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第一話、疾風怒濤の遺産相続!バ美肉は継承される!

バ美肉とは、「バーチャル美少女受肉」あるいは「バーチャル美少女セルフ受肉」の略である。


基本的には、美少女の3Dモデルや2Dイラストをアバターとして動かす事で「受肉」を果たす事を言う。

中身が男の人でも、声もボイスチェンジャーで可愛い声に変換して美少女になりきっての動画投稿や配信、VR世界で遊んだり、コミュニケーションを取ったりと、バーチャル世界は中々に混沌と化して来ている。


世は正にバーチャル時代の始まり。





「俺も興味はあったんだが…。」


俺の名前は木村皐月(さつき)

久しぶりに実家に帰って来た25歳の普通のサラリーマン。職業はプログラマー。

母親は若い時に病気で亡くなり、親父に男手一つで育てられて来たごく普通の日本男児だ。

この度、親父が交通事故で死んでしまい、葬式やら何やらでドタバタしていた。

親戚付き合いも薄い親父だったが、知り合いは何人か参列してくれた。


それも済んで、相続の話になった。話と言うか俺一人なのでこの実家は俺の持ち物になるか、売り払うかを考えていたのだが、親父の部屋を覗いてみたらいつの間にか防音部屋に改造されていた。

なんじゃこりゃ?そういえば押し入れに古臭いギターがあった様な気がするが、また本格的にギターでも再開していたのだろうか?

にしてはギターも見当たらない。マイクやPC、謎の機材はあるが親父は声が高いし歌はクソ下手だったし…





と言うかこの機材…音楽関係の物じゃないわ、これオキュラだわ!何で親父の部屋に?


オキュラとは、オキュラ社が開発し今一部界隈で爆発的に広まって来ている最先端のPC対応VRゲーミングシステムだ(早口)

デカいけど軽いヘッドマウントディスプレイと、両手のコントローラー、他にも腰と両足に着ける無線接続の変な吸盤やらもオキュラの付属品だったはずだ。あと部屋の四方に立っている謎の柱、ゴツいカメラ、アレも全部VR機器だよな。親父…

俺も金貯めて買おうと思っていたが、まさか親父がこんなガッツリVRに手を出していたとは…


ゴクリ…

このオキュラは俺が相続しちゃいますね、お父様。

父親が唐突に死んでショックを受けたり悲しんでいたり葬式で忙しかったりと混乱していた気持ちが、このオキュラを手に取って少し楽になった気がした。


親父のPCも、よく見たら前にあったのより高性能そうなのに変わってた。てか何だこれ、水冷か!?起動したらカラフルな光放つのやめーや!親父こんな趣味だっけ?

唖然としつつも起動したパソコンをいじる。

「なんかねーかなー。」

うーん、雑多なデスクトップ。よく分からないが恐らくVRゲームとかのアイコンだろうか。大量にあるぞ。


「お?」

この猫耳のアイコンは知っている。「V-Square(ブイ・スクェア)」だ。「V広場」とか単に「広場」とか、「箱」とか言われている、バーチャル空間でアバターを身に纏ってコミュニケーションを取る、自由度の高いゲームだ。自分の好みのVR空間を作ったり、空間内でゲームをしたり、中にはオリジナルのレーシングゲームを作って大人数で遊んだりと、接続人数も多く中々に面白い世界らしい。

何故そのゲームのアイコンが猫耳なのかは知らない。製作者の「ていおーさま」が大の猫耳好きだとかの噂はある。


それはさておきV-Squareだ。

「これやってみたかったんだよな~」

軽く使い方を調べ、早速親父の遺したオキュラを被って、腰と両足に無線センサーを装着し、両手にリモコンを持ってさあログイン!


「お、おぉ!」

なんかバーチャルっぽい映像が目の前に現れた。

ログイン直後のアバター選択のフロアらしい。


《アバターを 選択してください》

「親父、どんなアバター作ってたのかな?」


「んぉ!?」

めっっっちゃ作りこんでるピンク髪で青目の美少女アバターが一体、目の前に現れた。

「ふぉっ!?なんこの可愛さ!?え、ポリゴン数ヤバそう、これ幾らしたの!?」

脳裏に「有名VR配信者の3Dモデル作成費用、3000万円!」というニュースが最近流れていた事を思い出し、冷や汗が出た。

や、ヤバイぞ…支払いとかどうなってんだろ…相続ってレベルじゃねーぞ…いやそれにしてもこの子、かわいい…


とりあえずこのモデルは自作なのか、それとも買ったのか、価格はいくらしたのかも分からないので一旦忘れる事にして、このピンク髪の美少女アバターを選択した。



シュイーン!

「おぉ~!おーすげぇー!」

目の前に鏡のあるこじんまりとした部屋に転移した。

鏡に映るのは、美少女となった自分の姿だ。


なんかやたらと可愛い服着てるし。アイドルっぽい感じと言うのか。上は白い高校生っぽい制服のブレザーのような上着と下はやたらフリフリしたスカートを穿いてる。青とピンクで裏は白いモコモコフリフリした奴だ。


「めちゃめちゃ可愛くて草」

親父、中々に良いセンスしてる。今の俺はバーチャル美少女アイドルさつきちゃんだ(真顔)。


手を動かしたり、足を動かしたり。ヤバイ、楽しくなってきた。

適当に手を振ったら、手にマイクが出てきた。アイドルだからね。なるほどね(?)。



ポコン!

「ん?」

《フレンドの タケゾウ がログインしました。》

『サツキ、ログインしてんじゃん、久しぶりやな。後でこっちのルーム来いよ~』

なんかチャットが飛んで来てた。ボイスでもキーボードでもチャットはできるのだ。


「あ~どうしよう、これ親父のだしなぁ…ん?てか何でサツキって、え!?なんで俺の本名を!?」

俺は急いでプロフィール画面を開いた。


アバター名:バーチャル美少女アイドルさつきちゃん☆

「あんのバカ親父!息子より娘が欲しかったとは言ってたけど!バーチャル世界で息子の名前で美少女アイドルて!」


俺はどうするか悩んだ。今の俺は普通に地声だ。親父はこのアバターを使う時はボイスチェンジャーを使っていわゆる「なりきり」をしていたのかもしれない。そのイメージを勝手にぶち壊すのも躊躇われた。

うーむ、しかし生前の親父と交流があったっぽい人には一応亡くなった事を伝えておくべきだろうか。


俺は生前の親父のバーチャル世界での話も少しは聞けるかなと思い、空間をタップしてタケゾウさんのルームへ飛ぶコマンドを押した。


この時、タケゾウさんと出会わなかったら、どうなっていたのだろうか。多分武道館で世界初のバーチャルアイドルによるライブなんて出来なかっただろう事は確かだ。ここから時空が歪んだのだろう、後の俺はそう思うのだった。

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