嬉しい誤算
部屋に戻るとニックが言った。
「ディナーまで時間が無いぞ。ウォールが何の仕事をしているか分かったのかよ」
「う~ん。ヒントが少ないんですよ」
「そんなはずないだろ。部屋で居残りしてできる仕事はそう多くない」
「あ、もしかして科学者とか室内でできる仕事か! 全員戦闘が得意というわけではないということですね」
「これ以上ヒントはあげられないな」
「ええ! もうひとつぐらい……じゃあ、質問して良いですか?」
「ひとつだけなら」
「護衛と商人が討伐に参加するのは、勇者が必要と認めれば認証されることです。なのに、何故勇者のフリをする必要があるのでしょう」
「勇者特権だ」
「勇者はどんなアイテムをどれだけ所持しようと監査が入らないってやつですね。なるほど、商人でしたら、高級魔法石の所持は許されません。一般でも高価なアイテムなら、因縁をつけられて取り上げられてしまうくらいですから」
高品質なアイテムのほとんどが王宮に独占される。そこには莫大な利権があるし、王宮や貴族抜きで商売はできない。材料が高額になるし、何よりも勇者以外の人間が必要とすることは、テロや反政府の疑いがかけられる。勇者でいればそういう武器や防具を持っていても怪しまれないわけか。
材料が揃ったなら、あとは人材だ。特別なアイテムを上の人間に内緒で作るために、実力のある魔工師に依頼する必要があるだろう。
ニックは笑う。
「もうヒントはやらないぞ」
「この答えが分かったらご褒美くれるんですよね! じゃ、ずばり言いますよ? 魔工師です。防具や剣に魔法効果を付与しているんでしょう!?」
ハルトの答えにニックは微妙な顔で、ウォールを呼んだ。
ウォールは大きな包みを持っており、ハルトに手渡す。包みを開いても分からない。長い棒と筒。小さなクッションと穴の開いた幅の太い丸枠だ。
「こうするんだ」
ウォールが組み立ていく。棒はハルトが失った長さだ。みるみるうちに期待度が上がった。太腿で固定する筒。柔らかな緩衝材。角度とバランスを維持する輪に魔法石が填められた。
「歩いてみな」
義足だ。両足で歩くことができる!
「凄いです! ウォールさんは魔工技師だったんですね!」
「資格はない。独学だ」
微調整を繰り返している間もハルトは夢心地だ。
ニックは真面目に言った。
「装備品は大事だろう?」
「はい!」
「必要な道具や材料を揃えることのできない勇者たちはたくさんいる。王宮神官や強い勇者たちは、弱い勇者に対して何の協力もしてくれない。オレたちは一人でも多くの人間が生き残る道を模索している。
テメェはどこへ行っても見習いで、うちのチームにも名前に載らない。だが、オレたちは認めているぞ。ハルト、テメェは5人目のメンバーだ」
「初めて名前で呼んでくれましたね!」
ニコニコ顔のハルトにニックは拗ねている。
「これで魔王と戦えます。もうエルダールに行く必要は無くなっちゃったみたいですね! 今度俺がボス戦を終えた時、こっそり時間を取って呼びますね!」
「もう戦うつもりでいる……意外と好戦的だな」
「だって早く使ってみたいじゃないですか!」
「問題は、アキトにばれちゃうことでしょう。誰に作ってもらったのかって、絶対問い詰められます。だから思い切って、アキトの公認にしてもらいましょうよ」
「アキトに全てを話せと? それでは聖女や上の人間に……」
「説得します。アキトが仲間になったら、これ以上なく活動できますから、これは美味しい話です。もし言うこと聞かなかったら、ぶん殴りますから」
「ぶん殴る? アキトを?」
「大丈夫ですよ。勝率は俺の方が上ですし、彼は話の分かる男です。さぁ、歩行の練習も兼ねて、お祭りに行きましょう!!」
ニックとウォールは半信半疑だ。ハルトは大きく頷いた。




