表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/514

九拾八 サイレントキラー影法師

 二階は真っ暗である。

「安太郎さん、ちょっと待って」

 おれは懐中電灯を持って引き返すと、再び木製の蓋を押し上げた。


 それは蝶番(ちょうつがい)も何もなく、ただ上から被せているだけの代物で、本当に呆気(あっけ)なく開いたのだった。

 恐れていたような(かび)(ほこり)の匂いは殆どしない。


 閉所恐怖症のおれは懐中電灯の明かりを頼りに、先ずは窓と窓、雨戸という雨戸を片っ端から開け放した。


 階段の上り口は手摺で囲われており、(のぼ)りついて直ぐの所は廊下と物置、東側は洋間となっている。洋間には、安太郎さんのものとおぼしき蔵書が本棚から溢れ出し、床の上にまで所狭しと置かれていた。


 南側は、一階と同じく二間続きの和室である。畳や襖は経年劣化でそれなりに傷んだり、色()せたりしていたが、それほどひどくはない。


 そう言えば、初めてこの家を訪ねて来た時、化野(あだしの)が言っていたっけ。時々は風を通しておかないと、いろんな(むし)跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)して困ると。


 埃や蜘蛛の巣だらけになっていないところを見ると、化野が定期的に手入れをしていたのかもしれない。半妖で一筋縄ではいかない奴ではあるが、何らかのトラブルを抱えているものたちにとっては、信頼もでき、重宝もしている相手なのかもしれぬ。


 影法師が物置で、こっちに来いというような仕草をしている。

 行ってみると、古いトランクが置かれてあった。しっかりと施錠されているようであったが、促されて金具部分に軽く手を触れると、ボロリと崩れるように落ちてしまった。


「いいんですね?」

 恐る恐るトランクを開ける。


 先ず目についたのは、人形の首だった。

 虚ろな目に、黒いぼうぼうの髪。

 予想どおりである。


「これは、下にある人形の手の主に間違いないですね?」

 そう尋ねると、即座に頷く。

「そして、例のわらわんわらわの――」

 腕組みをした後、これにも首を縦に振る。


 人形の首のほかにあったのは、古めかしい帳面だった。それを手に取り、影法師のほうを振り返ると、構わないという素振り。

 開いてみると、一枚の紙きれが挟まっている。


 中にはこのような文句が綴られていた。



   月光しんしんと冴えわたり

   サトイモの葉には小さな雫

   鈴虫がリーリーリーと鳴く


   サトイモが私を見て

   月と自分とどっちが奇麗かと尋ねたので


   お前はあまたの露を宿し

   露は月の光を宿している


   だからお前のほうが奇麗だよ

   と答えたら


   不意にその大きな葉を揺らし

   ぽたりと一滴 雫を落とした


   鈴虫が鳴く

   空には満月

   地には亡骸(なきがら)



 おれは驚き、思わず影法師を振り向いた。

「あんた、……ひょっとして人を殺したのか? いや、まさか……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ