メンタルトーフ
「る」
圭介の胸元辺りから声がする。
「ルーン!」
「ちょっと黙ってろ」
小声で答える。
圭介の心は今、波立っていた…
原因は先程のNPCの村人だ。
最初は、自分の大声に反応して、
家から出てきたのだと思ってたが違った。
予め、家に、誰かが近づくと出てくるように設定されていたのだろう。
見た目は完全に、自分と同じ人間で、
ゲームのキャラクターだとは思えなかった。
だからこそ、今自分は、ゲームの世界にいるという確信に近いものを感じていながらも、
あの男が出てきた瞬間、
大声を出してしまった事に対して、
【謝る】という行動をした自分。
それに対し、設定されているのであろう機械チックな返答が、違和感と共に、
恐怖に近い感情を抱かせ、
圭介の心をざわつかせていた。
「……」
いつ元の世界に戻れるかわからない状況で、
ずっと、あんなふうに、
同じセリフを繰り返すキャラクターとしか会話ができなかったら…。
そう考えるとゾッとする。
普段、コミュニケーションをとるのはあまり得意ではないし、
ゲームに没頭している時間が1番落ち着く圭介だが、
今ばかりは心から思った。
「人としゃべりてぇ…」
………
「る、るー…るー」
胸の辺りで、動き回るルーンが、
苦しそうに声をあげる。
「なんだよ。無理やり入ってきたかと思えば、出たいのか。」
ジャージのファスナーを下げ、
ロンTの首元をのばし、胸元を覗き込む。
ルーンは、圭介にしがみついたまま、
密着させていた顔の部分を
圭介の胸元から少し離し、
上目遣いで、何かを訴えるように圭介をじっと見つめる。
…
…
「お前がいるって言いたいのか?」
「るん、ルーーン♫」
ルーンの語尾が、肯定を表していた。
…
一瞬の沈黙の後、
圭介は胸元から顔を覗かせるルーンを撫でた。
「そうだよな!相棒!お前がいるな!
言っとくが俺のメンタルは豆腐だ!
わかるかトーフ」
ルーンはあたまを傾げる。
「わかんねぇか。お前みたいに柔らかくて、でもお前みたいに伸びたりしねぇ。潰せば簡単にぐちゃっと潰れる。
俺のメンタルはそんくらい弱いってことだ。」
「ルーン…?」
困惑した表情のルーンに、ジェスチャー付きで続ける。
「あぁ…簡単に言うと…相棒の 【お前が】【俺を】【支え】てくれないと、この世界で【俺は】【ぐちゃっと】潰れちまうって事だ。」
「るん、るーん!」
任せろとでも言いたいようなルーン。
誰かに見られていたら、恥ずかしい圭介の大袈裟なジェスチャーのお陰で、
言いたいことは、伝わったようだ。
気を取り直したところで、
ちょうど村長の家についた。