外の何者でもない。
ハンデがありすぎるというなら、こちらの剣を使おうじゃないか」
そして保護布に包まれた剣をキンタに渡している。
ハルトは心の奥底が、ザワッとした。剣を示す指が震える。
「何それ」
ソウルブレイカーだ。
短剣より少し長いが、殺傷能力はゼロに等しい。薙いでも斬っても痣ができる程度の練習用の剣だ。付属効果として当たれば確実に気絶するが、それは健康な魂の持ち主の場合による。通称“魂砕きの剣”
――最悪だ!
「誰の差し金だ」
クラウドは肌が泡立つ。
「どうでも……いいだろう」
青い瞳に睨まれるうちに、その瞳から目を離せなくなった。
「エストワールなのか」
「――いや、違う……」
誰も気付いていない。正面のハルトの青い瞳に惹かれていく。
「マグワイア……」
素直に言葉が漏れ出た。それが正しい選択のはず。なぜ?
――いいんだ、彼は素敵だからな。
クラウドが我に返った時、ハルトはキンタの肩を叩いていた。
「急用ができた。この勝負、お前の勝ちだ」
“リリー”
風が吹いてハルトは消えた。
誰もそのことを咎めもせず、おかしいとも思わない。キンタの勝利が当然だと納得している。まるで洗脳されたように、ハルトの失態を嗤っている。
エストワールは驚き、ジェットに質問した。
「どうしたのです? 何があったのでしょう」
ジェットは答えず、厳しい顔のまま外を見ている。
ハルトの無詠唱、魅了の呪文アイコンタクトだ。意思が通じるものなら何でも相手を味方にしていくが、呪文が強力になれば洗脳に近くなる。過去に何人もの魔王と戦ってきたが戦力で圧すよりも、精神攻撃呪文の方が厄介だ。下手をすると戦う前に味方につけてしまう。どれほど魔力量なのか想像がつかない。たった一人でも人の心を動かすのは難しいというのに、同時に何百人以上を操ったのか。
ジェットはエストワールにも警戒した。遠方にいたせいか、術にかかった様子はなかった。それともハルトの術を弾いたのか?
すぐに部屋の扉がノックされ、ハルトが入ってくる。
執務室にほぼ無断で入室したり、暗い顔で自分の仕事を押しとおすなど、初めてのことだ。
「ジェット、一緒に来てくれ」
「やはり君は……」
エストワールを黙らせるほど、ハルトの瞳は深刻だ。
「エストワール先生、マグワイアさんはどうしていらっしゃいますか」
「彼は工房の事務員ですね。ここ数日はお休みをしているようですが、彼に何の用ですか」
「魔の森にいます。俺の使役モンスターが発見しましたが、すでにお亡くなりになっているようです。至急、同行お願いします」
それは事件の始まりだった。




