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八拾壱 欽之助、啖呵を切る

「やれやれ、幾ら宝探しの夢を見たからって、何時まで寝惚(ねぼ)けてるんだか……」

 おれは、あくまでもとぼけて見せる。


金々先生栄花夢きんきんせんせいえいがのゆめって奴だな」

 タイミング良く、つる坊が上手(うま)いことを言う。


「そう言えば、キンケツは『恋松春香』っていう優美なペンネーム使ってたね」

 と、キョンシー。


「その割には、読んだ途端、何て詩だって叫びたくなるような、下手っ糞なのばっかり書いてた。あれは詩と言うより、気持ち悪いラブレターだな。それもマドンナ宛ての」


「いやあ、こう皆から総攻撃受けたんじゃ叶わないや」

 言われたほうは、ニヤニヤしながら頭を掻いている。満更でもなさそうだ。

 また、ポカリとやりたくなった。


 丁度そこへ、(きよ)さんたちが料理を運んでくる。

 これも公民館から借りてきたという四つのカセットコンロに、獅子鍋と猪肉(ししにく)鋤焼(すきや)きを、それぞれ二つずつどかんどかんと、豪快に置いていく。


 更に、清さんが朝から作っていた、うま煮の皿を並べる。


 清さんが家に来た当初、初めてこれを出された時は、祖母や母がよく作ってくれていた筑前煮かと思ったが、うま煮だと訂正された。

 どうやら、油を使うか使わないかの違いらしい。


 どちらにしても、おれの大好物であることに変わりはない。

 ほかにも、刺身やなめろう、又は蕎麦(そば)などが、座卓にふんだんに並べられた。


 一体、いつどうやって、これだけの食材を調達したのだろう。

 清さんは、おれからただの一銭も貰ったことがないというのに……。


「それでは皆さん、乾杯!」

 寅さんが、実に簡潔な乾杯の発声をして、いきなり酒盛りが始まる。

 それにしても、真昼間から当たり前のように酒を飲むとは――。

 やっぱり、夢酔仙人に祟られているに違いない。


 座は一気に盛り上がる。

 つる坊と|キョンシーは、早速女たちに囲まれるようにして、俳句談議に花を咲かせている。


 おれは、そこには加わらないことにした。

 昔、同人誌をやっていた時に、彼らに言われて渋々詠んだところが、こっぴどくこき下ろされたので、それ以来俳句は決してやらないことにしている。


「おーい、おらが村の先生。俳句はなさらないんですか?」

 ヤンマーが、からかうように言う。


「ふん。あんな、閑人がやるものなんか。世間は広いんだ。人間の心の中はもっと広い。それを、たったの十七文字(もんじ)で、何が表現できるものか」

 と、おれは言い返してやった。


「ほほお」

 ヤンマーは、変に感心している。


 おれは散文的な人間なんだ。

 しかもその中に季語まで()め込むなんて、頼まれもせぬのに、わざわざ狭い通りを肩をすくめて歩くようなものだ。

 

「しかし、随分な言い方だな」

 ヤンマーが、ぽつりと言う。

「えっ?」


「婆ちゃんはもう80にもなるけど、真夏の暑いさ中でも腰を(かが)めて田の草取りをやっている。お前よりよっぽど忙しく働いているぞ」


 しまった、と思った。

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