1ー6 魔法使いにはなれなかったよ・・・
勢いで書きました。
正直見直す時間もなくて・・・(言い訳
前の前書きでも書いたようにここからはテンポよくいきたいと思います。
また、後々本文を弄ると思います。
ご了承下さい。
「ハルア、それ、ボクが持つよ?」
晴れ渡るある日の事。
中庭で何やら重そうな荷物を持っていたハルアに片言で話しかけた俺は「はよその荷物を寄こせやぁ」と両の手を伸ばした。
すると当の本人であるハルアは何故か感極まったかのように静かに目を閉じるとフルフルと首を横に振る。
「あぁ、アルナス様がこんなにご立派になられて・・・でも、いいんです。これは私のお仕事ですので」
「あはは、ハルアってなんだかお年寄りみたいですよねー」
「・・・聞き捨てなりませんね。歳は確かミリと一つしか違わない筈ですが」
何やら俺の発言に感動したらしいハルアはそのまま俺へと頭を下げる。
だが次の瞬間にはその発言を傍で聞いていたミリにお年寄りみたいだとからかわれていた。
正直、俺も同じ事を思ったのでその事については何も言わないでおく。
・・・ていうか、確かハルアが18歳でミリが17歳だったよな。
そうなると俺が0歳の時は15歳と14歳ってことになるわけで・・・
と、未だにあーだこーだとじゃれつくミリとハルアを見ながら俺はふと思った。
この二人、俺がこの世界へ転生して初めて見た時から見た目が全く変わってないんだよな、と。
ーーーそう、今は俺がこの世界へと転生してからおよそ三年の月日が経っていた。
色々と新しい発見の連続だった生後半年間に比べて比較的穏やかに経った二年半で俺は無事にといっていいのか、まぁごく普通の三歳児へと成長していた。
もちろん、穏やかにとはいっても成長する事である程度の変化はあったが。
例えば0歳児の時には知り得なかった情報が手に入るようになり、より自分が置かれている状況が分かるようになった、とか。
以前俺は「ウィンフォード伯爵」の名前を聞き、それが俺の親の名前なのではないかと予想した事があったが、それは結果的に半分正解で半分不正解であった。
というのも、俺の父親はウィンフォード伯爵で間違いないのだが母親はその父親に仕えていたただのメイド長であり、端的に言ってしまえば俺は妾の間に出来た子、という事だったわけだ。
ハルアが言っていた「あの方」というのは母親の事だったみたいで、ミリとハルアは幼い頃から俺の母親なる人に色々と教えてもらっていたらしい。
何やらメイドとしてとても優秀だったとかなんだとか。
親が秀でている可能性も考えていたが当たらずとも遠からずだったわけだ。
そしてその母親に関してだが、ハルアやミリにそれとなく聞いても明確には答えてくれなかった。
だが遠回しなそれら発言を聞くに、どうやら俺を生むと同時に亡くなったようだ。
通りで生まれてこの方見たことないわけである。
そもそも、あんまり身体が強くなかったらしい母は子を産むのも難しいとこの世界の医者から常々言われていたみたいだがそれでも強行して産んだのが俺のようだ。
そんな中々ドラマチックな出生に初めてその話を聞いた時はビックリしたものだ。
まぁ見たこともない母親に対して思う事があるかと聞かれればぶっちゃけそんなにないのだが。
ただ漠然と良い人だったんだな、と思う程度だ。
いや決して俺が非情なわけではない・・・と思う。
少なくとも俺を産んでくれた事に対する感謝はしているし。
だけど別段寂しくはないんだよなー。
単純に俺の精神年齢が26歳だからかもしれないけど。
会ったことがない母親よりも、今の俺にはミリとハルアが居てくれる。
きっと俺にはそれで十分なのだろう。
そしてそんな母とは別に、それよりも厄介そうなのは例のウィンフォード伯爵こと俺の父親の方である。
どうやらメイド長である俺の母親に手をつけ妊娠させたはいいが、それが正妻に知られると面倒な事になると踏んだらしい俺の親父は必要最低限な世話係を付けて俺を別宅へと押し込んだらしい。
うん、ぶっちゃけこの時点で行動がクズだよね。
この世界の倫理観は全く分からんが、少なくとも俺がいた日本を基準に考えるなら相当なダメ男だろう。
まぁ別宅といいつつ家は小さな屋敷といっても過言ではないくらいには大きいし、物資なんかもきちんと定期的に運ばれてきているので生活には困らないから、その点だけを見ればまだマシな方なのかなとは思うけど。
だがこれだけなら単なるクズ男だと思うだけで厄介な奴だとは思わない。
実際に本で読んだ貴族関係の話ではよくあるような設定だしな。
だが、今後俺に対して干渉してくる可能性があるとすれば話は別だ。
まず俺が思うに、俺を育てる事自体善意からやっているものなんかじゃなくて俺をあくまでストックとして育てるためなんじゃないかと思っている。
というのは俺には二人の兄がいるらしく、その二人の兄は俺と違って正妻との子らしい。
つまり純血なわけだ。
普通に考えれば純血の兄のである長男が、もしその長男に何かあった場合には次男が家督を継ぐ事になるはずなのだが、保険には保険を。
更なるストックとして俺を育てているだけのような気がするのだ。
長男や次男に何も起こらなくとも、最悪他家へと婿にやればその家へと繋がりが出来る。
なので父親であるウィンフォード伯爵としては俺を捨てるよりも、適当だろうがなんだろうが育てておいた方が後々美味しいんじゃないか、ということである。
我ながら結構捻くれた考え方だとは思うがミリやハルアが俺の父親を語る時の嫌そうな顔や、未だ一度として自分の息子の顔を見にすら来ない現状を鑑みてそうとしか思えないのだ。
俺としてはせっかくファンタジーな世界に生まれたのに人間関係が営業職より面倒くさそうな貴族社会に進出するつもりなんざサラサラない。
というかむしろ勘当バッチコイなので妾の子だろうが別宅住まいだろうが現状に不満なんて一切無いんだけど、将来自分の未来が好き勝手される可能性があるというのはそれだけでかなり頭の痛い事だった。
いずれ、何が手をうたないと不味いだろう。
・・・さて。
こう改めて考えてみれば分からない事だらけだった赤ちゃん時代に比べて大分今の自分の立場っていうのが分かってきたな。
こうして情報が集まれば次にどんな行動をとればいいのかも考えられるし、やっぱり、いつの時代どんな世界でも情報を集める事は重要なのだ。
うん、これからも何かイレギュラーな事が起こらない限りはこのスタンスは貫いていこう。
そして出来れば、俺の身に起こったもう一つの変化についてもいずれは解き明かしたいものだ。
「ハルア、それ、ボクが持つ!」
「あぁアルナス様!それは私が・・・!」
ニャーニャーとキャットファイトを繰り広げていたハルアにそう言った俺は無理矢理ハルアの持っていた荷物を受け取る。
その荷物はそれなりに大きく俺が持とうとすると抱える必要があったのだが俺はヒョイッと頭の上へと持ち上げるとハルアの方へ顔を向けた。
「これ、どこ持っていくの?」
「いえ、ですが私が」
「いいじゃないですかぁ。アルナス様が運ぶって言ってるんですから」
「・・・はぁ。分かりました。ではアルナス様、それをキッチンの方へとお願いします」
「はーい」
ハルアに荷物を置く場所を聞いた俺はトテトテと走っていく。
そしてキッチンへと着くと、邪魔にならないように端の方へと置いた。
その際ドスンっと鈍い音をたてて床へと降りた荷物は、中身が一体何なのかはわからないがかなりの重さがあった事を物語っている。
だけど、俺には殆ど重さは感じていなかった。
ーーーこれがこの三年間で最も大きく変わった事の一つだろう。
何せ情報だなんだというより、俺自身の変化なのだから。
俺はある時を境に自分の魔力を感知する事が出来るようになった。
そもそも事の発端は魔法が使いたい、という目的の為にした事だったが魔力を見つけてから暫くの間、久し振りに触れた異世界要素にテンションの上がった俺はひたすらその魔力で遊んだ。
胸の奥の方に感じていた魔力を体の節々に流せないかと試してみたり、外へと放出出来ないかと頑張ってみたりと。
それはもう起きている時間の殆どをそれに充てていた。
謂わば魔力操作の時間に。
そしてある時、魔力を可視化出来るようになった。
一体何故可視化出来るようになったのかは分からないが再び訪れた異世界要素に俺はまたまたテンションが上がった。
ちなみに魔力が可視化できて分かったのはミリとハルアには殆ど魔力がないということ。
そして自分自身の魔力はあまり明確には見えない、という事だった。
でも見えないものが見える、というのはそれだけで予想以上に面白くーーー結果的に俺はまた魔力操作で遊びまくった。
左右の手に均等に魔力を流してみたり、全身に流してみたりと。
そしていつからだったか、ある時から俺は・・・魔力操作をしなくても身体全体に魔力が流れるようになっていた。
例えるなら今までは手動で各場所の回路を繋げて電流を流してやらなければいけなかったものが、何かの拍子に一つの回路として完成してしまい手動で何かをしなくてもずっと電流が流れている状態になった、と言った感じだ。
大きな湖が胸の奥にある魔力の源だとするならそこから水路が繋がり自然と水が流れるが如く、魔力が全身を巡り始めたのである。
そのおかげなのかどうなのかは分からないが俺の身体能力は飛躍的に向上し、こうして本来は持てないような重い荷物でもヒョイヒョイ持てるようになったのだ。
更に、意図的に流れている魔力を強めればもっと身体能力を上げる事が出来る。
まぁそんなに身体能力を上げてもいい事は無いので普段はしないんだけどね。
ともあれ、これを俺は身体強化と呼んで一つの魔法として認識する事にした。
正直勝手に魔力は流れてるし、勝手に身体能力は上がってるしで魔法を使っている意識は全然ないんだけど・・・それでも魔法という事にしたのだ。
何故かって?
それはーーー俺がこれ以外に魔法が使えないからだYO!!
うん!絶対おかしいよね!
魔力操作は完璧に出来るのに!
ハルアに教わって一生懸命字を覚え、魔道書もちゃんと読んだのに!!
一向に魔法が使える気配がないんだから!
魔道書にも『魔力操作が出来るようになれば魔法が使えたも同然です。
後は詠唱を正確に覚え、いざという時に間違えないようにしましょう』って書いてあったのに!!
ちなみにハルアとミリは俺のこの体質に関してある程度は知っている。
まぁ体質というよりも、俺が魔力で体を覆ったらこうなったと言ったのでそれを信じているだけだけど。
それにしてもさぁ。
はぁ・・・。
魔法使いに俺はなる?
色んな魔法をバンバンうつ?
アレはれっきとした、フラグ、というやつだったのだ・・・。
テンプレ展開の中に隠された孔明の罠だったのだろう。
チクショウ。
俺、魔法使いにはなれなかったよ・・・
いやまだまだ俺は若い。
というか幼い。
なので諦めているわけではないんだけど。
最初に期待しまくっていた分その落差がね・・・。
ともあれ、情報以外となるとこの特異体質になったというのが一番大きな変化だろう事は間違いない。
かといって身体には他に異変があるわけでもないし、この特異体質になってからも別にこれといったことがなかった。
「はぁ・・・何だかなぁ」
パタパタと俺を追ってキッチンへと近付いてくる気配を感じはぁ、とため息をつく。
両親の事にこの特異体質の事、そして魔法が使えない事。
穏やかな日々に反し考えなければいけない事が一気に増えたここ数年で、なんだか生々しい現実というものを見せられた気がした。
「何だか俺が夢見ていた異世界ライフとは少し違うような気がするんだよなぁ」
俺の予定ではこう、今頃バンバン魔法を使って周りから「凄い!天才ですぅ!」的な評価を貰ってるはずだったんだけど・・・
現実はいつか父親から干渉があるじゃないかとビクビクしながら暮らす特異体質の子が一人っと。
まぁでも。
「生きてるのか死んでるのか分からなかったあの世界よりか全然マシ、か」
再びため息をついた俺は無理にでもそう思う事にし、ハルア達の元へ行くため一歩踏み出すのであった。
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