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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
5 宿屋の心得
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アキトの英断

 

 その日、街ではちょっとした騒ぎがあった。


 祭り会場の片づけが進む広場で、一匹のドラゴンが舞い降りたのである。金と白のつる草模様の豪華な装甲をつけた飼われたドラゴンで、その背に乗る男は勇ましく装甲とマントが優雅だ。


「申し訳ない。広い場所が見つからなかったので、停めさせてもらうよ」

 ドラゴンを宥めつつも、堂々とした態度。親しみ深いというよりは、遠慮がない。純粋に大丈夫だと信じきっているのだ。


「よしよし、大人しく待っているんだぞ」

 何があったかと祭り関係者が走ってくる。無法者ならば、ただちに武力行使するところだが、強そうであるし、どちらかといえば善人のようだ。


 そして腰の剣に気付いた。

「聖剣ジーク! ということは英雄アキト!」

 周囲の人々が注目して、ざわめいてくる。

「よしてくれ。私は一介の勇者だ」


 アキトが来た!


 英雄見たさに大勢の住人が集まってくきた。何気なく手をあげた仕草で、歓声が上がる。皆が手を振り返し、写真撮影会の様相だ。アキトは身体ががっしりして、一般人が子供にみえるほど体格が良いからよく目立つ。そのせいで、広場が混雑し、ドラゴンが狭そうだ。


「くれぐれもドラゴンには近づかないように。怪我をしてしまうかもしれないからね。君、ちょっといいかな?」


 可愛さたっぷりの祭り関係者の女の子に耳打ちすると、黄色い声が上がった。

「ベッケンハイムまで案内してくれないか」

 女の子は快諾し、二人は逃げるように街中へ消えていく。


 そういう理由で、今日のベッケンハイムは、いつもよりも賑やかだ。酒場はアキト見たさに集まる人々が注文するので、繁盛している。

「いやぁ、仮営業しておいてよかった!」

 ここは勇者常連の古宿。人々にそう再認識され、ベッケンは上機嫌だ。



 ベッケンがアキトにオリジナルカクテルを持ってきた。

「祭りは終わってしまいましたが、街の花が月下美人なので、こういうのを作ってみました」

 白い乳酸菌飲料に炭酸と酒が合わさっている。優しさだけでなくパンチが効いていた。

「美味いな」

「宿屋のオヤジでは、こういう発案はできません。彼は凄いですね」


 ハルトだ。宿屋に泊まったりしたから、自分を抑えられなくなったのだろう。破壊された酒場、新メニューの料理やドリンク。ついにライカと一戦を交えた。


 ――ハルト、本気で宿屋になるつもりか?


「この間の流れ星はアキトさまのサプライズだそうで、びっくりしましたよ」

「凄かったかね?」


「それはもう! 空一面に魔法陣っていうんですか。青白く光るものですから天変地異でも起きたかと、みんなで空を見上げていたんですよ。そしたら流星がどんどん近づいてきて。凄いと騒いでいるうちに、バーンと光って! 花火なんて比ではありませんよ」


「まぁ被害が出なくてよかった」

 ハルトの父親と名乗る人物が連絡をくれた時、そういうことにしてほしいと頼まれた。


 この街がライカに襲われたことが公表されれば、それを防いだのがハルトだと広まってしまう。アキトが魔王を倒していないと露呈すれば、穢れた英雄となり、信用を失うぞと脅されたのだから、頷くしかない。なかなか狡猾な人物だ。


「ハルトの父親はキャラバン隊の隊長をしているそうですね」

 ベッケンは興奮しながら耳打ちする。


「そうなんです。それがまさかのコタローだったんです」

「コタロー? 有名人ですか」


「同じ勇者なのにご存知ないですかい? 二十年くらい前は世界一強いと言われた男です。大昔にうちに泊まっていただいて、俺もサインもらったクチです」

「世界一……会いたかったな」


「昔の話ですし、現役の英雄には敵わないでしょう。けれど久しぶりに会えてうれしかったですよ。あの人は、俺の中で永遠にナンバーワンなので」


「なぜキャラバン隊の隊長など。もっと良い職につけただろうに」

 しかし王宮で神官たちの顔色をうかがいながら暮らすよりはずっといい。流浪の商人たちと世界中を旅しているほうが楽しそうだ。


 昔だから引退できたのだ。今は本当に使い捨てにされる。いくら英雄と呼ばれようが、自分は引退できないだろう。それに娘もまだ幼い。できることは父親としての生き方を貫いて死するのみ。


 アキトはカクテルを喉に流し込む。冷たさが喉から胃まで伝わっていく。そして酒のせいでほんのり熱くなる。


 子供のため。そういう気持ちは理解できる。だからアキトに単独で迎えに来て欲しいと言ってきた。

『本当に失いたくなければ、早急に迎えに来い』

 半分は脅迫されたようなものだ。


 ハルトの価値は戦いの強さだけではない。根底には悪用を許さない平和主義があり、貫く強さもある。それらを失うことは未来を失うようなものだ。


 もう何年もハルトを引き留めてきた。勇者見習いとして二年、世界中を連れまわしてきたが、戦うことが無敵でも、経験がものをいう。まだ若いのだ。騙されれば、世界が破滅の方向に傾く。そのうえでも、ライカという人物は危険だ。


 グラスの氷がカラリと鳴り、我にかえる。

「部屋をひとつ用意していただけますか」




 アキトは移動し、扉を開ける。


 すでに数人が待機しており、応接セットから立ち上がった。緊張した面持ちで、頭を下げてくる。アキトも一礼したが、そこにハルトがいなかった。

「……」


 ――発起人がいなくてどうしろというのだ。私に決めろというのか?


 アキトは咳払いして、全員が座った。

「剣士ショーター。魔工師ウォール。商人タロスだな。ハルトからの手紙で仔細は聞いている。三人は勇者ではないことが確認されたため、ダンジョンの出入り禁止の措置が取られる。一般的に諸々の罪においては、市民の司法の判断となる。軽いとはいえないが死ぬことはないだろう。


 今回君たちの乗った荷馬車の御者をしていた男がアブソルティスの構成員であると報告を受けた。ダンジョンで採取した魔法石やアイテムを売り払い、君らの荷物も被害を受けたそうだが、この事実に間違いは無いか」


 三人は頷く。

「君たちは大量の武器や防具を運んでいた。それは弱い勇者たちに配布するためであり、そのために勇者を騙る必要があったとあるが真実かね?」


「間違いないです」

「御者の男とはどのような関係だったのだ? 頻繁にあの男の荷馬車を利用していたということは一味とみなすが、反論の余地はあるか?」


 タロスが答弁した。

「確かにあの荷馬車を何回か使用したことは事実。しかしアブソルティスであったことは今回の強奪があるまで知らなかったことじゃ。もし、知っておったならニックが許さぬ。アブソルティスには恨みがあるからのう」


 アキトは資料を読み返しながら確認を続けていく。

「では、アブソルティスと知らずに付き合ったということは?」

「四人で行動すると決めていた。こっちも命懸けなんでな、素性の知らない男を簡単に混ぜたりせんよ。お宅の見習い勇者もそうじゃろう。

 仲間に入りたいと言ってきたが、最終的には脅迫して無理矢理じゃ。善人だから良かったが、死ぬか、味方にするかなんぞ、おかしな男よ」


「ハルトのことはさておき、荷物を御者の男に分け与えたことはあるか?」

「無いに決まっておる。そんなことをすれば我々の行動は露呈してしまうぞ」

「御者の男は一切関わり合いがないということだな?」

「そうじゃ」


 アキトは軽く息を漏らした。

「ショーターとタロス。二人はベッケンハイム以外の場所に宿を借りている。そこで何をしていた? ハルトの世話をニックとウォールに任せ、誰と会っていた?」


「女じゃ! 何しろ祭りには美人ホステスが……」

 アキトが睨んだ。ショーターは横目でタロスを見る。

「報告では、大通り三階建てのホテルに宿泊。マントに身を包み素性の知れない男が訪れたとある」


 ショーターが唸る。

「それもハルトが報告したことか? どうやって! あいつはずっと宿屋にいたぞ」


「彼もテイマーだ。使役する獣ぐらいいる。けれど誰にも言えなかったそうだ。ニックが純粋に女遊びだと信じている裏で、コソコソと何をしていた」


 二人は苛立ちの矛先をハルトに向けようとした。

「ハルトは争いを好まない。だから火の粉を撒くようなことは言わん。しかし裏切り者がいれば報告するのが彼の任務だ。どちらが裏切り者かといえば君らのほうだと私は疑う」


「俺たちは裏切っていない!」

「何をしていたのか説明しろ。御者と待ち合わせて、今回の強奪作戦を練っていたのではないのかね!」


「違う! 荷物が強奪されたのは青天の霹靂。仲間を犠牲にして自分の利益を得ようとは思わない」


「この街で御者と別れた後、再び御者と出会えたのは偶然か? 善良な御者ならば、すぐにエルダールに向かうはず。どんな言い訳があったにしろ、荷物が無くなっていれば疑問を抱くはずだ」


 ショーターは言う。もう言い逃れできない。

「確かに御者と会った。荷物を売り払ったことは俺も追求した。でも条件つきで黙ることにした」

「条件とは?」


「荷運びだ。いつもはフォレストパレス行きの荷物に混ぜて運んでいたが、今回はそれができない。だから馴染みで、顔パスで経験のある御者の力が必要だった」


 アキトはさらに追及する。

「それだけではないだろう。宿代を支払わせ、売り払った代金の一部を搾取した。宿屋の使用人が見ている」


 タロスは唸った。ショーターは頭を下げる。

「横領を認めるんだな?」


 ショーターは頷いた。

「すまん。みんな」


 タロスはアキトに縋った。

「どうしても足りない材料があったのじゃ。高額で、片手間に採掘できるようなアイテムではなかった。それを買うための金が必要だった。宿に呼んだのは魔工技師。ウォールも分からない部分があって、アイテムが完成させるのに必要だった。だから我々はアブソルティスには関わっておらん」


「なぜそれを隠した。別に知らせても害のないことだろう」


 ウォールは大きな鞄を差し出した。

「これです。最上級テイマー仕様の装備品一式。もうすぐニックの誕生日なので、内緒で準備していたんです」


 アキトは額に手をあてた。それは言葉が出ない。

 ウォールは言う。

「ニックは有能でしたが、自分自身の装備は丸裸に近かったのです。自分はテイマーだから、従えるモンスターたちの装備に回したいといい、弱い勇者を優先して自分の装備品は貧相にしておりましたから、何度も危険な会っていました」


 タロスは肩を落とした。

「誕生日プレゼントなら、断ることもできん。だが日が迫っておった。エルダールに到着したら渡そうと……もっと早く渡しておれば……」


 ショーターはむせび泣く。

「我々はニックを守りたかったのだ。少しひねくれてはいたが、弱き者を助けようとする気概があった。立派な勇者だ。我々は彼の意思に賛同し協力していた。アブソルティスに従うことは、ニックの想いを裏切ることになる。そのようなことは絶対にしない」


 アキトは感じ入って、三人に頭を下げる。

「勇者のことを、そこまで想ってくれて、感謝する。この国では、勇者に人権は無い。我々は奴隷だとハルトは断言している。国民は決して危険な場所には行かず、ダンジョンの利益で生活している。だからこそ褒めたたえるが、救いの手は差し伸べない。そういう国民がほとんどだ。


 その中で、真に勇者の味方となり、仲間となってくれたことを嬉しく思う。人として認めてくれてニックは幸せ者だったと思う」


 ショーターは言う。

「ほっとけないんだよなぁ。

 ダンジョンでバーサクが来ると知った時、ニックはすごく喜んで、どうしても顔がにやけちまうんだ。ちょっとした隠れファンで、ボスに近づくと危険だというのに、どうしてもバーサクが見てみたいって言うから、ひやひやした」


 アキトは困惑している。

「ニックはそういう男だとは聞いていないが」


 ウォールが頷く。

「浮ついた顔でいては仕事にならない、役目を果たせと言ったからです。以前、ニックはハルトに命を救われたことがあり、世間で噂がされるような狂戦士ではないことは知っていました。


 同じテイマーであり、剣士としても強いですから、憧れだったのでしょう。親しくなりたくて、宿にずっといたんです。まぁ、口が悪いので、裏腹なことばかり言ってしまう癖はありましたがね」



 三人は頷いた。アキトはしばらく黙った。

「結論を出す。罪は償わねばならぬ。出頭させて、罪を償うのが決まり。だがこれを行うことによって、弱い勇者たちは支援を失い、いたずらに人が死ぬのは許されることではない。


 これはハルトの提案でもあるのだが、今回のことは見逃がそうと思う」


「え? いいんですか!?」

 ショーターが思わず声をあげた。


「ただし条件として私の直属になり、偵察部隊として私の傘下に入ること」

「偵察部隊ですか」


「偵察部隊なら引き続き勇者の特権も利用できるし、自由行動が利く。もちろん装備品の制作も許可しよう」

 タロスは困惑している。

「巧い話じゃのう」


「君らが訴えるとおり、弱い勇者が犠牲になることは、私も黙ってみてはいられないのだ。ニックが今回のような結果になり、私としても非常に残念だ。彼は自らの命をもって、この必要性を訴えた。これに応えずして勇者といえるか。

 できれば同志として、色々と話を聞いてみたかったよ」

 三人がむせび泣く。


「泣いている暇は与えないぞ。ボイマール平原にキムラという勇者がいる。彼は盗賊団を作り、勇者を離脱させようとする動きがある。そこに潜入して、真相を掴んでほしい」


「分かりました。こちらこそよろしくお願いします」

 これで万事解決、とはいかない。アキトにとって重大な問題はこれからだ。


「それで、ハルトはどうなのだ?」


「まだ逢ってないのですか?」

「嫌われた困るから、先に様子を知りたいのだ。どうせまた宿屋になりたいと言っているのだろう? どう説得すれば良いのだ」

 四人は困惑している。ウォールは言った。

「説得も何も……」



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