表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

09

「ふぅ、なんだか学校が久しぶりな感じがしますね」

「確かに、最近はどうしても放課後からがメインだったからね」


 働いて、咲来て、智紗も来て、みんなでお泊り。

 もう学生という意識すら薄れかけていたけど、こうして平日がやってきてあたし達は学校にいる。


「敬語、やめるんでしょ」

「だってあなたは……咲さんと決めたんですよね?」

「は? なんで?」

「……咲さんはそのまま泊まったんですよね?」


 だからってどうして咲に決めたってなるのか。

 あの子はいい子だから一緒にいたくなるとはいえ、そういうのはまだ……。


「一緒にお風呂、入ったんですよね」

「あのさ、そこまで気になるならなんで譲るとか言ったの」

「年上として……なんか必死になるのもださいかな、と」

「じゃあやめたら?」


 それをださいと考えたら他のこともださくなってしまう。

 好きな人の隣にいられるよう努力することがださくなんかあるわけない。

 ってまあ、あたしが言うのは違うのかもしれないけれど。


「つまりさ、別にただの暇つぶしくらいだったってことでしょ?」

「あなたのせいですよ」

「じゃあどうすればいいの?」


 聞いたら「え、どうすればいいって……」と彼女が困っていた。

 が、困っているのはこっちだ、簡単に譲れる程度の気持ちだったのなら言わないでほしいとも思う。


「あたしがどうしたら戻ってくれるの?」

「……もういいですから早く決めてください」

「いや、決められないって、片方がそんな感じじゃ。譲るのやめるって言ったのあんたでしょ? だったらいまここでもう興味ないとか言ってよ。そうすれば咲だけを見るから」


 なんとも曖昧な状態で咲とだけ向き合うということはできない。

 やめるならやめる、まだ続行するならそうするって言ってくれないと困るのだ。


「だ、だって……」

「だってもくそもない、ハッキリしてよ」

「……私が仮にこっちを選んでって言ったところで、結局咲さんを選ぶんじゃないですか」

「なんでそんなの分かんの? あんたはあたし?」

「違いますけど……どう考えたって咲さんの方が魅力的ですし」


 確かに咲は魅力的だと言える。

 可愛くて胸でかくて優しくてお手伝いも文句を言わずにやって周りを不快にさせることもない女の子。

 そんな子が好きだと言ってくれている、それって凄く幸せなことなんだと考えている。


「胸だってあんまりないですし」

「あんたあたしがエロオヤジとでも思ってんの? 胸の大きさだけで決めると?」


 彼女は珍しく机にバンッと手を付いて立ち上がった。

 そういうことは絶対にしないのが委員長だったので、周りの子は当然驚いていた。


「あなたこそハッキリしてくださいよ! 大体、あなたが中途半端な態度を取っているからこっちは――トイレに行ってきます」


 いやいや、初めての体験なんだからそりゃ優柔不断にもなるわ。

 智紗や咲がどうなのかは知らないけど、ふたりから求められてどっちかなんてすぐ決められない。

 だってふたりともいい子だし、どっちも魅力的だから。


「鳴海さん、委員長と喧嘩しちゃったの?」

「いや、喧嘩じゃないよ。だけどごめん、騒がしくして」


 来てくれたのは智紗が風邪の時に家を教えてくれた子。

 心配そうな表情を浮かべている、迷惑をかけてしまったようだ。


「ううん、喧嘩じゃないならいいんだけど……仲良くしてね」

「うん、ありがとう」


 智紗もすぐに戻ってきて、でもこちらに話しかけてくることはなかった。

 それは放課後になるまでずっと同じ、放課後になったらバイトがあるため早々に学校をあとに。 

 そこには問題事を持ち込むべきではないため、一旦は全てを捨ててそちらに専念。

 終了したらすぐに帰宅――は、できなかった。


「莉子ちゃん、智紗さんとなにかあったんですか?」


 なかなか鋭い彼女に言われて足を止めてしまった自分は馬鹿だが。


「今日ハッキリしろって怒られたんだ。あたしが中途半端な態度を取ってるから困ってるんだって」

「……あの、こんな時に言うことではないかもしれないですが、決めてくれませんか」

「あんたも言うんだ」

「智紗さんではなく私ってっ」


 ああ、こっちはえらくハッキリ言うんだな。

 自分を選んでくれって、大変分かりやすくていい態度。

 このまま決めたらゴチャゴチャ考えなくて済む。

 咲だって喜ぶし、あそこで働く時もより楽しくなる。


「莉子!」

「「え」」


 後ろから聞こえてきたかなりの大声。

 いつもみたいに20時を越えているから完全に近所迷惑レベルのもの。

 それでもあの真面目な委員長が一切気にせず、


「私、莉子が好きなのぉ!」


 と、真っ直ぐにぶつけてきた、きてしまった。

 これによりこちらは完全に硬直、まともに考えることもできずただそちらを見るだけ。

 ゆっくりと歩いてくる彼女の顔は、今朝のような余裕のなさは全く感じられない。

 が、横に立っていた咲が「ずるいですよ……」と小さく漏らす。


「ごめんなさい」

「……謝るくらいなら被せるなんてしないでくださいよ」

「莉子にハッキリしろって言われたから」

「もう……無理じゃないですか、これまでなんとかなっていたのは智紗さんがハッキリしていなかったからです。でも、いましてしまった、しかも私の後に印象づけるように」


 やばい、猛烈に逃げたい。

 自分が関係していることなのに、こちらがハッキリしなければならないのに。

 もう逃げることはできない、彼女達は答えを出してしまったのに。


「ごめん……帰ってもいい?」

「あなたの言う通りにしたじゃない、なのに決断せずあなたは逃げると言うの?」


 だって、咲が泣いてるからってそっちを選ぶなんてできない。

 大胆な告白をしてくれたからって智紗を選ぶというのも違う。

 好きって分からない、それともこの逃げたい気持ちがそうだと言うの?

 恋って暖かい子持ちなんじゃないの? このギュッと握り潰されるような感覚は違うでしょ。


「幻滅しました」

「え……?」

「智紗さんもハッキリしてくれたのに自分だけ逃げようとするなんて」


 逃げようとっていうか、整理したかっただけなんだけど。

 この場所で決めたらよく考えずに選ばれたんじゃないかって不安に――ってのは自分のための言い訳なのかな……。


「……こんな人を好きでいた自分が間違いでした」


 いや、誰だって魅力的なふたりから求められたら迷うって。

 そのどちらにも好きとか言わないだけいいじゃないか、経験なしなりに考えて行動しているのに。


「失礼しますっ」


 この形は1番最悪なものではないだろうか。


「咲っ」

「なんですか!?」

「これ、庸一さんに返しておいてくれる? 明日からもう行かないから」


 まだ1円も使ってないし、今日だけのじゃなくてこの前のも全部入っている。

 いきなりやめる無礼のお詫びとして、全てを返せば庸一さんだって許して……はくれないかもしれないけど、せめてお金を無駄にしなくて済むという形にはできるから。


「それは働いてあなたが貰ったお金じゃないですか」

「いや、貰えないって。元々、あんた達の特別になった時に恥ずかしい存在にならないようにって頑張っていただけなんだよ。でもほら、結局無駄だったわけでしょ? だから返しておいて、あとごめんなさいって謝っておいてくれれば――」

「知りませんよそんなこと! 自分でしてくださいよ年上なら!」

「まあ……それはあんたの言う通りなんだけど。じゃあ、いまから行くよ」


 ってまあ、すぐそこに戻るだけなんだけど。

 

「あの」

「あれ、莉子くんじゃないか、どうした……ああ、辞めたいのかい?」


 察しがいいな、後ろにいる咲を見て分かったんだろうか。

 それでも怒気を帯びた顔つきになるということもなく、ただただいつもの温和な庸一さんそのもの。


「はい……それでこれを」

「困ったなあ、それはもう君の物なんだけど」

「ほら、いきなり辞めるなんて最低な人間にお金なんか渡すべきではないですよ」

「最低か、こうして直接言いに来てくれるのにかい?」

「普通は2週間くらい前から言わなければならないんですよね?」


 なんでこんなに苦しいんだろう。

 こんな思いを味わうくらいなら、恋なんかしない方がいいのかもしれない。

 ――とにかく、いまはこのお金を返して家に帰るのが優先するが……。


「莉子くん、それはもう君の物だ。それと、また働きたくなったらいつでも来てくれればいい」

「い、いや、普通有りえないですよ、こんな失礼な人間なんか働かせて損だったぐらいに――」

「いいんだ、気にしないでくれ。ちょっと咲と話がしたいから、今日はもう帰りなさい」

「はい……ありがとうございました」


 あ、そういえば智紗はどうしたんだろうって考えながら出たらすぐのところにいた。

 遠慮なくあたしに付いてこようとするから特に止めず家までの道を歩いていく。


「するいわよね、咲って」

「なんで?」

「だってあなた、気になっているでしょう?」

「ねえ、好きって押し潰されそうな気持ち?」

「違うわよ、もっと暖かいものよ」


 じゃあやっぱり違うんだ。


「……こんな苦しい思いにしかならないなら、恋なんかしない方がいい」

「苦しい? だから逃げたかったの?」

「うん……だって咲は怖い顔をしていたし、あんただってさ」

「好きでいた自分が間違っていた、そう言われた時どう思ったの?」

「……未経験なりに考えて動いているのにって」


 幻滅したって言っていたけど、こっちは信じろなんて別に言ってない。

 おまけに、好かれるようなことはしていない、嫌われることしかしていなかった。

 年上として頼りないのは分かっていた、あの子達が発言したことだってその通りで。

 でも、あたしなりにって考えて行動したのに、それが結果として良くない影響をもたらした。


「まあ……それはいいんだよ、いま引っかかっているのはお世話になったのに一方的に辞める形になったことだから」


 人に嫌われるなんてこれからも沢山あるから。

 それがたまたま年下で妹の友達だったってだけ。

 別にショックを受けることなんかじゃない。

 お金はまあ母さんに渡して使って貰えば全て解決だ。

 あたしの物と言った、庸一さんは受け取らなかった、ならどうしたって文句は言われない。


「もう1度、話してみたら?」

「は? なんで?」

「なんでって……ふふ、あなたって下手くそよね。さようなら、もう帰るわ」

「え、返事、まだだけど」

「じゃあしなさいよ」

「あー……あんたがいいなら別に」


 消去法にみたいになっちゃったけど、そこは我慢してほしい。


「いいのね?」

「だからそう言って――」

「あ、咲」


 慌てて振り返ってみても誰もいなかった。

 嫌な気持ちになってもう! と怒ったら、智紗がくすくすと笑い出した。


「やっぱり気が変わったわ」

「は? あたしはあんたがいいならいいって言ってんじゃん!」

「消去法で選ばれるのはごめんだし、それにあなた、いま証明したじゃない」


 別に咲の方が大事だからとかじゃない。

 ただあれ以上ダメージを与えないようにって働くのも辞めると言ったのだ。


「だ、だったら好きなんて言わなければいいのに」

「ハッキリしろと言ったのはあなたでしょう? だからしたのに今度は文句を言うの?」

「だからさ、あんたがいいならあたしも!」

「じゃあ、これから咲を呼ぶから直接言いなさい。あたしは智紗の彼女になったからって」

「そ、そんなこと……今日じゃなくても……」


 まあ確かにあたしのこれは、咲が無理になったから智紗に~的なものもあるかもしれない。

 だからって、あの状態のあの子にまた追いダメージを与えるとか残酷だろう。


「はあ、なに甘ったれたことを言ってるの? 結局どんな対応をしようが片方は断るということじゃない。そんなコソコソとしかいられないのならごめんだって言っているの! どうせなら堂々と隣にいたいし、いてほしいのよ! なんでそれが分からないのっ」

「しょうがないでしょうが! あたしは……初めてなんだから!」

「私だってそうよ、きっとあの子にとってもそうだわ。なのにこんな終わりでいいの? このまま時間が空いたらさっきのあなたみたいに恋するべきじゃないとか考えてしまうかもしれないのよ? あなたのせいでこの先の楽しみであろうことをひとつ奪うことになるのよ?」


 なんで? あたしは別に今日は答えられなかったけど整理して考えようとしただけなんだ。

 それで幻滅した、好きでいたのが馬鹿だった、なんで分からないとか言われるのは素直に嫌だ。

 急かされたって出るものもでない、それどころか出そうなものも引っ込んでしまう。


「莉子くん、東山くん」

「……すみません、お店の前で叫んでしまって」


 こんなすぐに迷惑をかけてしまって……最低だ――って考えておけばいいと思っている自分が嫌だ。


「確かに外でやると他の人に迷惑がかかっちゃうよね、だから中で話し合わないかい?」

「な、中でって……えっと、お店、ですか?」

「うん、ちゃんと話し合った方がいいと思うんだ。さっき東山くんも言っていたけど、このままだと今後に悪い影響が残ってしまうから」

「それではお邪魔します」

「え、あんた……」


 智紗が躊躇なく同意し中に入っていこうとする。

 なんで、中に入ってなにになるっていうの?

 話し合いとか言って、どうせ今日逃れようとしたあたしが責められるだけなんじゃ?


「今度こそ逃げないでよね」

「……分かったよ」


 カウンターの1番端に咲、その横に智紗、あたしは敢えて1番端っこを選択。

 そうしたら庸一さんがコーヒーを淹れようとしたから慌ててお金の袋を取り出した。


「別にいいんだよ」

「これを飲んでもらって収益を出しているんですよ? それを3杯も無料って……全部あたしが出しますよ、そういう約束でしたよね?」

「それじゃあって、貰えないよ、いいから飲んでほしい」


 そりゃありがたいけど、飲ませて貰ったからってこの問題が解決するわけじゃない。 


「莉子……さん」

「な、なに?」

「……先程はすみませんでした」

「……あのね、あたしは別に家に帰って整理しようとしただけだったんだよ。別にそのままずっと答えを出さないとかそういうことは考えていなくて……」


 好きでいて馬鹿だったってそこまで言われたの初めてだったけど。

 苦しいのってそういうことだったのかな、それを咲に言われたからってこと?


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 ああ、でもこれを飲むとやっぱり落ち着く。

 お金は後で絶対に払う、そのまま返ったら万引きをしたのと同じになってしまうから。


「咲、あなたは結局どう思っているの?」

「どう……って、信じてもらえないかもしれないですけど……好きなのは変わらないです」

「じゃああんなこと言わなければ良かったのに」


 あんたが言うなやっ、いやあたしも言えないけど。


「というか……後悔しました」

「それで庸一さんにお願いしたの?」

「してません……もう終わりだと思ってここで座っていたら……気づけばあなた達が」


 あたしも終わりだと思っていた。

 だから求めてくれるならって智紗を受け入れようとした。

 ひとりに専念できる環境に強制的になってしまったから、じゃあこれからはって考えて。


「あなたはどうしたい?」

「どうしたいって……そりゃ莉子さんといたいですよっ。でも酷いことを言ってしまいましたし、あなたという強力なライバルがいるんですから無理ですよ……」

「庸一さん、コーヒーありがとうございました、美味しかったです」


 彼女は立ち上がって帰ろうとする。

 そもそも誰のせいでここまで状態が悪化していると思っているんだ。


「は? なにあんた帰ろうとしてんの?」

「だって必要ないでしょう?」

「ふざけないでっ。咲、あたしは智紗とね、んー!?」


 無理やり押さえられてその先言えず。

 咲に付き合っていると言えと言ったのは彼女のなのに。

 こちらのを押さえながら「あら、どうしたのかしら」なんて白々しく言ってるし。


「はな、せっ!」

「離すわよ。私、そろそろ帰らなければならないの」

「あっそっ、じゃあ帰れば!」

「ええ、そうするわ」


 彼女がいたら邪魔になる。

 たよえ傷つけることになったとしても必要なことをあたしはこれからするつもりだった。


「良かったのかい?」

「庸一さん、ちょっとだけふたりきりにさせてくれませんか?」

「分かった、終わったら呼んでおくれ」

「はい、それとこれ、ちゃんと受け取ってください」

「……分かったよ」

「ありがとうございます」


 先程と違って突っ伏してしまった彼女に言わなければならない。


「ごめん」

「……それが答えですか?」

「だって委員長って放っておけないからさ」

「ははは、自分のことよりも優先しようとする時もありますよね」

「そうそう」


 大胆だったり引き際が潔すぎたり、なんか面倒くさいけど見ておかなきゃって気分になる。


「あの、最後に抱きしめてくれませんか?」

「……それで満足するなら」


 よく考えたら自分の意思で抱きしめるのなんて初めてだ。

 こんなことされても咲としては辛くなるだけだろうが、求めてくれるのならしておけばいい。


「あと、働くのは継続してくれませんか?」

「え……でもそれはあんたが嫌でしょ?」

「それは自意識過剰というものです」

「……あんたと庸一さんがいいなら」


 ここに関わる人、雰囲気がもう好きだし、できることならそうしたい。

 けれど、単純に咲が嫌なんじゃないかって考えてそうしたんだ。

 なのにたった数分で意見を変えられていたら庸一さんもたまったものじゃないだろう。


「僕は大歓迎だよ」

「って、戻ってきちゃ駄目じゃないですか」

「はははっ、まあすぐそこだからね。――莉子くん、東山くんを追ってあげたらどうだい」

「……咲」

「はい、分かっていますよ。ありがとうございました」

「ごめん……は相応しくないから、こっちこそありがとね」

「はい!」


 急いで追えば間に合う。

 何気にあの子よりあたしの方が足が速いから。


「智紗ー!」


 問題なのは彼女の自宅があのお店からそう離れていないということ。

 最悪突撃すればいいが、できることならそれまでに彼女に追いつきたい。


「智紗!」

「あら、咲と付き合い始めたって報告をしに来たの?」


 別になんてことはない、そういう雰囲気だった。

 咲を選んだだけでしょう、みたいな。


「あんた、あたしのこと好きなのんだよね?」

「そうね」

「じゃあ付き合おう」

「は? いや、咲……さんは?」

「ごめんって謝ってきた。また働くことにはなったけど」


 本当に勝手な話だけど本人が望むんだからってそうさせてもらうつもりでいる。

 あそこはもう好きな場所、歓迎してくれているのならいつまでもいたいところだ。

 

「……なに考えているんですかあなたは」

「いや、だってさっき言ったじゃん、咲にちゃんと言ってって。だからそれをしたんだよ。あとね、最後にって求められたから抱きしめちゃったけど……そこはまあ我慢してよ。ほら、あんたにもしてあげるからさ」


 固まっていてくれて助かった。

 でもまあ、自分からするっていうのはなんだか気恥ずかしいものだなあ、と。


「莉子さん……いいんですか?」

「いやだからさ、そのつもりでいるからここに来たんだけど?」

「咲さんは優しいですし魅力的ですし胸も大きいですしなにより若いんですよ!?」

「いや、あんたも若いじゃん、それに胸は確かに足りないかもだけど他は全て満たしてる。つかだからさあ! あんたを選んだから追ってきたんだってば!」


 自分で咲に言えとか言っていたくせに実際にしたらこれかい。

 大胆なんだか弱気なんだかよく分からない子だ、だからこそ可愛くもあるんだけど。


「好きですっ」

「うん」

「私が毎回しつこく絡んでいたのはその……そういう意味からでした。だってあなたはなんてことはないって態度で他の子に優しくできる方でしたから……」

「そう? いやつかそれは智紗でしょ」


 あたしはあれだ、初対面の中学生にやる気なさそうって言われるくらいの女だぞ。

 他人のためにいいことなんかしたことない、それどころか迷惑をかける女だった。

 

「違います、あなたを真似していただけだったんです」

「そっか、じゃあそうしておいて良かった」

「あの……今日はこのままあなたといたいです」

「じゃあ家に来れば?」

「いえ、私の家は今日私以外に誰もいないので来てください」

「あ、ならお邪魔させてもらおうかな」


 着替えとかは彼女に借りればいい。

 汗をかいているからすぐにでもお風呂に入りたい気分だった。


「おぉ、広そうだね」

「はい」

「ちょっと待って」


 中へ入ろうとする彼女を止める。

 

「やっぱりそれが素だったの? あたし、あっちも好きなんだけど」


 先程から当たり前のように戻ってしまっているそれが気になっていたのだ。

 

「あ……とりあえず入って」

「うん」


 中に入らせてもらうと予想通り幅広い廊下やリビングで期待を裏切らない感じだった。


「お風呂入りたい。あ、ちなみに咲とも入っちゃったんだよね」

「……さっきからなによ、咲咲って」

「いや、隠し事をしたくないから。ま、シャワーを浴びさせてもらうよ」


 さすがにこのまま抱きしめたりするわけにもいかない……って、さっきしちゃっけど、まあいまから身を清潔にしておけば大丈夫。


「私も入るわ」

「そ」


 ああ、適度な温度のお湯が気持ちいい。

 汗や疲労が流れていくような気がする。


「どう?」

「どうって……そんな押し付けられても、困る」

「咲さんに負けたくないのよ」

「いいから離れて、正直ヤバいから」


 だっていま裸だから良くないのも当たっているんだ。

 いや胸自体が背中に触れているというのも不味いんだけど……とにかく良くない。

 用が済んだら先に出て風邪を引かないよう拭く――ことは叶わず。


「駄目よ、まだ出させないわ。キスするまで出られない部屋よ」

「そ、じゃあ」

「ん……だ、大胆なのね」

「風邪を引きたくないからね」


 風邪を引いて庸一さんに迷惑をかけたくない。

 それにあんなことがあった後にすぐにこれって駄目だろう。

 少しは我慢しなければ年上として恥ずかしい。


「智紗、あたしはあんたが諦めず来てくれるのが好きだったからね」

「ふふ、なかなか大変だったけれどね」


 そりゃそうだ。

 でも彼女が頑張ってくれたからこそ少しはマシになれた気がする。

 それを伝えるのは恥ずかしい。

 だから、それ以外を一緒にいることで示していこうとあたしは決めたのだった。

読んでくれてありがとう。


正直に言って咲ルートでも良かったんだけど。

途中までそれで、でも最後辺りで智紗に流れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ