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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
5 英雄アキト
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アキーム

 汗を拭う俺を見て、アルマが休憩を要求した。ゼストは大荷物をポンポンと確かめながら感心している。

「よう片足。調子はどうだ、筋肉ついただろ」


 気が付くと、どのポーターよりも荷物が多かった。いくら重い荷物でも平気な顔をしているのは良くない。もっと平均をいかなければ!

「もう……勘弁してくだいよ~」


 ゼストは鼻で笑う。

「馬を盗むなんてバカなことをするからだ。働いて根性叩き直せ!」

 ゼストはボイマール馬主連合系列の馬車に乗っていた。俺の馬泥棒のレッテルはなかなか剥がれそうにない。


「だから何度も言っているでしょう? 盗んでいません。それに実際に被害は無かったなら、未遂でしょうが」

 悪人の言い訳など大抵聞き流されてしまうものである。それに悪人を成敗するのは心地よい。単調な山登りの間なら、さぞ虐め甲斐があることだろう。


「何を言う。あれから何匹の馬が盗まれたか。馬主連合の会長が嘆いていたぞ」

「そんなこと知りませんよ。あの人が嘘ついたせいで、俺はさんざんなんです」


「会長はゼストと知り合いなのよ?」

「そうだ、会長は正直な方だ。嘘なんかつかんよ。片足が盗賊団だということは分かっている」


「片足、片足って呼ぶのはやめてください。それに盗賊団ではありません。そもそも盗賊に団とつくなら複数ですよ。何日もボッチで平原を歩いていたの見たでしょう。それぐらい察してください」


 アルマはそのことで青ざめた。

「え? 平原歩いてたのって、君だったの? ごめん、矢で威嚇したのアタシだわ。そうね、君みたいな真面目な子は盗賊団って顔じゃないわねぇ。もうキムラがヤレって言うから~!」

「顔で判断するな、下っ端だから盗賊団にも捨てられたかもな」


 ハルトは宿屋の心得を堂々と見せつけた。

「客商売なんだから、宿屋のプライドにかけて悪い事なんてしません! 俺は盗賊団を捕まえようとした方です。冷静に考えてみてください。俺ひとりで、馬を何匹も盗めると思います? あの時は足が故障していて、乗馬もできなかったのに」


「会長が嘘をつく理由などあるものか」

 俺は紋章の入ったスカーフを突き付けた。


「これが馬小屋とツノウサギ捕獲現場に落ちていました。この布には魔香が付着していて、大人しくなったツノウサギを捕獲しているんです。運ぶのに必要なのは荷馬車でしょう? 会長はきっとそいつらに馬を横流ししているんですよ」


 遠くを散策していた勇者キムラが走ってきて布を奪った。逞しい顔が一段と迫力が増す。

「これは預かっておこう!」


「あ、待って!」

 俺は勇者キムラを追い、近づくと小声で囁く。

「貴方からも同じ匂いがします」

 実際には微量な魔力の痕跡だ。魔力の色が同じなので、おそらくキムラが関係しているのだろう。


 キムラの息が暑苦しくも耳元にかかるほど密着する。

「あの二人には内緒にしてくれ。何が必要だ、金か?」


「お金はいらないですが、いざという時には味方についてください」

 もちろん俺は悪人の味方じゃない。ツノウサギで儲けたり、人から財産を奪う奴は許せない。でも今は戦う時ではない。もし潰すなら全員が集まった時に限るし、その間に利用できるなら何でも利用する。

「交渉成立!」


 キムラはハルトの背中をバンバン叩いた。

「いやぁ! すまん! 片足くんは無実だったのか。何日も平原を歩いて、辛かったろう! ほら、みんなも謝れ、素直で正直な子だ!」


 俺は少し微笑んだ。

 キムラがこっそり説明したが、アキームという元勇者を中心とした集まりだ。同じ脱走者だと思うと、強く非難もできない。組織が発展したら、ツノウサギは解放すると約束してくれた。徐々に味方に取り込まれているような気もするが、まぁ良いだろう。


「へぇ、キムラさんって組織では偉い方なんですね」

「まぁそうだな。人数も少ないがね」


 ※    ※    ※


 再び山を登りつつモンスター狩りをする。俺はそれを見ているだけで狩りの途中は暇だ。三人の戦うのをゲーム観戦するようにじっくり眺めている。終わった後は魔石やアイテム拾いが続く。


 俺はことある度にキムラに話しかける。アキームがどういう組織なのか気になってしまうからだ。もし昔からあったなら、無理をして一人で魔王を倒し続ける必要などなかった。

「へぇ、結成一年ですか」


 俺がアキトから離れてすぐのことだ。自信過剰ではないが、戦力が下がったことは事実で、そういうことがきっかけで、自分たちでどうにかしようと思い立ったのかもしれない。


「国が正当化されれば、国に逆らう者たちは全て悪の立場になるんだよ。すべてが正しいというわけにはいかないが、なるべく皆にとって幸せで、良い方向になるよことを目指しているよ。そこがアブソルティスと絶対的に違うところだ。我々は自由を求めている、いわば解放軍に近いものなのだ」


「アキトは知っているんですか? 騎士団団長ですから、組織が出来上がっていたら、すぐに見つけると思います。彼はアレですが、取り巻きは良い部下がいたはずですし、黙って見過ごすことはないと思うのですが……」


 キムラは笑って答えない。ノーと言わないということは、おそらく知っている。

「どうしてそんなことを? それよりも君は英雄アキトを友人のように言うねぇ」


 俺は心臓がバクバクなって笑い続けた。

「一介のファンですよ~!」

 話題を変えなくては!!!


「それにしても落花生壺山の生態系が乱れていますよねぇ。これもアキームの作戦ですか?」

「そんな大掛かりな作戦ができるほどの人数はいないよ」

「じゃあ騎士団の作戦?」


「そういう話も出ていない。攻略は始まったばかりで、魔王レンとも出会っていない。天災とか、自然現象じゃないのか?」

「それは違います」


「ずいぶんはっきり否定するものだな」


「山に餌が無いようで、赤魔熊と平原で遭遇しました。そして蛇も激減しています。つまりこの周辺一帯で、モンスターが激減しているのです。魔王の領域でマナが減少している原因はマナ不足です。魔王が領域の管理が怠るなんて考えられません。何か訳アリとしか思えませんね」


「魔王か。そこに気付くなんて、君は歴戦の勇者みたいだな」

「はは! 宿屋の情報網ですよ!」

 だからアシッド村でもレンが攻撃を仕掛けてこなかった。ダンジョンで何かが起きていることは確かだ。


 アキトではない確認できたがレンの行動は読めない。けれどレンに強く影響を与えられる人物といえばイヴとライカ。二択と仮定して、レンが尻尾を巻いて逃げるのはライカだけ。


 ――うわ。嫌だなぁ! もう帰っちゃおうかな!!


 ※     ※    ※


 アイテム収穫を終え、キムラは大荷物の山を見て満足だ。

「さぁ休憩しよう。彼は我々の仲間だ」


「俺、宿屋なんで有料ですけど、バイト料の足しにさせてください」


 気合を入れて、宿屋のご休憩スキルを奮発する。クロスのかかったテーブルと椅子。焚火を熾すのは神がかり的に早い。そして香りを楽しみながらコーヒーを淹れる。

「手際がいいな」

 アルマは芸術的な動きにうっとりしている。

「いい香り……」

「紅茶もありますよ」


 アフタヌーンティーのセットが出てくるので皆がやりすぎだと驚いている。

「ここは喫茶店か?」


「片足クン……それは魔法だよな?」

「宿屋がいると、旅をするのにとても便利なんですよ~。どうぞ座ってください」


 アルマはレモンティーに感動している。

「スコーンもおいしい! このジャムもいいわ」

「アシッド村のフルーツはとっても糖度が高いです、たくさん買ってジャムにしました」


「はぁ、癒されるわ。うちは攻撃パーティーだから、がさつなのが多くて。前は女の子がいたけれど、回復役がいなくなってしまったの~」

「ええ? でも回復ナシでは危ないですよ?」


 ゼストの目が冷ややかだ。

「うちのリーダーが攻撃をやめれば問題ないんだがな」


 キムラは笑ってごまかした。

「うちのパーティーは無事故が一番の課題だ。この前も魔法使いが死んじまってな。やっぱり体力が無いのが一番先なんだよ。神官でも雇いたいが、金がない!」


 ゼストはこちらをジロジロ眺めている。

「君にも魔力を感じる」


「え? でも俺は宿屋ですけど」

「回復できるんじゃないのか?」


「基本、宿は休む場所ですから、ご休憩、ご宿泊はスキルみたいものです。時間はかかりますが、全回復も可能です」


 一行の目が輝く。完全に狙った目だ。

「そりゃぁいい!」

「別料金! お金取りますよ!!」



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