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04

「落ち着いた?」

「うん……」


 りなの頭を撫でてから横に座る。

 なにがあったのかはまだ聞いていないが、いいことではないのは確かなようだ。


「あのね? 育ててたお花が踏みにじられてたの」

「え、咲はなんともない風だったけど」

「言わなかったんだ、それで先に帰ってもらった」


 いじめとかじゃなくて良かったけど、本人的にはそうじゃないんだろうということは分かった。


「なんか凄く悲しくて……さっきまで泣いてたの」

「優しいんだね、りなは」

「優しいというか……むかつくー! からの涙っていうか」

「あ、感情的になると涙が出るってこと?」


 アニメやゲームキャラでは見たことがある。

 ただ、現実でそういう子がいるとは思わなんだお姉ちゃん。


「明日、咲ちゃんにどうやって説明しようかな……」

「うーん、変に考えずそのままがいいかな」

「うん……そうだよね」


 別にりながやったわけではないのだから気にする必要はない。

 でも、変に隠そうとしたら亀裂が入るかもしれないから正直に伝えた方がいい。

 それからふたりでか、部員全員で対策を考えればいいだろう。

 それにしても部活か、中学校は強制だったからあたしもやらされていたなと思い出す。

 しかもなにをとち狂ったのかバレー部に所属していたんだからね、いまからなら有りえない話だ。

 最悪だったのは頑張りすぎても怒られ、頑張らなさすぎても怒られるという、どうすればいいんだって感じのギスギスさが漂っていたこと。

 運が良かったのは全員がそうではなくて、部長と副部長はとても優しい人だったということ。

 ま、あたしが最上級生になった年に入ってきた後輩に馬鹿にされまくったわけだが、あれで運動部にはもう入らないとしっかり意思を持てたので悪くなかったとは思っている。


「話変わるけど。その咲ちゃんなんだけどさ、莉子ちゃんの話ばかりするんだよね」

「あたしの?」

「うん、早く会いたいなって」


 最近は毎日会っているような気がするけど。

 あ、でもあの子、意外とメッセージとか送ってこないか。

 直接顔を見て話したいとかそんな女の子らしい理由なのだろうか。


「そんなに気に入られるようなことした?」

「いや、あの子に迷惑しかかけてないけど」

「M、なのかな?」


 違う、あの子はとにかく優しいのとしっかりしすぎているだけだ。

 だって自分が悪くないのに謝ってくるくらいで、だからこそこちらにダメージがくるっていうか。

 どうすればあんないい子に育つのかは分からないが、ひとつ言えるのは大切にしたいということ。

 この先ああいう子にはそうそう出会えないだろうから。

 でもだからこそ、不満とかをこっちが引っ張り出してあげなければならない。

 なんでもかんでも自分だけで解決しようとしたら駄目になる、そこまで完璧な人間はいない。


「りな、あの子の側にいてあげてよ。それでなにか困っていたら助けてあげてほしい」

「うん、そのつもりだけど……え、莉子ちゃんがそんなことを言うなんて思わなかった」

「少し前の自分ならだるい、関係ない、無駄って言ってただろうけどね」


 あの子に助けられたのに、こちらは迷惑をかけただけじゃ嫌だ。

 一応それなりのプライドってやつ? 年上なんだからちょっとなにかをしてあげたい。

 けれど同級生というわけではないからいてあげられないし、こうして頼むしかないのはださいけどね。


「でもな……なんか嫉妬しちゃうよ」

「嫉妬?」

「だってさー、私じゃなくて咲ちゃんになんだもん」

「あははっ、りなはなんでも言うからね、対応が楽だからさ」


 なんでも言ってくれとは告げてみたけど多分駄目。

 あの子は迷惑かけたくないとか考えて結局抱えようとしている。

 どうようもない時なんて恐らくこない、だからもどかしいんだ、こちらとしては。


「咲ちゃんだって言うよ?」

「だったら、りなが信用されてるってことだよ」


 単純にまだあたしがあの子と仲良くなれていないというのはあるけれど、それだけじゃない。

 年上だからとかゴチャゴチャ考えることもあるが、いまはただただしてくれたことを返したい。


「私、咲ちゃんとずっと仲良くいたい」

「それならそう言ってあげな」

「うん! それじゃあ帰ろ!」

「って、あんたが泣いてたから……まあいいけどね」


 あの子を信じよう。

 潰すまではしなくていいけどね。




「もう、どうして毎回先に帰るんですか!」


 朝にではなく放課後に言われたことで大変驚いた。

 隣の席なのにずっと言えなかったと考えると少し可愛く見えてくる。

 見た目はクール美人、しかし中身は他人を放っておけない優しい子。

 なにそれ、いいところしかないじゃんと言ってあげた方がいいだろうか。


「委員長が咲とばかり仲良くするから妬いたの」

「そんなことないですよ、私はあなたにもきちんと意識を割いていましたが?」

「叱られてしかいないんですが?」

「その理由を作っているのはあなたでしょう……」


 委員長が誘う=叱るためだということを学んだ。

 だからもう一緒に行かない――というか、お金がないから行けないんだけど。


「あ、咲のID教えてあげるよ」

「もう知っていますので大丈夫です。あと、他人の情報を勝手に他人に知らせるのは――」

「あーはいはい、分かりましたー」

「こらっ、ちゃんとしてください!」


 そうだよ、出会ってすぐに交換するものだって言っていたしなにもおかしなことはない。

 なのになんか気になった、簡単に教えた咲も、それを聞いて登録した委員長も。

 そうか、なら応援してあげればいいのでは? そうすれば咲と委員長のためになるはず。


「応援しているよ」

「はい? これは別にそういうわけではないですからね」

「いやいや、照れなくていいって。咲は委員長と一緒でしっかり者だもんね、お似合いだよ」


 委員長だったら真っ直ぐ咲の不安や不満の気持ちを引き出せそう。

 不器用だからこそできることもある、経験がないだろうから逆にドストレートにね。

 ……経験がないかどうかは全く分からないけれども、委員長ならなんとかしてくれる、きっと。


「はあ……あの子の方がしっかりしていますよ」

「いや、委員長もしっかりしていると思うけど」

「そうですね、あなたよりはしていると思います」


 そんなこと言われなくて知ってるわいっ。

 なぜいちいち出してくるのか……って、嫌いだからか。

 まあ変に仲良くするとなあなあになってしまうからね、線引きという意味では正しい対応。

 委員長は情で行動を変えてはならない、中立の立場にいなければならないからだ。


「今日も行ってきますね」

「あーい、気をつけなよー」

「お金ないなら出しますけど」

「余計なお世話、じゃあね」

「……ならやめます、ひとりで行っても咲さんは喜ばないでしょうから」


 はぁ? なに勝手に喜ばないとか考えちゃってんのこの子。

 あんたはあの子じゃないだろ、なのにそんなこと決めちゃったら可哀相だ。

 しかもなんか付いてくるし、横に並んでるし、歩幅合ってるし。

 合わせるのなら咲に合わせてあげればいいのに、委員長ってよく分からない。


「鳴海さんはどのお花が好きですか?」

「え? あー、パンジー」

「可愛いですよね」


 ……たまたまそこに咲いていたからなんて言わないでおこう。


「委員長にはバラが似合うよ、トゲトゲしてるけど美しいから」

「トゲトゲは余計ですけどね」

「美しいについては言わないんだ?」

「これでもそこそこいい方だと自覚していますからね」


 なにがそこそこだよ……あたし知ってんだから、口うるさいけど人気なの。

 しかも異性からだけではなく同性にも好かれているからね、ハッキリ言えるのが格好いいのかも。

 でも全部断っているとも聞いた、なにそれ本当に贅沢だなって話。


「でも、仮に容姿が良くたってなんでも願い事が叶うというわけではないですからね」

「そりゃそうでしょ、美人や格好いいだけでなんでも願いが叶うんだったら格差が凄すぎるからね」


 そうしたら憎んでいただろうな。

 なんであの子はって、なんで自分はそうなれなかったかって。


「それに私、嫌われていますから」

「はあ? あんたそれあたしにとって最高の嫌味だからね?」

「事実じゃないですか、口うるさい、仕切ってる、迷惑だって言っているの聞いたことありますから」


 それは単純に相手が未熟なだけだろ。

 弱いから言われたことを素直に受け取れないんだ。

 いい存在をなんであの子はと考えてしまう弱者の思考。

 そんなのにいちいち引っかからなくていい、真っ直ぐ貫いていてもらいたい。


「だからって下らない考えで曲げたりしないでよね、あたしは口うるさい委員長が好きなの」

「鳴海さん……」

「静かになった委員長とか有りえないから」


 ま、最悪なにも失う物がないあたしが出しゃばってもいい。

 全部ぶっ壊して、とにかく委員長とかお世話になった人には手を出させない。

 もちろん敵ばかりになったとしても不登校とかにはなってやらないけどね。


「いーい? そういうやつらの前ではトゲトゲしておけばいい。あたしはあの子らと違うって考えておけばいい。だからさ、堂々と構えていなよ」

「……なら私にそれをさせるあなたにはどうすればいいんですか?」

「いつも通り注意すればいいでしょ? 面倒くさいならもうやめなよ、付き合ったら良くない人間だっている。自分を貫けないならいるべきじゃない、馴れ合いなんかするべきじゃないよ」


 って、全部自分に返ってくるわけですが。

 中途半端に真似していた時点でお前が言うなって話である。

 まあ、そもそも自分らしさってなんだろうという話でもあるけれども。


「あ。あたしこっちだから」

「あの、行ってもいいですか?」

「あたしの家に? 別にいいんじゃない?」


 特になにがあるというわけでもないし、りなだって喜んでくれるかもしれない。

 というわけで連れ行ったら、ちょうどりながどこかに行こうとしているところだった。


「おかえりっ」

「うん、どっか行くの?」

「うん、咲ちゃんのところにね。こんにちはっ」

「こんにちは。行く時は気をつけてくださいね」

「はい! 失礼します!」


 お金があればあたしも行ったんだけどなあ。


「ふふ、りなさんは元気でいいですね」

「まあね、中学生はやっぱりあれくらいじゃないと」


 花の件もなんとかなったようだから一安心。

 ただ、困るのはいまからだよなと内心で呟く。

 そのまま連れてきたはいいが……どうすればいいのかが分からない。


「あー……なにもなくてごめんね、飲み物くらいしか提供できなくてさ」

「気にしないでください、お家で過ごすみたいにいてくれればいいですから」


 お客さんがいる時に自然を出すのが難しいんですがそれは。


「もしかして変に楽しませなきゃとか考えていますか?」

「いや……こうして来てもらったわけだけど、りなも行っちゃったし……」


 この前りなが言っていたように、人を連れてくるなんてことはあたしにとって珍しいことなのだ。

 だから先程も考えたように実に中途半端な気持ちになってしまっているというわけ。


「私は鳴海さんがいてくれればそれでいいんですけど」

「やめて、そういうのなんか逆にプレッシャーになる。適当にくつろいで」

「分かりました、それでは」


 なぜだか床に正座をしていた彼女は少しだけ崩して所謂女の子座りになった。

 それがくつろいでいるということなのだろうか、もっとどかっとあぐらとかかけばいいのに。


「あの、どうして正座なんですか?」

「えっ? あ……いや……別に」

「あの、そこ、いいですか?」

「隣? 別にいいけど……って、な、なにやってんの!?」


 困惑しているあたしを他所に「え、膝枕してもらおうかと思いまして」なんてよく分からないことを言う委員長。ここまで驚かせられたのは君が初めてだって褒めてあげたい――なんてことはない。


「私はちゃんと太ももを指差しましたよ?」

「いや……同性でそんな」

「同性だからこそ気軽にできるんじゃないですか、予行演習ですよ」

「……今日の委員長なんかおかしくない? 急にお店に行くのやめたり、こういうことしてきたり。ちょっとごめん」


 うーむ、おでこに手を当ててみても特別熱いとかではなかった。

 つまりこれは素面で行われているということだ、つかこうしている間にも何気にしているままだし。


「ふふ、これだけ至近距離で鳴海さんを見たのは初めてです」

「そう? それはいつもしていると思うけど」

「嫌ですか?」

「嫌……ではないけど、なんか……やっぱり委員長らしくない!」


 駄目だ、このまま続けたら。

 彼女を無理やり起こして距離を取る。


「な、なにが目的なの?」

「私はただ、鳴海さんと仲良くなりたいだけですけど」

「こういうのはいらないでしょっ、普通でいいじゃん」

「普通ってどこら辺までが普通ですか?」


 え、普通って言ったら会話するとかそういう程度じゃないだろうか。

 こういうのはもう仲がいいふたりがすることだと思う、異性同性問わず。

 なのにそういうのを全てすっ飛ばしていきなりは違うだろう。


「会話するぐらいで留めるのが普通だよ」

「なるほど……分かりました、参考にさせていただきますね」

「うん」


 平気で潰すとか言ったあの子よりも危険な感じがする。

 油断していると逃げ場を失うぞ、このままだと。

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