月下美人祭
ドン・ドドン!
朝食時、砲撃の音がして、四人が一斉に食卓から立ち上がった。さすが勇者で、こういう音に反応が早い。
「景気づけの空砲ですよ」
ハルトは日なたの泥水のようなスープを満喫しながら、四人の素早さに感心する。
店のポスターに気付かなかったのだろう。夏に咲く花をイメージにしたイベントがあるようだ。
若くて可愛いウエィトレスに問う。
「お祭りかバザーでもあるのですか?」
「はい。今夜から夏祭り”月下美人祭”です。この一帯は月下美人を栽培しているので、今が出荷の最盛期なので」
「確か……夜に咲く白い花でしたよね」
「こういうお花です」
ウエィトレスは白い花の髪飾りを見せてくれた。シンプルかつ洗練されているのに豪華にみえる。本来もっている美しさがにじみ出ているのだろう。
「別の地方ではクイーンオブザナイトと呼んでいます。男性は鉢植えを買って、目的の女性にプレゼントするのです。一般の殿方はお祭りだからと誘い出してデートを楽しみますが、お相手がいない方は別の楽しみがありまして」
タロスが聞き耳を立てる。
「それは興味あるのう!」
「夜のクイーンを決めるコンテストです。出場資格があるのは月下美人の所持が一定以上ある方なので、貴族やホステスさん、あとはアイドルとか。特にホステスさんは凄いです。すでにお店に並べて数を競い合っていますよ」
ショーターが鼻息を荒くする。
「コンテストか! さぞかし良いオンナが集まるんだろうな」
「はい。ずっと露店も出ていますし、夜通しで賑やかです」
「それは楽しそうですね~。俺も行きたいなぁ」
ハルトは冷ややかな視線を感じる。ニックはため息まじりだ。
「ガキは寝てろ」
そういえば、外見は十七歳だった。
「昼ですよ! 美味しいものとかたくさんありそうです。俺、ずっと戦ってばかりで街に出たことはほとんど無くて……」
ウエィトレスのマリエルは不憫に思った。
「私の知っているお店もいくつか紹介したいですわ。具合が良いなら、ご案内しましょうか? 」
「それはもうバッチリです。良かったら一緒に……」
会話はオバサンのたくましい肉壁と目の前に広げられた地図で塞がれた。ニックが反抗するなと視線を送ってくる。
「ただいまご案内しましたからね? うちのマリエルも、今夜は忙しいんですの!」
「そうですよね~」
オバサンが去っても、ニックは呆れている。
祭りだというのに、朝食をとりに現れた客はほとんどおらず、宿泊客はほとんどいない。今夜から忙しいというのは言い訳にしか聞こえない。
「テメェも元に戻ってないだろ。こんなクソ不味いスープ飲み干すなんて、完全に味覚が死んでるぞ」
「これでも体調はけっこういいんですよ? あぁ月下美人祭、見てみたいなぁ。ほら、チームにも入れてもらえたことだし、もっと友好を深めましょうよ~!」
「ダメだ。体調戻っても足! 空飛んで遊びに行く気か。さっさと食って寝ろ」
「現実突き付けないでくださいよ~。せっかく作ってくださったんだから、お料理はできる限り残しません」
ハルトがこっそりかけたマイ調味料にショーターが反応する。
「オレも! いいだろ、オレたち仲間だもんな?」
ショーターがスプーンを閃かせた。弾かれ宙に浮いた調味料をタロスが受け取り、四人のスープに振りかける。
「ずるい。一人だけこんなに美味くしていたなんて」
ドロドロのスープがさっぱりしてトロトロだ。
ハルトは感心する。まぁその連携の早いこと!
※ ※ ※
ニックが眉間を寄せている。
「ちょっと待て、ショーター」
別に調味料のことを指摘しているのではない。その前の会話だ。
「バーサクは仲間ではない。馴れ馴れしくするな」
ハルトはナイフが刺さったぐらいにショックを受けた。
「だって一緒に旅をするんですよ? お互い助け合った仲じゃないですか。昨日だって、いっぱい話して仲良くなれましたよね!」
「チームに入れろと言ったのはテメェだろ。宿に泊まるのと医者を呼んだのはチームリーダーとしてオレが責任を果たしただけだ。会話したのは情報収集。それ以上の意味は無い」
「そんなぁ……」
ハルトは諦めきれない。
「チームに入れるか、カタカタ鳥に襲われて死亡。あんな脅迫めいたやり方で納得できるかよ」
「それはそうですけど、皆さんがあまりにも拒否するからでしょう? 料理に砂をかけたり、投げつけたこと、俺は忘れていませんよ? それでもこれからは楽しく旅をしたかったんです」
「楽しければいいなら、勝手に一人で笑っていろ。まぁ約束だからチームには入れた。しかしバーサクと親交を深めるようなら、オレはチームを抜ける」
三人は急に大人しくなった。ハルトは寂しくてたまらない。
「仲良く楽しくいきましょうよ~」
ニックは挑発するように笑う。
「仲間になりたいか?」
「当たり前です。上辺だけの関係なんて楽しくないです」
「だったら信用されるだけの行動を取れよ。本当に味方だと信じることができたなら、仲間として受け入れてやってもいい。つまり信頼だ。同じチームで、仲間になりたいなら、何でも話せるよな?」
「何でも…ですか?」
タロスは頷いた。
「それもそうじゃ。素性の分からない男を信じろと言われても、そうできるものではないぞ。おぬしのような若者は自分の思うまま信じたい人間を信じるだろうがが、全員がそうというものではないのだ」
「俺の素性ですか?」
ハルトは苦笑した。
「それは困りましたね。一日かかってしまいます。朝食の話題としては長すぎません?」
ハルトはRBCでは最劣勇者であったこと、その陰で寝ずに修行したこと。アキトに拾われて見習い勇者として活動したことだけを話した。けれど自分だけ話すのではなくて、この四人の関係を聞いてみたいものだ。
そんなハルトの思惑をニックは知らない。
「早い奴は半年でRBCを卒業する。アキトは三か月だった。なのにテメェは十年かよ」
「アキトは本当に早くて、初めて出会ったのが卒業した日でした。その日からしつこく勧誘されて、結局勇者見習いになりました。長くいましたから、たくさんの方が卒業していくのを見送りました。もちろんニックさんもです」
「!」
「覚えていますよ。テイマーは数が少ないですからね」
ニックは赤面している。
「でも、残りの皆さんのことは覚えていませんので疑問に思いました。ジェットに確認したところ卒業名簿に名前がありませんでした。名前を変えているか、外部の人間ということ。俺の考えでは後者です。名前は変えることで有利なことはありませんし、今更言うのもなんですけど、最初から勇者っぽくないです。RBC出身だというのは怪しかったです」
ショーターは混乱した。
「最初から?」
「だってショーターさんの松葉杖って仕込み杖でしょう? 微量に炎の魔力を感じます。炎剣を仕込んで、松葉杖にしている。そんな勇者はいません。堂々と戦うのが勇者ですから」
「おお、よく炎剣だと見抜いたな」
「タロスさんは身のこなしが良い。回復もできるのは体内の気を操れるからですよね。その体格、老いても肉体そのものが武器だけれど、そういうのはRBCではなくて、どこかの武闘派なお寺で鍛えた方が多いです。まぁ前の世界にいた時がそうだったならで、確証はないんですけどね」
「良い着眼点じゃ!」
「ですから腕を失くしたのは意外でした。長年の勘を越える相手。防御に出した腕を斬られてしまうほど、相手も強かったんでしょう」
「そうじゃ。腕一本で済んだから命がある。だが拳法家も腕がなくては戦えん」
ニックは思わず立ち上がった。
「食事は終わりだ! オレはテメェの話を聞きたかっただけだ。オレらのことを詮索しておいて、何が仲間にしろだ! 全然、信用できねぇな!」
ハルトは動じない。
「都合が悪いですか? どうせ仲間になるのですから、遅かれ早かれ分かることでしょう。座ってください。それとも最初から俺のことだけ聞いて、仲間にするつもりは無かったのですか?」
ニックは仕方なく座った。
「あと不審に思ったことはあるか?」
「チームとしても不審に思いました。俺が他の負傷兵の話をした時、全員沈黙したんです。他のチームに知られたくないことがあると思いました。誰もいないと思った荷馬車に、俺がいたからニックさんは中傷して距離を置こうとした。
今だってそうでしょう。大事な秘密だし仲間を守りたい。だから警戒しているんですよね?」
ニックは皮肉めいた笑いをした。
「バーサクなんだから、理由無しでもツッコミたくなるさ」
「その秘密、俺にも打ち明けてくれませんか。協力できるかもしれません」




