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かき氷と王さま

王「だいぶ涼しくなったけれど、まだ暑いのー」


 9月になってもまだまだ暑いとある日のこと。


 王さまは珍しく、夜まで暇を持て余していました。

スマホでツイッターを開くと、今日もエゴサ能力が異常に高い

日本の大臣が話題になっていて、フォロワーが少ない王さまはつい、

羨ましくなりました。


 ポイっとスマホを手放して、テレビをぼんやり眺めていると、

天気予報が始まります。


お天気お姉さん「突然雨が降るかもしれませんが、すぐに止むでしょう」

王「なるほど、分からん」


 曖昧さ重視の、まるで占いのような情報をゲットして、

王さまはチラッと向かいに座っているSPの様子を窺います。

 ソファーでくつろいでいるSPは、スマホのポケモンGOに

夢中になっていました。


 王さまはなぜか、絶対に折りたたみ傘を持ち歩きたくない

気分だったので、SPの鞄に、そっと自分の分を滑り込ませてから

「散歩に行こうかのー」と声を掛けます。


 SPはスマホをノロノロと鞄に仕舞い、

「…あぁ…ジム…きのみ…ハピナス…」という謎の単語を

ぼそぼそと唱えながら、王さまに付いて行きます。


 ホテルの玄関に着くと予報通り、急な雨が降り始めました。


SP「あ、雨だ。王さまが入れた折りたたみ傘、お出ししますね」


 その言葉に、王さまはとてもガッカリしました。


王「違う!」

SP「え?何が?」


王「違うんじゃ!わしはSPに、

『王さま申し訳ありません。うっかり自分の傘しか鞄に

入れておらず…あ!いつの間にか王さまの傘が入ってた!

王さますごい!』と、驚いてほしかったのに!

それなのに、どうしてSPはきちんと仕事しとるんじゃ!」

SP「はは、草生える」


 王さまは、SPにすっかりバレていたと知って、なんだか

出掛ける気が無くなってしまいました。


 明らかにテンションが下がっている王さまに、

後からやってきた秘書が、気の利いた提案をします。


秘書「この雨の中を歩くのは、少し疲れそうですね。

夜には大事な予定がありますし、乗り物で移動しますか?」

王「今夜は大事なパーティだからのー。散歩はやめて、

車か電車で、面白いものを見つけに行きたい気がする」

急に現れた運転手「車!?!リムジン出動しますか??」

秘書「さすが王さま、素晴らしいお考えかと。それでは早速

このジメジメを吹き飛ばしに参りましょう」


SP「攻めの発想、草生える」

秘書「…SP、今夜の食事会ではそういった卑語ひご

絶対に慎んでくださいね。王さまの前なら別に構いませんが」

王「…え…わしの前ならいいんだ」


秘書「そういえば昨日のテレビで、かき氷の特集がやっていましたね」

王「かき氷か。先週の夏祭りで食べたフードじゃのー」

秘書「テレビで放送していたのは、出店のかき氷とは違う、高級なかき氷です」

王「…高級…ちょっと気になる…」

秘書「ロケをしていたお店は、ここから電車で10分くらいですね」

スタンバっていた運転手「…くっ…電車か…またもや私の出番がっ…!」

SP「運転しない運転手、草www」

王「じゃあ行ってみよっか。ところで、草って何?」



 そうこうしていると、目的地のかき氷屋さんに到着しました。

店先にはメニューが並び、4人は集中力を高め、カッと目を見開きます。


即決のSP「イチゴ味、一択」

渋いチョイスの運転手「私は宇治金時にします」

迷う王「定番もいいけど、変わり種も結構あるね」

ウキウキの秘書「王さま見てください!

これ、メロンを半分使って、その上に氷を乗せていますよ!」

ビビってる王「美味しそうだけど、時価って書いてある。諭吉で足りるかな?」

強気な秘書「ブラックカードがあるから大丈夫です」

ほっとする王「それならこのメロンがいいのー」

計画通りな秘書「私もメロンをいただきたいです」


 テレビの影響か、多くの客が列に並んでいました。

王さま達はいそいそとそこに加わって、やっと注文を終えると、

店の外にあるスペースで待つように言われます。


 そこにも既に数人が順番待ちをしていました。

4人も同じように、端の方にちょこんと座り、のんびりします。


王「日陰とはいえ、暑いのー。どれくらい待つ感じ?」

秘書「お店の方によると、30分程度とのことです」

SP「この待合スペースで既に20人くらいいるけど、本当に?」

秘書「…多分…。王さま、気分が変わりましたら

いつでも仰ってください」

王「ディズニーランドみたいで面白いからいいよ」


 そうこうしていると、お兄さんが2人、

王さま達と向かい合う形で座りました。


小声のお兄さん「なあ、目の前のおっさん達、外国人だよな。

コスプレじゃないよな。こんな暑い日に、なんかヒゲとか

サンタクロースみたいだし、新手のユーチューバー?」


注意するお兄さん「お前そういうこと言うなよ。聞こえたら失礼だろ」

調子に乗った男「いや、日本語分からないだろ、他の3人も見た感じ、

まさに外国人って感じだし」


 そう言って男性は、退屈しのぎにチラチラと、王さま達の方を見ます。

王さま達は普段から何万人という国民達にじっくり見られているので、

正直、全く気になりません。


うざい男「ほら、やっぱり聞こえてないって」



突然大きめの声で日本語を喋るSP「ここの店、検索したら

食べログで3.8だって。これって美味しいってこと?」


小さく笑ってから便乗する秘書「昨日銀座で食べたお寿司の店は

ミシュランで2つ星を獲得していて、食べログの評価は

4.04でした。これはサービス面における評価もあるので、

価格帯から考えると、決して悪くはないかと」


 急なSPと秘書の流暢りゅうちょうな日本語に、

男は一瞬焦った様子でしたが、すぐに小さな声で

「聞こえてんのかよ…」と悔し紛れに呟きました。


 隣の友人らしきお兄さんは「ほら言わんこっちゃない」と、

男を注意します。



 ここで止めればいいものを、男はなぜか、

王さまに悪態をつきます。


ボソボソ嫌味を言う男「…せっかく冷たいかき氷食うのに、

こんな暑苦しいおっさんがいたら、全然涼しくならないよな。

暑くてそんな汗かくなら、クリスマス仕様のマフラーみたいな

そのヒゲ剃ればいいのにな」


 この言葉に、ヒヤリと、その場の空気が一気に冷えます。

王さまはニッと笑って、動き出そうとする臣下を制します。


自国の言語で喋る王「ほっほっほ、なかなかの煽りセンス。

この才能、もっと別のことに活かせないかのー

お笑い芸人とか、どうじゃろ?」


小声のSP「人を辱めるような笑いは、好きじゃありません。

…動きは素人です、何か手を出してくるようであれば対処します」



 すると、秘書が突然立ち上がり、男に向かって日本語で声を荒げました。


ブチギレ秘書「暑苦しい汗だくサンタクロースでなにが悪いの?!?

侮辱罪に名誉棄損で不敬罪いぃいいい!あ、日本では不敬罪が

無かったわっ!お前なんて失礼千万で情状酌量の余地なしぃいいい!!!」


 周りも気にせず秘書がプンスカしていると、王さまがそれを制します。


王「君らしくないよ。少し、落ち着きなさい」


秘書「ですが王さま!この不届き者は

我々が日本語を理解できると知りながら!!!」





王「…秘書は、ドーハの悲劇を知っているかい?」





 突然の、王さまのトーンの低い声に、

秘書はハッと、我に返ります。




秘書「…はい。


…カタールの首都、ドーハで行われたサッカーの

国際試合ですね。…日本代表がイラク代表と戦い、負けた結果、

予選敗退が決定したという…」


王「そう。…あの試合の後、駐日イラク大使館の国旗が

サポーターによって引き下ろされ、持ち去られるという

事件があった。

これは刑法の、『国交に関する罪』に該当する。


だが、イラク公館側は、

『日本人の愛国心の表れ、郵便受けにでも返しておいてくれれば』

と発表し、告訴しなかったそうだ。


わしはこの話を聞いた時、もし、自分が同じ立場だったら

どうしていただろうと考えたものだよ。

自国を辱められたら、自分のことのように怒りを覚える国民も多い。

これは小さな出来事かもしれないけれど、どこか、戦争にも通じる部分が

あると感じた。

そしてわしは、王として、国の代表として、民意が叫ぶのであれば、

怒りを表現するべきなのかと、自分のあり方を悩んだものだよ。


…これはもう20年以上も昔の話で、そしてわしは、自分はそれほど

寛大な人間ではないのだと、最近ようやく分かってきた」


 重みを伴った王さまの言葉を受け、SP達に、緊張が走ります。


王「…身分の隔てない意見の平等な主張、大いに結構。

だが、他者を傷つける権利など、今の時代、もう誰も

持ち合わせてはおらんのだよ。

…お前達、彼に世の中のことを教えてあげなさい。

ただし、SPがハマっている『ネットスラング』で」


 その言葉に、3人は表情を輝かせると、強く頷きました。

そして、もう既にうろたえている男を、冷たく見据えます。




ノリノリなSP「りょ。流れ変わったな。力こそパワー、

このマジキチDQNの間違いピラミッド、これから

ずっと俺達のターンでニフラム!」


(訳:了解しました。流れが変わったな。力には力で

対抗しろということですね、この頭のおかしい非常識な

人間の土台から間違ったクソ理論、これから俺達が

一方的に光の彼方へ葬り去ってやりますよ!)」


激しく動揺しているDQN「なっ…急になんだよ?!」


45歳で意外と詳しい運転手「これはいい縛りで胸熱ですね~。

それにしても随分大きいお友達だなぁ、あなたもしかして、

この前ネットゲームで会った直結厨ですか?」


(訳:これはいい条件付けでワクワクしますね~。

それにしても随分年齢の割に子どもっぽいことをする人だなぁ、

あなたもしかして、この前ネットゲームで会った

自分勝手に問題行動をするプレイヤーさんですか?)


助けを求めるように目が泳いでいるDQN

「いや、疑問で聞かれても分かんねぇよ!」


マジギレ秘書「は?(威圧)情弱が、ググれカス!

ダイナミック不謹慎の、逆コナンやろうが!!!」


(訳:は?情報弱者が、グーグル先生で詮索しろカス!

不謹慎極まりない、見た目は大人なのに頭脳は子どもの青二才が!!!)


小声で怯えながら訴えるDQN

「…よ、よく分かんねぇけど、明らかに暴言だろ、それ…!」


SP「秘書がさいつよで大草原不可避(秘書が最強で面白すぎる)」

運転手「禿同(私もそう思います)」


敗北のDQN「くそっ!覚えてろよ!!!」


SP「で、でたーw去り際に捨て台詞吐く奴www」

運転手「涙目敗走乙。お口ミッフィーでね」


秘書「もうどうにでもな~れ☆」


   *゜゜・*+。

   |   ゜*。

  。∩∧∧  *

  + (・ω・`) *+゜

  *。ヽ  つ*゜*

  ゛・+。*・゜⊃ +゜

   ☆ ∪  。*゜

   ゛・+。*・゜


 逃げていくDQNとその友達の姿が見えなくなると、

3人はくるりと振り返り、王さまにドヤ顔しました。


 なんだかすごく満足そうな彼らの様子に、

王さまはちょっと考えてから、

ねぎらいの言葉をかけます。



王「Ta、そして…ぬるぽ」


SP・秘書・運転手「「「ガッ」」」


王「ほっほっほ!これ未だに意味分からんけど好き」



 その後、王さま達は無事入店し、ヒンヤリ冷たいかき氷を食べました。


王「美味しいからインスタあげよー」


SP「王さまツイッターだけじゃなくて、インスタも

やってたんですか…日本の総理大臣にもフォローされてるし…

あ!今夜の晩餐会でお会いする方も、インスタやっていらっしゃるんですね」


王「そうなんじゃよ、今は自由な時代じゃからのー」


運転手「2019年現在、日本は終戦からまだ80年も

経っていませんが、随分と変わりましたよね。

人としてのあり方に、寛容な時代になってきた気がします」


後悔する秘書「…それでも、いかなる時でも冷静に

TPOは弁えたいです…うぅ、恥ずかしい…」

王・SP・運転手「「「草生える」」」


 その夜、王さまは予定通り宮中晩餐会きゅうちゅうばんさんかいに出席し、

色々な意味で偉い人達と一緒に、とても素敵な時間を過ごしました。


 王さまはよく冷えたドンペリを飲みながら、ふと

(真夏にこれを飲んだら最&高じゃろうなー

…あ、…つい昼間の言葉遣いが…)

と、小さくてへぺろ☆しながら、来年の夏を待ち遠しく感じていました。

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