駅弁と王さま
王「新幹線が欲しいのー」
お盆の帰省ラッシュに巻き込まれたリムジンの中、
王さまがため息混じりに呟きます。
SP「新幹線も混んでますよ、乗車率が130%ってどういうことなんだ…?」
秘書「もしかしたら、インドやジャカルタのように、電車の上に人が
乗っているのかもしれません。そういえば、先日の日本の総理大臣との
会談でも、新幹線について話が出ましたね」
王「そうなんじゃよー、ゴルフの時にも
『友情価格にするから!今が買い時だよ!』っておすすめされちゃってのー」
SP「王さまの移動手段は自家用ジェットかリムジン、
あとはヘリコプターと船か…電車もいる?」
王「何を言うかSP、わしは国民達の生活をより良いものにするために
新幹線を導入したいんじゃ。決して、自分が乗りたいだけではないぞ」
運転手「さすが王さま!私も運転できるように訓練します!」
王「…車掌に転職する気か…わしのタクシー生活が始まる予感…」
真面目な運転手「いえ!私はあくまで、王さまのお抱え運転手として仕える身。
王さまがご利用になる乗り物は、全て運転できるようになりませんと!」
秘書「あら、運転手ったらまたそんな大きなことを言って。
まだゾウの調教が終わっていないでしょ」
思い出したSP「そうだゾウを忘れていた!先月から飼い始めたんだ!」
運転手兼ゾウ使い「うーん、ゾウは車と違って気分屋だから難しいんだよなー」
王「パレードの時しか乗らないけどね、わし、高い所怖いし、結構揺れるし」
あれこれ言いながら、結局は試乗してから決めようという話になって、
王さまを乗せたリムジンは、新幹線が停まる最寄りの駅へと向かいました。
秘書「王さま、この駅から新幹線に乗れます」
王「じゃあ悪いけど運転手はどっかで待ってて。お土産買ってくるから」
真面目な運転手「分かりました、信じています!」
王「うっ…タピオカの時の罪悪感が蘇る…」
王さま移動中…
SP「あ!王さま、駅弁が売っていますよ」
王「おー、美味しそうじゃのー」
秘書「いけません王さま、先ほど昼食を召し上がったばかりですよ」
王「じゃあ秘書はスイーツ食べたら?」
笑顔の秘書「…!…仕方ないですね。王さまがお決めになったことですし、
従うしかありませんね」
SP「甘い物は別腹か」
そうして王さまとSPは駅弁を、秘書はスイーツを買いに向かいます。
王「色々あるのー…お!運転手にはこの鯵の押し寿司買お」
SP「渋いですねー」
王「そうじゃろそうじゃろ!SPは何にするんじゃ?」
SP「私はこのE5系はやぶさ弁当ですね」
王「お子様向けをあえて選ぶとは…渋いのー!
じゃあわしも渋い系のチョイスにしよう」
そう言って王さまは、「これじゃ!」と柿の葉寿司の弁当を手に取りました。
王「パンダっぽい笹寿司じゃなくて、あえての柿の葉寿司、渋いじゃろ?」
SP「うーん、まあまあですね」
嬉しそうな王さま達の元に、スイーツを買いに
行っていた秘書が満面の笑みを湛えて戻りました。
秘書「見てください王さま!これは卵の殻に入っているプリンなんですよ!」
王「おぉ!初めて見た。それに、わしらの分も考えて4つ入りを
買ってきてくれたのか。さすが秘書、気が利くのー」
気が利く?秘書「えぇっ!?あ!…え、えぇ、も、もちろん、ですわ!」
SP「動揺がすごい」
そうして3人はウキウキしながら新幹線に乗り込みます。
窓側に秘書、中央に王さま、通路側にSPと横一列で並び、発車を待ちます。
秘書「王さま、本当に車両を貸切りにしなくてよかったのですか?」
王「うん。乗るのは国民達だから、それを体感するなら他の乗客もいないとね」
SP「…まず一つ分かったことは、座席をもっとワイドにして
もらいたいってことですね。王さまのお肉がちょっとはみ出しています」
3人でダイエットの話題で盛り上がっていると、
新幹線はゆっくりと走り出しました。
秘書「では2駅で降りますから、スピーディに食べてください」
王・SP「「はーい」」
王さまは袋からいそいそと柿の葉寿司を取り出します。
丁寧に包まれた1枚の大きな柿の葉をはがすと、一口サイズの小さな
お寿司が現われました。頬張れば、あっさしとした鯛の身に、
薄っすらと爽やかな葉っぱの風味。
王「美味しいのー」
さらに柿の葉をめくれば、鯛の次は鮭、鯖と、どれもが
上品な味で王さまを楽しませてくれます。
王「ふむ、こんなにキレイに整った柿の葉が
惜しみなく使われていることもすごいのー」
王さまが感心していると、隣でSPが、新幹線型の駅弁を食べています。
SP「ケチャップライスと焼き肉、合うー!!!」
王「ちょっとうらやましい…」
秘書「王さま、デザートにプリンをどうぞ。すこぶる美味しいですよ」
王「優しい甘さとめっちゃ可愛いデザイン…なにこれ癒される…」
そうして食事を終えると、新幹線を乗り換えて、
再び乗車駅に戻ってきました。満足しながら駅を抜けると、
見慣れたリムジンが停まっています。
王「ただいまー運転手、お土産買ってきたよ。鯵の押し寿司とプリン」
嬉しそうな運転手「ありがとうございます。すごい組み合わせですね!」
満足して本来の目的を思い出した秘書「王さま、新幹線はいかがいたしますか?」
王「うーん、新幹線はオーバースペックかもね。代わりに普通電車を買おっか」
SP「確かに我が国は、さっき乗車した2駅分くらいの領土しかなかった」
王「リニアは夢のまた夢じゃなー」
その後、秘書は王さまの決定のとおり、普通電車の技術に関する契約と、
柿の葉寿司の職人との契約を無事に結んで帰りました。
王さまからの一言
「寿司のネタは、サーモンとウニが好きだよ」