アキーム
汗を拭う俺を見て、アルマが休憩を要求した。ゼストは大荷物をポンポンと確かめながら感心している。
「よう片足。調子はどうだ、筋肉ついただろ」
気が付くと、どのポーターよりも荷物が多かった。いくら重い荷物でも平気な顔をしているのは良くない。もっと平均をいかなければ!
「もう……勘弁してくだいよ~」
ゼストは鼻で笑う。
「馬を盗むなんてバカなことをするからだ。働いて根性叩き直せ!」
ゼストはボイマール馬主連合系列の馬車に乗っていた。俺の馬泥棒のレッテルはなかなか剥がれそうにない。
「だから何度も言っているでしょう? 盗んでいません。それに実際に被害は無かったなら、未遂でしょうが」
悪人の言い訳など大抵聞き流されてしまうものである。それに悪人を成敗するのは心地よい。単調な山登りの間なら、さぞ虐め甲斐があることだろう。
「何を言う。あれから何匹の馬が盗まれたか。馬主連合の会長が嘆いていたぞ」
「そんなこと知りませんよ。あの人が嘘ついたせいで、俺はさんざんなんです」
「会長はゼストと知り合いなのよ?」
「そうだ、会長は正直な方だ。嘘なんかつかんよ。片足が盗賊団だということは分かっている」
「片足、片足って呼ぶのはやめてください。それに盗賊団ではありません。そもそも盗賊に団とつくなら複数ですよ。何日もボッチで平原を歩いていたの見たでしょう。それぐらい察してください」
アルマはそのことで青ざめた。
「え? 平原歩いてたのって、君だったの? ごめん、矢で威嚇したのアタシだわ。そうね、君みたいな真面目な子は盗賊団って顔じゃないわねぇ。もうキムラがヤレって言うから~!」
「顔で判断するな、下っ端だから盗賊団にも捨てられたかもな」
ハルトは宿屋の心得を堂々と見せつけた。
「客商売なんだから、宿屋のプライドにかけて悪い事なんてしません! 俺は盗賊団を捕まえようとした方です。冷静に考えてみてください。俺ひとりで、馬を何匹も盗めると思います? あの時は足が故障していて、乗馬もできなかったのに」
「会長が嘘をつく理由などあるものか」
俺は紋章の入ったスカーフを突き付けた。
「これが馬小屋とツノウサギ捕獲現場に落ちていました。この布には魔香が付着していて、大人しくなったツノウサギを捕獲しているんです。運ぶのに必要なのは荷馬車でしょう? 会長はきっとそいつらに馬を横流ししているんですよ」
遠くを散策していた勇者キムラが走ってきて布を奪った。逞しい顔が一段と迫力が増す。
「これは預かっておこう!」
「あ、待って!」
俺は勇者キムラを追い、近づくと小声で囁く。
「貴方からも同じ匂いがします」
実際には微量な魔力の痕跡だ。魔力の色が同じなので、おそらくキムラが関係しているのだろう。
キムラの息が暑苦しくも耳元にかかるほど密着する。
「あの二人には内緒にしてくれ。何が必要だ、金か?」
「お金はいらないですが、いざという時には味方についてください」
もちろん俺は悪人の味方じゃない。ツノウサギで儲けたり、人から財産を奪う奴は許せない。でも今は戦う時ではない。もし潰すなら全員が集まった時に限るし、その間に利用できるなら何でも利用する。
「交渉成立!」
キムラはハルトの背中をバンバン叩いた。
「いやぁ! すまん! 片足くんは無実だったのか。何日も平原を歩いて、辛かったろう! ほら、みんなも謝れ、素直で正直な子だ!」
俺は少し微笑んだ。
キムラがこっそり説明したが、アキームという元勇者を中心とした集まりだ。同じ脱走者だと思うと、強く非難もできない。組織が発展したら、ツノウサギは解放すると約束してくれた。徐々に味方に取り込まれているような気もするが、まぁ良いだろう。
「へぇ、キムラさんって組織では偉い方なんですね」
「まぁそうだな。人数も少ないがね」
※ ※ ※
再び山を登りつつモンスター狩りをする。俺はそれを見ているだけで狩りの途中は暇だ。三人の戦うのをゲーム観戦するようにじっくり眺めている。終わった後は魔石やアイテム拾いが続く。
俺はことある度にキムラに話しかける。アキームがどういう組織なのか気になってしまうからだ。もし昔からあったなら、無理をして一人で魔王を倒し続ける必要などなかった。
「へぇ、結成一年ですか」
俺がアキトから離れてすぐのことだ。自信過剰ではないが、戦力が下がったことは事実で、そういうことがきっかけで、自分たちでどうにかしようと思い立ったのかもしれない。
「国が正当化されれば、国に逆らう者たちは全て悪の立場になるんだよ。すべてが正しいというわけにはいかないが、なるべく皆にとって幸せで、良い方向になるよことを目指しているよ。そこがアブソルティスと絶対的に違うところだ。我々は自由を求めている、いわば解放軍に近いものなのだ」
「アキトは知っているんですか? 騎士団団長ですから、組織が出来上がっていたら、すぐに見つけると思います。彼はアレですが、取り巻きは良い部下がいたはずですし、黙って見過ごすことはないと思うのですが……」
キムラは笑って答えない。ノーと言わないということは、おそらく知っている。
「どうしてそんなことを? それよりも君は英雄アキトを友人のように言うねぇ」
俺は心臓がバクバクなって笑い続けた。
「一介のファンですよ~!」
話題を変えなくては!!!
「それにしても落花生壺山の生態系が乱れていますよねぇ。これもアキームの作戦ですか?」
「そんな大掛かりな作戦ができるほどの人数はいないよ」
「じゃあ騎士団の作戦?」
「そういう話も出ていない。攻略は始まったばかりで、魔王レンとも出会っていない。天災とか、自然現象じゃないのか?」
「それは違います」
「ずいぶんはっきり否定するものだな」
「山に餌が無いようで、赤魔熊と平原で遭遇しました。そして蛇も激減しています。つまりこの周辺一帯で、モンスターが激減しているのです。魔王の領域でマナが減少している原因はマナ不足です。魔王が領域の管理が怠るなんて考えられません。何か訳アリとしか思えませんね」
「魔王か。そこに気付くなんて、君は歴戦の勇者みたいだな」
「はは! 宿屋の情報網ですよ!」
だからアシッド村でもレンが攻撃を仕掛けてこなかった。ダンジョンで何かが起きていることは確かだ。
アキトではない確認できたがレンの行動は読めない。けれどレンに強く影響を与えられる人物といえばイヴとライカ。二択と仮定して、レンが尻尾を巻いて逃げるのはライカだけ。
――うわ。嫌だなぁ! もう帰っちゃおうかな!!
※ ※ ※
アイテム収穫を終え、キムラは大荷物の山を見て満足だ。
「さぁ休憩しよう。彼は我々の仲間だ」
「俺、宿屋なんで有料ですけど、バイト料の足しにさせてください」
気合を入れて、宿屋のご休憩スキルを奮発する。クロスのかかったテーブルと椅子。焚火を熾すのは神がかり的に早い。そして香りを楽しみながらコーヒーを淹れる。
「手際がいいな」
アルマは芸術的な動きにうっとりしている。
「いい香り……」
「紅茶もありますよ」
アフタヌーンティーのセットが出てくるので皆がやりすぎだと驚いている。
「ここは喫茶店か?」
「片足クン……それは魔法だよな?」
「宿屋がいると、旅をするのにとても便利なんですよ~。どうぞ座ってください」
アルマはレモンティーに感動している。
「スコーンもおいしい! このジャムもいいわ」
「アシッド村のフルーツはとっても糖度が高いです、たくさん買ってジャムにしました」
「はぁ、癒されるわ。うちは攻撃パーティーだから、がさつなのが多くて。前は女の子がいたけれど、回復役がいなくなってしまったの~」
「ええ? でも回復ナシでは危ないですよ?」
ゼストの目が冷ややかだ。
「うちのリーダーが攻撃をやめれば問題ないんだがな」
キムラは笑ってごまかした。
「うちのパーティーは無事故が一番の課題だ。この前も魔法使いが死んじまってな。やっぱり体力が無いのが一番先なんだよ。神官でも雇いたいが、金がない!」
ゼストはこちらをジロジロ眺めている。
「君にも魔力を感じる」
「え? でも俺は宿屋ですけど」
「回復できるんじゃないのか?」
「基本、宿は休む場所ですから、ご休憩、ご宿泊はスキルみたいものです。時間はかかりますが、全回復も可能です」
一行の目が輝く。完全に狙った目だ。
「そりゃぁいい!」
「別料金! お金取りますよ!!」




