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08

「……おはようございます」

「おはよ」


 日曜日はそもそもお店が休みの日。

 本を読んでいたらベッドで寝ていた智紗の方が早く目覚めた。

 昨日はなんだかやけにハイテンションでふたり盛り上がっていたからちょいと遅い起床。


「莉子さ……莉子」

「なに?」

「なんで許可したの? 咲さんとふたりきりになれるチャンスだったのよ?」


 結局選ばなかったってその喋り方をするんかいという話だが。


「別に、それに呼ぼうって言ったの咲だし」

「だから、それでどうして止めなかったのって聞いているのよ」

「……あたしはてっきり呼んでもらえて良かったって考えていると思っていたんですが?」

「それは嬉しいわよ? でも、昨日のあの子の様子を見れば――」

「んん……はれ? あ……おはようございます」


 咲が起きたことにより話が強制中断。

 昨日の咲? あくまで普通――寧ろはしゃぎすぎてて騒がしかったくらいだけど。

 智紗の目には引っかかるなにかがあったということか、ちゃんと見てあげなければならなそう。


「おっはよー!」

「りな、いまはあんたの元気さが救いだよ」

「ほぇ!?」


 中立の立場である妹を抱きしめ癒やされる。

 ふたりがいることでこういうことをしてもなんら問題がない、りなにはじゃんじゃんといてもらおう。


「りなちゃん、ちょっと一緒に下に行こ」

「うん! 行こー」


 ありゃ……咲にりなを取られてしまった。

 また智紗とふたりきりになってしまう、この先どうしたらいいのかはまだ分かっていない。


「莉子」

「それ続けんの?」

「それとも、こっちの方がいいですか?」

「どっちでもいいけど」

「ちなみに、あの子達の前ではしないわ」


 そりゃありがたい。

 咲にまで「智紗さんを優先しているんですか?」なんて言われたくない。


「でもいいわ」

「いいわ、とは?」

「あの子に譲る」

「は? なにそれ、結局適当に言っていただけだったってこと?」

「そうすればあなたも悩まなくて済むでしょう?」


 そりゃありがたい――ってなわるわけない。

 だったら最初から変なこと言うなよ、そうすれば咲だけを優先して動いていた。

 でも現実は違う、あたしはこの子からそれっぽいことを聞いてしまっているのだ。

 なのになにを悟ったのかは分からないがそれはないだろって話。


「それはありがたいですね。けど、そういうのはやめてください!」


 ああ……しかも咲が戻ってきてしまうし。

 りながいないことを考えると、最初から下に移動させるためだったのかもしれないとすら思えてくる。


「私は実力で莉子さん――莉子ちゃんの隣にいられる権利を勝ち取りたいんです!」

「いいの? いいことじゃない、ライバルが消えるんだから」


 だから結局しちゃってるし……智紗の言葉って大体嘘だな。

 あと咲はそれでいいのか、さんからちゃんに変えた意味は?


「でも、譲ってくれるのなら譲ってください」

「っておい」

「ふぅ……分かりました、譲るのはやめます」

「ってなんだよそれ」


 咲も「負けませんよ」と言って笑っているだけだし、智紗だって同じように笑みを浮かべるだけ。


「というか、あなたがさっさと決めてくれればいいことなんじゃないかしら」

「あ、まだそれ続けんのね。あたしが決める、ねえ、じゃあ咲」

「えっ!?」

「って言ったらあんたどうすんの?」


 咲には申し訳ないがここをハッキリ聞いておかなければならない。

 悪口を言わない、しっかり者、仲が良くても指摘しなければならないことはハッキリと告げる。

 いまでもしっかりしているのには変わりないが、もうすっかり彼女がどういう人間なのかが分からなくなってしまっている。


「そうしたらお祝いしますよ。幸い調理スキルも高い方なので美味しいごはんを振る舞うことぐらいはできますから」

「やるのは勝手だけどね、急かされるのは嫌なの」


 その気がないのに変なこと言われて振り回されるのは嫌なんだ。

 それに働くことをいまは頑張りたい、目的が変わってしまっているが自信を持てるようにしたい。


「そう……ですよね」

「あんたはハッキリして、敬語かあっちか」

「なら……咲さん……咲はこうだから、私はこっちにするわ」

「そ、じゃああとは全部自由に任せるよ」


 好きでいるのをやめてなんて言えないから、あたしに言えるのはこれくらい。

 今度は智紗が部屋から出ていき咲とふたりきりになった。


「莉子……ちゃん」

「別に莉子でいいよ。で?」


 智紗に真っ直ぐぶつかった人物とは思えない。


「……さっきみたいなのはやめてください、期待してしまいますから」

「咲、あんたさっきの嬉しかった?」

「それはまあ……驚きましたけど」

「好きになるってどんな感じ?」


 あたしも好きになったら仕事でもなんでも頑張れるのだろうか。

 もしそうなら確実に役立てる、お金のためではないが自信満々に受け取れる。


「最近は暑いじゃないですか。でも、逆にそれは暖かいんですよ。しかも、毎日程度ならいいんですけど毎時間、毎秒それを求めてしまう……病気って言われるのがよく分かります」

「あたしと別れた後は寂しい気持ちってこと?」

「当たり前ですよ、あなたと初めて会った日からですよ。罪作りな方です本当に」

「あたし、そんな思わせぶりな発言とかしてないけど、迷惑ならかけたけどね」


 咲が悪いわけではないのに謝らせて逆にあたしが泣きそうになった時だってあった。

 相手ならともかく自分が泣きそうになるっておかしな話だが、あたしらしいとも言えるから困るんだ。


「先程しましたけど?」

「あれは……あんたに確認した時と一緒だよ」

「私……やっぱり素直におめでとうって言えないかもしれません。あなたとその相手の人をずっと恨むかも」

「怖いねえ、最近の中学生は本当に怖いよ」


 決めてあげられれば3人で楽になれる。

 けれどどちらかを選ぶと片方から恨まれるって詰みみたいなものじゃん。

 そんなの現状維持を望む人間ばかりになると思うのだが……。


「とりあえず、1階に行こ――それ、抜け駆けにならないの?」

「年上の方に甘えているだけです」

「年上ってあんまり強調しないでほしいけど」


 そういう背後から急襲接触系は勘弁してほしい。

 正直に言って心臓が口から出そうになったから、いや本当に。

 確かに感じる暖かさと見られたらどうしようというドキドキ。

 もし彼女の甘える顔を直視してしまった場合は――どうなるのか分からない。


「年上ですよ」

「だね」


 誰かがやって来てぶち壊してほしい。

 このままではやばい、だってこの子凄い胸でっかいもん。

 当たってんだよ背中に、それで押し潰されているわけだけどそれでもやばいくらいの感触。


「おーい、咲ちゃんと莉子ちゃんも……って、あれ? うわぁ!?」

「りな、あんたはいつもナイスだよ」

「咲ちゃんが莉子ちゃんを抱きしめてる!」


 でもそれはナイスじゃないよ。そこまで大声を出したら智紗だって来ちゃうでしょ。で、実際来ちゃったよ、あたしのお腹のところを抱きしめてる咲の手が丸見えなんだよね――つまり、良くない!


「どうやら本気のようね」

「はい、智紗さんが相手でも負けるつもりはないです」


 せめてあたし抜きのところでそれはやってほしい。

 しかも自分は智紗の顔を見ずに言うってずるいでしょうという話。


「けれど、肉体的接触で落とそうとするのは良くないんじゃないかしら」

「これは年上の莉子さんに甘えているだけです」

「そう、じゃあ同級生の莉子に甘えてもいいの?」

「好きにしたらどうですか」

「それじゃあ」


 正面から智紗に抱きしめられ彼女の匂いで包まれる。

 美人な子に抱きしめられているという事実だけで正直どうにかなっちゃいそうではあったが、「なら私も抱きつくよ!」と来てくれたりなによってなんとか踏みとどまれた。

 傍から見たらハーレムに見えるかな? って、そんな悠長なこと言っている場合じゃないけど。


「莉子、ふぅ」

「ひぅっ……な、なにすんの!」

「耳が赤いから冷やしてあげようと思ったの、でも駄目だったようね」

「も、もういいから離れて! ほら咲も!」

「「りなちゃんはいいんですか?」」

「りなはいいの! あたしの妹なんだからこれぐらい普通だし!」


 このふたりが肉食系女子すぎて困る。

 理性を保つのが精一杯だから真剣にやめてほしかった。




「こちら鳴海りなです、現在は姉である莉子ちゃんの観察を行っております。あ! いま動きましたっ、今日のお昼のことが気になっているんでしょうか!?」

「あんたうるさい」

「うーん……少し不機嫌のようですね、今日のところは――な、なにかな?」

「いいからこっち来て」

「はい……」


 ベッドの上で腕を組み寝転んでいた莉子ちゃん。

 あたしが近づくと体を起こして抱きしめてくる。


「ね、あたしにこうされてドキドキする?」

「うーん、と言うよりは落ち着く! 莉子ちゃんが大好きだから!」

「そっか、ありがとね。あたしもりなのこと大好きだよ」

「でもさー、最近は咲ちゃんか智紗さんでしょ?」

「……抱きしめられた時は正直同性なのにやばかったよ」


 ちょっとだけ悔しいような変わってくれて嬉しいような、とにかく複雑な気持ち。

 でも、だるいだるいって言っていた頃よりはやっぱりいいかなって、嬉しい気持ちが大きかった。


「りなちゃん、お風呂上がったよ」

「はーい、それじゃあ私が行ってくるね!」


 そう、咲ちゃんだけそのまま残ることとなった。

 そしてそれは夜に絶対になにかが起こる! だから早く入っておかなければならない。 


「咲、あたしも行ってくるから」

「はい、待っていますね」


 おぉ、それでも妹のことを忘れているというわけでもないみたい。


「ふぅ……ごめんね、騒がしくして」


 髪を洗っていると先に入った莉子ちゃんが謝ってきた。

 しっかり流してから「大丈夫だよ」と言って横に座る。


「咲ちゃんがいてくれて楽しいよ、それにお家でなら独占されなくて済むから」

「独占って……家ではほとんどりながしてるじゃん」


 独占は言い過ぎだけど、そうしないと莉子ちゃんが相手してくれなくなるからだ。

 姉妹の域を超えた思いとかはないものの、やはり妹としてはまだまだお姉ちゃんと仲良くしたい。


「莉子ちゃんは私のお姉ちゃんだから、これぐらいは普通だよ」

「ならあたしがあんたを独占していても普通だよね?」

「でも、やめてあげてほしいな」

「は? 言っていることと違うじゃない」

「だって……咲ちゃん悲しそうだったもん」


 智紗さんは駄目なんて言えないから仕方なくいいって答えだだけなんだ。

 本当は私を抱きしめたりだってしてほしくないに決まっている、だから私の思いとは別。


「莉子……ちゃん」

「ん? あ、りなじゃなくて咲か、もう出るよ」


 洗面所に咲ちゃんが来た。

 彼女と話をする時だけは高い声とかそういうこともなく、莉子ちゃんは普通に対応をしている。

 だけどそれは彼女にとってどういう印象を受けるのだろうか。


「あの、入ってもいいですか?」

「え? あんたが入ってきたら……あ、あたしが出たら入りなよ、りないるし」

「いえ、あなたがいないと嫌なんです」


 積極的だ、のんびりとしていると智紗さんに取られてしまうからという気持ちが全面に出ている。


「私が出るよ、喉乾いちゃったし」

「え、ちょ、待ってりなっ」

「なに?」

「い、いまふたりきりは……」


 ――普段だったら私がそうして縋るのが普通なのに。

 こちらから見るだけでも乙女の顔をしているというか、なんか可愛い。


「ふふふ、先に出てアイスを食べてます!」

「あ……」


 扉を開けるとなにもまとっていない咲ちゃんが目の前に立っていた。

 うーむ、この発育の良さはなんだろうか、やっぱり大きい方がいいよなあ。


「あれ、入らないの?」

「りなちゃん、私、あなたにも負けない」

「あはは、そんなつもりないよ」


 まあ抱きしめたりするのって私にだけだから不安になる気持ちは分からなくもないけど。

 それでも贔屓しているとかそういうのではない、寧ろ大切だからこそ慎重に動いていると考えている。


「莉子ちゃんはモテモテだなあ」


 しっかり拭いてリビングへ。


「涼しいー」

「こら、服を着なさい」

「あ、お母さん。ね、莉子ちゃんにはどっちが似合うと思う?」


 こんなこと聞いたってなにも意味なんてないけど、ちょっと聞いてみたくなった。


「そうね……最近はしっかりしているけど智紗ちゃんみたいな子が隣にいてくれたらやる気出そうじゃない? 逆に咲ちゃんが隣にいてくれても年上として頑張りそうではあるけれど」

「好きな人のためなら頑張れる子だからね」


 私はこの前嘘をついてしまった。

 友達だからとか関係ないけど、咲ちゃんを選んであげてほしいと思った。

 だって私の話を聞いてくれて興味を持ってくれたから。

 みんなは「あーはいはいその話ね」って終わらせていたけど、真面目に聞いてくれたから。

 あのやる気ないとか平気で言った子達とは違って、莉子ちゃんを悪く言わなかったから。

 それはまあ智紗さんも同じだからちょっとあれなんだけど。


「結局、それはあの子次第だものね」

「うん、だからあんまり余計なことは言わないようにしているよ」

「とにかくりなは甘えておきなさい、気にせずね」

「うん! 莉子ちゃんが大好きだからね!」


 とにかく、私は甘えることと見守ることに専念しようと決めたのだった。

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