表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
3 プレアデス
123/246

こじれた糸は強引に

 カールは伏せをして寝るベルに寄りかかると、すぐに寝息を立てた。


「マジで寝ちゃったよ」

 スバルは手を尽くしたつもりだが、ドッと疲れた。


 ベルは気の毒に思う。

「スバルさまが魔工技師であることは理解していると思います。ただ、ちょっと信じたくないというか……今までさんざん裏切られてきたので、慎重になっているようですね」


「裏切られた?」

「魔工技師を騙る人間が多すぎました。出会うたびに義足を作ってやると騙され、その度に傷ついてきました。この一年、世界各地を回ってきましたが、良い魔工技師に出会えませんでした。最後の望みをかけて、スバル様を訪ねたのに同年代でしたので、とても信じられなかったのです」


 スバルは悩んだ。自分は期待されていない、そんな状況が初めてだった。今後の方針を考えるが、思い浮かばない。何がダメだったのか、原因が分からない。


 会話は非論理的で苦手だ。一方的な感情や思惑が交じり合い、意味を取り違えられることもある。人によって、受け止め方も違うから計算通りにはいかない。いつも暗闇で手探りしているようなものだった。


そのうえ思考速度と量が違うので、一般人と会話を合わせるのに苦労している。相手が馬鹿げたことで悩んでいる姿はくだらないと思うし、笑いのツボが違うので大笑いしている理由に共感できない。


 

 ――どうしたらいいんだよ、爺ちゃん。


 ※    ※    ※


 冬のせいか、日が傾くとすぐに寒くなる。ロシアンブルーのベルの身体に寄りかかり、三人は移動もせずにひとつに固まっていた。スバルは悩んだまま、眠っていたらしい。


 良い匂いで目覚めると脇にお茶が置いてあった。

「遅くなってしまいましたね。お腹すいたでしょう?」


 夕闇に焚火が温かい。カールは白い団子のようなものを長い棒に刺し焼いていた。


 機嫌は戻ったようで、穏やかな顔が炎の光に照らされていた。

「さきほどはすみません、毒を吸い込んだせいで、正気ではなかったみたいです」


「解毒薬もっているのか!」

「大丈夫ですよ、寝たら治っちゃいました。さぁできた。熱いですよ?」

 手渡されたキツネ色の焦げ目が食欲をそそる。外はカリッと、中はふわっトロッだ!


「生クリームを凝縮したような味だな」

 スバルはキラキラと目を輝かせた。


「キャンプで焚火といったらコレです。普段でも美味しいのに、ゼリーの材料にもなるので重宝しています」


「できれば肉を焼いてほしいな。これでは腹の足しにはならない」

「それもそうですね!」


 いとも簡単にアイテムボックスから肉を出すので、スバルは興奮した。

「そう! それだよ。それ亜空間魔法だろ」

「そういう名前なんですか?」 


「名前すら知らないで使ってんのかよ。じゃあ亜空間魔法での、マナの流れ方はどうなんだ?」

「流れ方? そもそも亜空間自体、よく理解できていなくて」


「亜空間魔法を使えるのに?」

「だいたいはイメージや直感なので」


「話にならんな。亜空間は、現在の空間に準じる第二の空間だ。タンスかクローゼットのごとく物質を収納するのに適している」


「やはり物質だけですか」

「何だ? テメェ何を狙っている」


「ヨーグルトを保管したいのです。一度でも亜空間魔法を使ってしまうと失敗してしまって」

「それはそうだろう。菌が死ぬからな」


「じゃあ人間を亜空間魔法で収納したら?」

「死ぬよ」


 思わず口に手を当てて、視線をずらしている!

「やったのか!」

「まだです!!」


「やろうとしていただろ! あっぶねぇな!」


「亜空間魔法で生き物を保存することはできませんか?」

「可能性はゼロではない。亜空間を完全に理解した上で、応用できれば可能だろう。まぁ神や聖女の領域だ。凡人には理解できないだろうよ」


「スバルさんなら、できそうですね」

 スバルはお茶をこぼしそうになる。

「まぁ可能だろう。魔力さえあればな」


 スバルは空間魔法を究めたい。

 空間魔法研究の前段階として、亜空間魔法を完璧に理解する必要がある。


 カールは頭を下げた。

「すみませんでした」

「何!? いきなり?」


「魔工師見習いだと疑ったことです。王宮魔工技師でなければ、聖女のことは分かりませんから」

「分かったなら、いいよ」


 沈黙のあと、そっと呟いた。

「王宮でシェラヘラザールに会いましたか?」

 

 スバルは首を振る。

「シェヘラザールは三年ほど前から行方不明だろ。アブソルティスに攫われたんだよな」


「必ず助けに行きます」

「その脚で?」

「……。」


「もう一度言ったほうがいい? オレ天才魔工技師なんだけど」


 チャンス!!

 今度こそ 頭下げて、お願いするだろ!


 ただ静かに太陽が夕闇に落ちて、周囲は暗くなる。それだけの時が流れた。


 スバルは理解できない。

「オレに任せろよ。天才だし、英才教育!! 魔法の知恵と人間の技術の結晶、だから魔工は最強なんだ。しかも俺は魔工技師として奇跡の技術力だぞ。オレこそ人類の宝で、世界一偉いんだ! それとも何か? そんなに頭下げるのが嫌なのか?」


 その返答は苦笑いだった。

「そうではありません。きっとすぐに壊してしまいますから。やっぱりダメだったと思い知らされるのはもう嫌なんです。だからもう、諦めようと思います。魔工が最強だなんて言わないでください」

「それは聞き捨てならない!」


「どんなに技術と魔法力があっても、人間の生の足にはかなわないですよ」

「それは作ったヤツが下手くそだったからだ!」


「これまで様々な国を渡り歩き、腕の良い魔工技師を探しました。しかし、この脚の製作者を越える魔工技師はおりませんでした。この義足が一番気に入っていましたが、一年足らずでこのありさまです」


 

「だから、オレに見せてみろ!!」

 スバルは湿っぽいのは嫌いだ。くだらない感傷に付き合うつもりはない。さっさと治してしまえば問題などすぐに解決する。近寄って、勝手にボロボロの服を引き千切る。


 軽量で、動きが良いはずの流線形の金属の脚だ。そこに意味不明の魔法石と部品が病巣のようにいくつも付着して、可動部の邪魔をしている。 駆動部分は無理矢理、切り取られ、開いた穴が雑につぎはぎされていた。オイルが漏れ、錆がこびりついている。


 スバルは頭に血がのぼった。


 ――こんな状態にしたのはどこの馬鹿だ? 素人がこねくりまわしやがって!


 魔工義足の全貌が見えてくるにつれ、スバルは鳥肌が立つ。

「おい、何だよ」


 何よりも、生身の脚との接合部分が最悪だ。擦れて、血が滲んでいて、絶対に痛い。


 ――本当に信じられない馬鹿だ。こんなになる前に松葉杖使うとか、あるだろうが。このまま使い続けたら、生足がもっと短くなるぞ。


 スバルの殺気を感じ、ベルは目を細める。

「ジータ国が魔工技術では本場だろ。なのに外国まで行ってこれかよ。マジで無駄アシだったな。この足の製作者は何と言っていたんだ」


「王都には戻れない理由があります」

「だったらそこらへんの魔工師に普通のダセエやつ、作ってもらえ!」


「普通の脚では戦えません」

「片足が両足になるだけでもありがたいことだろ。どれだけ強欲なんだよ。だいたい戦うってテメェは宿屋だろ? 庶民のくせに魔工技師の脚なんか使って、生意気なんだよ。メシと寝床を用意するだけなのに、必要ないだろうが!」


「宿の仕事は安らげる場所にて、笑顔と癒しの時をご提供することです。でも俺が目指しているのは、いかなる場所でも営業する旅の宿屋です。


 ダンジョンの最深部、深い森の奥。モンスターが強くなるほどに休憩を取るのが難しくなります。彼らが安心して、全回復できる場所を確保するには、宿を維持するだけの戦う脚が必要です。スバルさまはお優しいですね。けれどいくら天才でも、この脚の制作者以上の脚は難しいでしょう。ですからお気持ちだけで十分です」


 スバルは微笑みを返されて、世界一にムカついた。


「――テメェは!」

「痛いです! 何をするんですか!」

 スバルは脚から義足をもぎ取った。


 ――目にもの見せてやる!! 


「オレさまが新しい足を作ってやるから、頭下げて感涙しろ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ