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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
5 英雄アキト
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策略

 

 テントの布がわずかに揺れた。アキトが振り返ると、獣連れの男がフードを脱いでいた。テイマーのニック・ディクソンと人獣のレグスだ。大勢の勇者が警戒している駐屯地のなかであっても、悟られずに行動できる、数少ない実力者となっていた。

「悪い、至急なんだ」


「何か問題でも起きたか?」

「カルベル市内で右手が銃になっていて、顔がマスクの男がいた。それで調べたら、酒場での話では、アブソルティスのロウで、レンと一戦交えたらしい」


「なんと! ではロウが無事ということは、レンは死んだのか?」

「ダンジョンが存在しているから死んではいない。でも負けたんだろう。弱り目に祟り目だぞ。ダンジョンに攻め入るなら今がチャンスだ」

「それは吉報だな」


 ニックは浮かない顔だ。

「これを調べるのに、偵察用ツノウサギを殺され、アジトをひとつ潰された。この近辺にテイマーがいることは発覚したと思う。それとアジトには出荷前のポーションが置いてあったんで、工場発覚が時間の問題だ」


「創設以来の危機だな。資金源と工場どころか、組織ごと乗っ取られてしまうぞ」


「でもまだどこの組織か掴めていないと思う。だから俺はアキーム盗賊団として、アブソルティスと取引をする」

「アキーム脱勇者連合を一般の盗賊団に貶めるのは気にくわんな」


「人手不足で困っているフリをすれば、アブソルティスも近づきやすくなる。力を借りたいと誘い出して、工場見学ついでに殺すしかない。うまくいけば、すでに奴隷にさせられている人々も助けられるかもしれない」


「君の実力は知っているが……なぜそこまでして」

 ニックは義手を外し、筒の中から小瓶を取り出した。

「ボイマール平原のボスから抽出した猛毒だ。魔王でもコロッと死ぬ。一滴でも触れさせれば勝ちだ。こんなチャンス滅多にない。妹の仇討ち、させてくれ!」


 必死に頭をさげられると、アキトも断れない。

「ロウだけなら、何とかなるかもしれん」

「そうだろ? ハルトが5歳で殺した相手に今の俺が負けてたまるかよ」


「あれを基準にしてはならん。しかもあの時は世界一の大魔法使いが一緒にいた。どう考えても戦力が足りん。くれぐれも慎重に、私の手の届く範囲で行動しろ。ショーターとタロスにも参戦するように言っておこう」


「いやいや、二人は二人で忙しいんで、俺はレグスがいれば大丈夫。ショーターはボイマール指令本部にいる神官たちを接待漬けにして、監視を続ける必要があるだろ。それにタロス商会はアキームの主軸。どちらも欠かせない。俺は私怨も混ざっているし、いざとなれば英雄が助けにきてくれるでしょ?」


「そういう時ばかり私を英雄にさせるとは、ますますハルトに似てきたな」

 ニックは快活に笑う。

「褒め言葉だよね?」


 アキトはわずかに微笑んだ。

「キムラに挨拶してから行け。今日から彼はアキーム盗賊団の副団長だ。工場は稼働停止させ、すぐさま退避させろ。ロウが誘いにのらないようなら、ハルトを騙っても良いが、その際はくれぐれも慎重にな」


 ※    ※    ※


 カール・ヴァンハルトは宿屋だ。そして今はスバルの策略によって、荷物運びのバイトをしている。純粋にそれだけのはずなのに、鋭敏な感覚がそれだけで終わらせてくれない。


 ベルがいなくなると、俺は我慢できなくなった。便利な生活に慣れてしまうと、不自由な生活に戻るのはストレスが溜まる。スバルの家にいた時に太陽光のようなマナの光を浴びて、すっかり元どおりの魔王級。誰にも見つからないならいいやとばかりに、好き勝手している。


 相手がよほど慎重に魔力を隠していなければ、魔力検索など息をするようなもの。アキトが近くにいることは肌で感じているが、ここは絶対に無視しておこう。今のバイトのチームはダンジョンの中まで入らないので、明日は帰る予定だ。


 そう、アキトにさえ出会わなければいいのだ。


いろいろと目についてしまうことも、文句を言う相手や対処してくれる相手がいなければ、何もできないし、する気にもならない。

それにしても王宮騎士団の装備は相変わらず酷いものだ。ダンジョンに入る前に壊れてしまうだろう。しかも個人の魔力がとてつもなく弱いから、死にに行くようなものだ。それを黙って見過ごす。


 だって俺は宿屋であって、勇者見習いでもないから。


――宿屋を言い訳にしちゃだめだろ。


俺は平和主義者だが、家族や友人を失う痛みに鈍感というわけでもない。もしこの中に知り合いがいたらと思うと辛すぎる。だから俺はずっと下を向いて歩いている。山のような荷物を背負い、周囲を警戒しながらチームの後をついていった。



 勇者キムラ・戦士ゼスト・弓使いの女子アルマ。小さなパーティーだが、戦闘力は高く、前衛部隊としては最適だ。王宮騎士団はこういうチームをいくつか雇って先行させるから、王宮騎士団の前衛はのんびりとしたものだ。進行方向にどのモンスターがどれだけ出現するか調査しながら、騎士団は前進している。


 つまり俺たちは捨て駒だ。騎士団が王宮の飼い猫なら、チームは野良猫。勇者キムラは聖女に忠誠を誓っているが、ゼストやアルマは一般の冒険者でダンジョンのお宝が目当てだ。ドロップアイテムは稼ぎ放題で、前進するほどに荷物が増える。だからポーターで荷物運びは重労働だ。


 崖から見下ろした村の景色が綺麗だとか、雲が近くて掴めそうだとか、周囲の楽しそうな笑い声とは縁遠い。一応魔法の手袋をして魔力ナシだから、荷物が重い。肩に食い込むリュックの重さは二百キロを超えているだろう。


 山道の上からモンスターが来れば、下り道に加速がついて転びそうになる。その逆も地獄で、下から襲われれば、死ぬ思いで坂を登らなければならない。こんなの俺じゃなかったら、完全に餌になって死んでいる。


 モンスターなど敵ではないが、ただのバイトが大荷物抱えたままで戦えば目立ってしまうから、ひたすら逃げるのみだ。間違ってひと睨みしたら、モンスターが恐怖のあまり一匹もいなくなってしまい、どういうことかと逆に怪しまれた。


 何としても、アキトにだけは見つかりたくない。彼のことは散々に利用させてもらったし、アキトからすれば俺は逃亡者で卑怯者だ。今会って、良いことなどひとつもない。


 俺は深くフードを深くかぶった。どうか無事に仕事を終わらせて、誰にも見つかりませんように!




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