七 オッチャンの、ああ夏休み
爺ちゃんはそれから数箇月して、今度は本当にころりと死んでしまった。
ところが、最初のお盆にひょっこり帰ってくる。
「いやあ、済まん済まん。忘れん坊を連れていくのをすっかり忘れておったわい。
前世のことを覚えていたまんまだと、生まれ変わるのに何かと不都合じゃからのお」
そう言うと、何かの首根っこを捕まえているような仕草をしながら、また往ってしまった。
それで忽然と思い出した。
夏休みの宿題を全くやっていなかったことを。
爺ちゃんの部屋は、そのままおれが使っていたのだった。
たまに、前世の記憶を突然語り始める幼児がいる。あれも恐らくは、忘れん坊を置き忘れたからなんだろう。
祖父が死に、両親もおれが大学生のときに相次いで死んでしまった。家屋敷と一緒に骨董品やガラクタどもはみな処分してしまったが、祖父の大切にしていた文机と古備前、それに老子の掛け軸だけは手元に残した。
おれの新居であるあばら家というのも変な言い方だが、間取りなどについてさらっと紹介だけしておこう。
まず玄関に入ると、上がり框に続いて、何にもない六畳間がある。襖を隔てて、その奥にさらに六畳間。ここには押し入れと階段がある。多分布団部屋か何かだろう。階段は箪笥になっているのか、横に引き出しと取っ手がついている。
階段の一番上は、二階には行けないように板で塞いである。
「二階までは手を入れてないものですから、使わないようにしてください。まあ、あなたは独り身のようですし、必要ないでしょう」
あの時、化野は、例によってこちらを見るような見ないような顔でそう言ったが、誰が好き好んで上がるものか。
奴がそう言う直前に何か黒い影が階段を上っていくのを、おれはたしかに見たんだから。
この二つの部屋の襖を隔てて南側に、八畳間の座敷が二つあって、西側の一番奥に床の間がある。ついでに補足すると、上がり框からすぐ南向きに縁側が延びていて、突き当りがトイレである。
おれは大学生になってアパートを借りる時に、間取り図に「WIC」とあるのをトイレと間違って、大いに恥を掻いたことがある。まあ、このおれにウォークインクローゼットなど無用の代物であるが。
それからトイレの前をさらに西方向に縁側が続く。つまり、南向きで二間続きの座敷を、縁側がL字型に囲んでいるわけだ。
おれはせっかちで癇癪持ちで、そのうえ閉所恐怖症だと今までにも言ったが、もう一つ方向音痴でもある。そんな人間がこんな説明をするのは非常に疲れるので、この辺でやめておこう。
台所や浴室などについては、また追々と――。