キンタとジュンタ
キンタとジュンタはたいてい仲が良い。だから二人が一緒にいるのをみていると、ハルトは羨ましいし、ずっと仲の良い二人でいてもらいたい。
俺だって兄弟仲良く一緒にいたい。以前のように陽翔を感じたい。そして俺の聖女は青髪だ。
今は二人を恋しく思うだけで、ずっと逢えていない。シェヘラザールはそれが合体の後遺症だと教えてくれた。
俺には時間が必要だ。ボロボロでつぎはぎだらけの魂がひとつとなって、全てが一つの球のように美しく輝く日は遠い。
独りぼっちでRBCに5年だ。もう寂しくて、死んでしまいそう……。
――はは、ウサギか? 俺は。
俺はニヤリと笑いながら、涎を拭いた。
きっといつか。希望がほしけりゃ笑顔を出せ。
俺はリハビリのように、己心の闇の中に落ちて眠る。
陽翔の面影と存在、黄金色の魂を求めて……。
遠回りでも、絶対に幸せになろうぜ、陽翔。
※ ※ ※
バンッ!
キンタが八つ当たりをして、庭の木を蹴った。
その音で、ハルトは眠りから醒めた。
バキバキバキッ!
「?」
ふんわりとした浮遊感覚が気持ち良い。
――いやこれ、落ちてるだろ!
隣の木が倒木してドミノ倒しだ。ハルトは襲いかかる隣の木を蹴り、安全確保してから無様に落ちてみせた。
派手な事故現場に思いもよらず人が降ってきた。とにかく二人とも驚いている。
「痛……無防備なとこ狙いやがって危ないじゃないか。昼寝の邪魔をするなよ」
ハルトは地面にあぐらをかいて座る。キンタたちには早く去ってほしい。
ジュンタは二度驚いていた。何という俊敏さだ。しかし考え直す。そんなことあり得ない。たまたま木の倒れる方向と足の振った方向が同じだっただけだ。
キンタは隣で疑っていた。
やはり魔の森にいた少年のはハルトだったような気がしてならない。
「腹が立つなら魔の森でやってくれ」
キンタはゾクリとした。一時は死ぬ思いをして戦って、恐ろしい目にあった場所だ。いつもの冗談にしても、今回は現実味がありすぎた。
本気で腹が立った。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
次はハルトを燃やすぞと脅迫めいた勢いで、キンタは魔法だけで倒木を燃やした。
「木と一緒に燃やされたいか! 魔の森の恐ろしさも知らないくせにぬかすな!」
ハルトは眠さに目を擦っている。
「へぇ~、キンタでも魔の森、怖いんだ?」
「当たり前だろ。死ぬかもしれなかったんだぞ」
「じゃあジュンタはもっと怖かったんじゃないかな。キンタがいなかったら、間違いなく死んでたんだから」
キンタは沈黙した。ジュンタは微笑む。
「キンタがいてくれて、本当に助かった! これからもよろしくな!」
二人がデレあって、仲が戻ったのは良い。その反面、ジュンタがキンタに頼りすぎている気がする。
「キンタ、魔法上手になったなぁ」
ハルトは白い灰を指で擦りながら考えている。
「お? 分かるか」
キンタはちょっと嬉しそうだが、ハルトはそれが目的ではない。
「でも魔法だけなら、やっぱり魔法使いのジュンタの方が上手いんじゃないの?」
ハルトはジュンタにもやってみせてくれとお願いする。
ジュンタが詠唱して杖を振ると、木炭のように形が残った。
「――あれ?」
ジュンタは焦った。
「燃え残っちゃったね」
ハルトはわざと念を押した。キンタは得意げに自慢する。
「生の木を燃やすには二種類の方法がある。ひとつはジュンタのように火力に任せて燃やす。これはかなり高温で大火力にしないと形が残りやすい。だから俺は木材から水分を抜き、乾燥させてから燃やしたんだ」
「それが何なんだよ。燃えれば同じだろ」
ジュンタは適当に答えたことにキンタはカッとなる。
「同じじゃねぇよ! 均一に燃えて、燃焼時間がダントツに早い」
「何でそんな面倒なことしなきゃならないんだよ」
「何でって……そうやるもんだと習っただろ」
キンタがチラチラとハルトを見ている。仕方ないからちゃんと説明した。
「防具をつけた人間を完璧に殺すためだ。舐めるような火では致命傷にもならない。殺すなら確実に水分を抜け。そうすればまず反撃できない」
キンタは蒼白な顔になって否定する。
「モンスターの外皮が固い場合を想定しているんだよ。どこで習ったんだ? とにかくこれには水魔法と火魔法のうまい調整が必要なんだぞ。少なくとも二種類の魔法が使わないといけないんだ」
「二種類も? 面倒じゃないか。魔力で圧しきればいいだけだろ。それに唱える時間も短いよ」
ジュンタの言うことももっともだ。キンタは反論でできない。
ハルトはキンタの尻を隠れて突っついた。そんなことだから、まだまだ甘いのだ。
「省エネに越したことはないよ? 小さな魔法二つ使うのは手間がかかるけれど、魔力消費は少なくて済む。魔力が尽きるのは死に直結する。だから癖をつけとかなきゃ。キンタのように、上手に使わないといけないんだよ」
「俺のように……って魔力が少ない例に使うな。プーはもっと魔力少ないだろうが!」
「いいんだよ、俺のことは。魔力が少なくても、生き残るのが何よりも先決だ。いつまでも学校で平和に暮らせるわけじゃない。世間に出たらキンタには頼れないぞ」
「プーに言われたくないよ!」
ジュンタが逆上し、怒りのあまりに飛び出して消えた。
置いてきぼりにされたキンタは驚きを隠せない。
「どうしたんだ? ジュンタのやつ。おいプー、言い過ぎだぞ」
「あぁ、余計なお世話だろうな」
でも死んでもらいたくないのだ。生き残れる可能性がわずかでも、広がればいい。十五歳になったら、ユースで育った子供は嫌でもこの学校から卒業だ。
魔の森ではジュンタが一番に死を実感したことだろう。だからこそ伝えたかった。みんないつか卒業する。その後ジュンタが生き残れるかどうかは、ここでの修練にかかっている。
キンタは腹が立ってきた。
「何か態度デカクね? プーだろ。戦闘経験も無い奴が言うからだぞ」
「俺はテイマーだぞ。戦う必要ないもん」
「モンスターに戦わせおけば良いってか? ズリィよな」
それで気付いた。あの少年はハルトの使い魔だったのかもしれない。
ハルトは笑う。
「飼うモンスターより強いことが証明できないと、懐かないよ」
「プーの使役モンスターって何なんだ?」
「ブラクス」
キンタは笑った。
「それは魔の森のボスだろ! ふざけないで真面目に答えろ」
「誰が教えるかよ。キンタもジュンタのことを考えてやれ。魔の森であんな危険ルートを選ぶなんて酷いぞ。弱者の気持ちが分かってこそ勇者だろ」
「行きたくて入ったわけじゃない。俺たちは隣の簡単コースにいたんだ」
ハルトは沈黙した。そういえば門番蛙から、キンタが侵入したことは連絡がなかった。
「ずいぶんブッ飛ばされたな」
「アホか! 飛ばされる勢いがそんなに強かったらとっくに死んでるだろ」
――まさか空間魔法で?
「誰か見た? 王宮神官とか、あと魔法陣とか!」
「見ていないけど、光は凄かったな。気が付いたらそこにいたんだ。それで何で王宮神官なんだ? 神官で魔法使えるヤツなんているのか?」
ハルトの微笑の意味をキンタは知る由もない。
そういう男を二人知っている。一人はエストワールとリオールだ。けれどリオールの魔力は微弱だし、エストワールはシェヘラザールと親しい。どちらともいえないし、理由も分からない。
それでも疑いだけが残った。




