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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
学生編<<< 仮面の勇者 >>> 煉獄魔王降臨
25/246

~~ 勇者の仮面 ~~

ジータ国歴2010年 秋。


「分かったよ。じゃ会議、始めていいよ」

ライカの一声で、リルムは極めて冷静に、勇者奪還作戦を説明した。


「王立勇者専門学校(RBC)が今回のターゲットです。百年以上にわたり、この施設は侵入者を拒み、不可侵とされてきました。


 勇者見習いを奪還することは、聖女の権力を弱め、我々の戦力増強になります。人身売買による増益。人材の確保は組織運営に絶対不可欠です。ですから今回の作戦は、必ず成功させたいのです。厳重に守られてきたRBCを落とせば、我々の知名度は上がり、王宮の人間たちもアブソルティスの存在におののくことでしょう。勇者を手にいれれば、俺たちは……」


リルムは感慨にひたっている。ルードが舌を出して叫んだ。

「金持ちだ!」


ロウがマシンガンを出して喜ぶ。

「反撃だ!」


少年レンが弱い声を上げた。

「王宮をぶっ潰せ」


リルムは頷いた。

「問題はどこから攻めるか。生まれたての勇者見習いたちは徹底的に隔離されている。ライカさまはご存知ですが、皆に思いだしていただきましょう。


 まず星の間で聖女に召喚され、名を与えられた勇者は、身体のどこかに紋章を刻まれます。“月の間”に置いてある固定転移ゲートに触れるそうです。


 この時、聖女は紋章を通じて魂を支配する呪文をかけ、勇者の塔へ転移させます。すると勇者の塔、最上階へ辿り着く。そこにも固定転移ゲートがあり、それが紋章を持つ者にとって唯一の出入口です。


 到着すると、最初は王宮神官と共に塔を下ります。勇者の塔の階段は下る時には敵は出ませんが、昇る時は階層のボスを倒さないと次の階に行けない仕組みになっています。RBCから出るには、再び塔を登らなくてはなりません。最上階に戻り、転移ゲートに触れる必要があります。


 再び転移ゲートに触れる時、聖女の加護という名目でマーキングします。世界のどこにいようとも、それで聖女が存在を確認できるわけです」


 ルードが手を挙げる。

「ライカが転移ゲートつくれないの?」


 ライカは首を振る。

「オメーな、俺、これでも王宮神官なんだぜ? そんなことしたら、悪者デスって言ってるようなもんだろ。是非君たちの実力でやってくれたまえよ」


 ルードは期待していただけに衝撃が大きい。リルムも多少計算外だったようで、いきなりレンを指さした。

「空間魔法できますよね!」


 電気ショックのようにレンは震えた。

「で……できるけど。領域内じゃないと。それに絶対見つかっちゃうよ」


 ロウがマシンガンを見せつけた。

「俺が大穴あけてやろうか?」

「魔法障壁は最高級です。そんな玩具では穴は開きません」

「どうすんだよ。ルードのお得意のべしゃりで、王宮神官を口説くか?」


 ライカは酒瓶を投げ捨て、ルードに狙いを定めた。四人の幹部は焦りを感じはじめた。ルードはどうにか言葉を紡ぎだす。

「何事にも抜け道がある。食材や日用生活品は魔の森だけではまかないきれない。どこかには業者が入っている」


 ライカがルードを指でさすと、心臓を刺されたかのような衝撃を受ける。

「まぁまぁ正解。フォレストパレスと学校には職員専用通路があり、業者用に街まで通じている。勇者は行き来できないが、王宮神官と業者は繋がっている。つまり金と物と人は動く。動けるということは?」


 長く大きなテーブルがひと蹴りで、天井に突き刺さった。宴も会議もこれで終わりだ。

「業者になりすまし、中にいる神官と落ち合え。じゃ、俺は遊びにいってくる」


 ロウが慌てた。

「え、中に入れるかもで、どうやって勇者を奪うんだよ!」


「馬鹿が! そんなこと俺に聞くな。リルムが上手くやる。分かっているんだろうな? 勇者がひとり残らず掻っ攫え。――奴ら慌てるぞ。楽しみだなぁ!」


 全員がゾクリとした。魂と肉体が離れる浮遊感のせいだ。


 これは絶対命令だ。

 できなければ、全員殺されるだけでは済まない。魂を玩具のように遊ばれて、永遠に苦しむことになる。


 ※    ※    ※




 Be Braver Be Braver 我らは聖女と共に有り♪

 邪悪は許すな 平和を守る運命を誇れ ♪

 紋章のごとく 燦然と輝け♪ Be Braver♪(勇者になる)



 厨房の騒がしさの中でも、校歌の合唱が聞こえてくる。

 おめでとうと祝う声。善意の拍手。卒業の切なさと、未来への希望。


 そして校長エストワールの祝辞。

『ここに立派な勇者が誕生しました。塔の試練を制覇し、宣誓の儀式を終えた卒業生の皆さん、本当におめでとうございます。今後は聖女の加護のもと、神の御心と共に戦いの場に出ることでしょう。勇者らしく、くじけぬ心をもって魔族を討伐しご活躍ください。この学び舎で学んだことを忘れず……』



 俺はキッチンの窓から外を眺め、大きく息を吐いた。

「……はぁ」

 姿勢を正し、再びザクザクと野菜を切って、落ち着きを取り戻す。



 また誰かが卒業した。

 そのせいで、また誰かが入学する。


 定員五百人の王立勇者専門学校(RBC)は不定期で卒業式と入学式が行われる。

 それは需要と供給。つまりどこかで勇者が死んで、欠員が出たということ。聖女は異世界からランダムに召喚し、勇者不足を補っている。


 保護という名目での監禁状態。

 学校という名前の軍需工場。

 教育を騙った洗脳と支配。

 勇者の名誉と勲章を与えられた奴隷。


 そうして異世界から召喚されたばかりの何も分からない一般人が、何も分からないまま勇者にされていく。


 神官は叫ぶ。

 “国民は苦しんでいる! 神に選ばれし勇者よ。どうか魔族を倒してください!”


 では、そのモンスターはどこから来た? 

 王宮も、ジャーナリストも、国民も誰ひとり、その真実を追求しない。

 それは国民にとっては不利益なだけで、被害を受けるのは勇者だけだから。


 暗黙の了解で、真実は勇者に届かない。

 召喚されても病人と赤ん坊は殺処分。

 反抗したり、組織に馴染めない人間も殺処分。


 ――何がモンスターだよ。魔族だって、元は勇者としてお前らが召喚したくせに。つべこべ言わずに、勇んで死ねというのか。


「俺は消耗品にはならない」

 呟きと怒りが余って、野菜の切れ端が吹っ飛ぶ。

「――あ」


 反省した。八つ当たりされた野菜に罪は無いのに。

「オマエも美味しくしてやるからな♪」


 野菜クズでもスープのダシになる。

 けれど人間のクズはどうにもならない。


 俺は低能で最劣の勇者見習い。

 勇気がなく、戦うことから逃げている卑怯者だそうだ。


 確かに成績は悪い。だって俺は平和主義者だから。

 剣で人を斬るよりも、包丁で野菜を切るほうがずっと好きだ。


 戦わないで何が悪い。誰が勇者になりたいなんて言った。人を騙しておいて、戦争を強要するヤツラは人間のクズだ。


 だから俺は戦わない。

 この選択も、やっぱりクズだと思う。


 誰よりも実力があるのに、この状況を黙認している。

 そればかりか、卒業を回避しようと躍起になっている。


 一番に浅ましくて、卑しい行為だ。

 それでも俺は最劣の仮面をかぶって、今日も笑う。


「野菜、切り終わりましたよ~。次、何しましょうか」


 卑怯者は俺だけでいい。


 この世界と俺の魂、全てを足して天秤にかけても、浅利陽翔の幸福のほうがずっと重いのだ


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