ある狩人の話
これからお話するのは、とある狩人に関する話であります。昔々、日本の何処かにある自然豊かな村に一人の若い狩人が住んでました。
ある日。村長の娘がやって来て、ある動物を捕まえてください、と頼み込んできました。その動物とは熊のことでした。肉も美味しいし、爪や毛皮は高値で売れるのです。
「よし任せでくれ。おらが絶対捕まえる」
村の中でも美人だった娘。好意を持っていた狩人は承諾しました。狩りの装備を身につけ、愛用の銃と弾丸を携えると、熊が生息する不気味な森の中へ足を踏み入れました。
「熊……熊はどごさいる」
一心不乱になって熊を捜す狩人。しばらく森の中を歩いていると、遠くに何か大きな物体がゆっくり、ゆっくりと動いているのを見つけました。
「あれは……」
物体の正体。太い四肢。褐色の毛。それは紛れもなくお目当ての熊でした。しめしめ、ここで仕留めればすぐに帰れる。すぐさま狩人は銃を構え、引き金を引きました。
ばーん、と耳に響く爆発音。その直後に熊はどさっと倒れました。放った弾が見事熊に命中したのです。
「やった、やった。これであの娘が喜ぶ」
仰向けになった熊に駆け寄る狩人。村長の娘の笑顔。そして念願の彼女と婚約。独り身である狩人の頭の中は妄想でいっぱいでした。ところが次の瞬間、狩人は現実に引き戻されます。熊が動き出したのです。
「な……まだ生ぎでだど」
熊は狩人に襲いかかってきます。銃で撃たれたにもかかわらず、ものすごい勢いで突進してきます。狩人は間一髪、かわします。
弾は確かに熊の左腕に当たっていました。しかしながら熊は生きています。何故なのか。その理由を考える暇はありません。
「こうなっだら……」
狩人は覚悟を決めました。肉や毛皮を剥ぎ取るための刃物を取り出します。そして、のしかかろうと向かってきた熊の首にぐさりと刺しました。
熊は地面に伏せました。そしてぴくりとも動きません。ようやく息の根を止めることができたのです。
「はぁ……危なかっだ」
狩人は安堵しました。そしてふと思いました。もう一発、とどめとして撃っておくべきだった、と。詰めが甘かったと狩人は反省するのでした。
肉と毛皮、爪を持ち帰った狩人。彼が村長の娘と結ばれたかどうか。それはご想像にお任せします。