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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
3 ジェネシス
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ジェネシス

 ハルトは午後の授業はさぼりがちだ。授業で居眠りするのはもちろんのこと、モネを代役にして昼寝したり、保健室で本気で眠ったりする。


 いつものようにユースクラスの校舎の廊下に人影が無いのを確認する。


 三階の窓を開けると、ジェットが植栽した防風林が密集している。いくら勇者見習いでも、高所から落ちれば怪我をする。だから飛び移ろうとしたり、そこで昼寝をしようと考えるのは愚か者だ。


 ハルトは軽々とジャンプして、お昼寝用のハンモックを広げた。午後になるとこの場所は逆光になって、眩しくて誰も気づかないうえに、こちら側からは校舎全体を観察できる。


 一階のジュニアクラスは幼稚園のように賑やかで、教師や生徒の明るい歌声がする。二階は静かで、低学年が真面目に授業をしている。ハルトのいる中学年になると授業時間でも自由の効く生徒が歩いている。


 ――今日も異常なし、だな。


 平和が一番だが、平和は勝手に訪れるものではない。日常の細やかなことに警戒して、戦いの火種を消しているから、平和が保たれる。


 学生寮のシーツ交換や厨房の手伝いや雑用をするのは、どこでも出入りするためだ。そして争いごとが生まれないように努力している。それでもハルトが介入できない部分も多い。


 特にチーム内のいざこざだ。最劣の看板が邪魔をして、弱者は口出しも助けることもできない。


 優秀な生徒なら、中学年になる前にチームから勧誘され、団体で森に入ったり、塔の試練に挑むようになる。ランキングが高いチームには優秀な人材が集まるのでチェックは欠かさない。その中でも一番気になるのがカエデだ。


 十歳でランドセルを背負ったまま召喚されてきた少女は、剣道が上手だった。それから四年修行し、飛びぬけて強くなった。持病持ちでも才能があり、技術も完璧。ユースのトップどころか、RBCの中でもトッププレイヤーだ。


 勇者の塔で窮地に陥った彼女を助けたのは偶然ではない。万が一のことに備えて、塔のモンスターたちから連絡が入ることになっている。こうして密かに、俺はRBCの平和を守っている。


 カエデはその一人に過ぎない。


 確かに可愛くなったことは認めよう。

 緋色の髪からはいい匂いがするし、すらりとした身体は鍛え上げられていても、色香あるボディラインは男子の注目を集めている。


 ――まぁ俺の聖女ほどじゃないけど


 聖女ほどではなくても邪心はあるわけか? 自分に突っ込みを入れて、ちょっと悲しくなる。俺はダメなヤツかもしれない。


 廊下を軽快に走っていくカエデを見ながら、浮気はいけないと固く心に誓うのだった。


 ※    ※    ※


 身が軽いせいか、カエデは癖で廊下を走っている。RBCの最強チーム、ジェネシスのメンバーが追いかけるように続いていく。


「ザ・ジェネシス・オブ・ブレイバー(勇者の起源)。間違いないなぁ~」


 シニアクラスの勇者見習いも織り交ぜた5人がこの学校の代表格だ。


 入れ替わりも早いが、上は三十代ぐらいまでで、一番年下がカエデだ。そこでもカエデの実力は揺るがなかった。戦力の要として、素早い動きで魔法と剣で派手に舞う。ただし腕力だけはいまひとつ欲しいところだ。


 盾役のマサト。大きな身体で盾役としは申し分ないが、性格が大人しすぎて戦闘に向かない。チーム攻撃の主体となるのはニワだ。鳥のように動きが軽い、攻撃は多彩で重みがある。


 四人目は新しい人物だ。見なれない男が歩いている。

「誰だあれ?」

 見るからに陰湿な顔をしていて、興味をそそらない。


「まぁいいか」

 所詮、大人たちは研修を終えたら、すぐに卒業してしまう。そして5人チームのリーダー、クラウドが最後に歩いてくる。


 この人物だけは見逃せない。どこをとっても完璧だ。顔よし、体格よし、実力よしの性格よし。チームの統率力もあり、欠点がひとつも見当たらない。クラウド無しではジェネシスを語れない。学校全体で一番強い男だ。


 ハルトが軽く見積もったとしても、普通の勇者よりも強いことは明らかだ。しかしどんな事情があるのか知らないが、卒業の予定はたっていない。


 クラウドはハルトの視線に気付いたらしく、こちらを見ている。

 どうやら感覚も鋭い。


 ――あいつも訳ありなんだろうな


 エストワールがクラウドを学校内に留めておく特別な事情があるのだろう。


 ――まぁいいや


 ※    ※    ※


 俺は涎を垂らしながら、ウトウトとしている。


 木の葉の音や鳥のさえずりが眠りを誘う。外の風を浴びながら眠るのが好きだ。地下にあるマナの流れは遠くの川のせせらぎのようでさわさわとして心地良い。


 教室にいると魔力が生徒の鬱憤に比例して濁ってくる。魔力が相当濃くなれば人の眼にも見えるが、空気に溶け込んでいる粒を感じ取れるのは自分だけだ。教師すら気付かないが、そこにいるだけで吐きそうになってしまう。


 鋭敏だからこその悩みなので、できれば毎日みんなに笑っていてほしい。俺が心地よくなるために、周りが幸せでいることが重要だ。


 そういう意味において、キンタは付き合いやすい。鬱憤は残さず自分に向けてくる。そしてそれはまるで台風のように襲ってくる。


 キンタとジュンタの声がする。

 キンタの八つ当たりはいつものこと。それをジュンタが止めるのが日常の風景だ。


 けれど今日のジュンタの態度が、ちょっと冷たい。


 ハルトはピンときた。

 あぁ、これは平和が崩れている。


 大なり小なり、争いはいつでも、どこでも起こる。いつ自分に降りかかるか分かったものではない。争いごとなど御免だ。


 ――もう。ごちゃごちゃうるさい。早くどっか行け!


 今眠らなければ、いつ眠れというのだ。


 学校が終わったら夕食の支度をして、魔の森と遺跡へ行って朝帰りが日常だ。激しく消耗すると翌日がもたないから、たまに本当に寝落ちしている。この時間帯はとても重要な睡眠時間だ。


 なのにキンタ、どうして君たちは俺の真下で立ち止まってしまうんだ?

 ハンモックに防音効果もかけておけばよかった。


 寝かせろ。寝かせてくれ……。


 すっかり会話が筒抜けだ。

 キンタはジュンタが冷たいのが気に入らないらしい。魔の森では仲が良かったのに、何があったのだろう。


 ――そうか、魔の森のせい。


 二人がいつも一緒にいても、魔の森に対して思うところはそれぞれ違うから。


 キンタは少しも恐ろしくなかっただろう。それなりに実力はあるし覚悟もしている。一方でジュンタはキンタがいれば大丈夫だし、どこまでついていけると思っていた。


魔の森でジュンタの考えが変わったのだ。もう魔の森には二度と行きたくない。そう考えるのは当然だし、それなりの葛藤があるだろう。


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