表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/514

七拾八 個人事業主たちの悲哀

「おや、本当だ。早く支度をしなくっちゃ」

 と清さん。

「私たちも手伝いますよ」

 米さんと美登里さんも、一緒に台所に向かった。


 寅さんとヤンマーは、早速、縁側に上がってくる。

 床下を覗いた寅さんが、驚いた。

「おい、欽之助。一体何をやってるんだ。白蟻を調べるのに、何で土を掘り上げてるんだ?」


「いやあ、アハハハ……」

 おれが誤魔化していると、

「ついでにお宝探しをしようってことになりましてね」

 と、キョンシーが馬鹿正直に言う。


「こんなお化け屋敷に、お宝なんてあるものか。なあ、誠」

「そりゃ、そうだ。人骨が埋まっていることはあっても、お宝はないな」

 ヤンマーが、当たらずとも遠からざるような怖いことを言う。


「そ、そうだよな。おれが馬鹿だった。さあ、早く片付けてしまおう」

 おれはスコップを使い、掘り上げた土をさっさと穴に戻す。

 キョンシーが、また尻をからげて、鍬で土を(なら)し始める。


 つる坊は、手持ち無沙汰気味に突っ立ったまま、何かぶつぶつ言っている。

 耳を澄ましたら、

「今日は一体、何て日なんだ……」

 と言っているのが聞こえた。


 キンケツは縁側の柱に寄りかかり、片膝を立てて座っていた。不貞(ふて)腐れたような顔で、外のほうを向いている。このまま何もしないつもりだろう。


 二人のことは放っといて、四人で杉板を並べていった。


 キョンシーが、率先して釘で打ち付け始めたが、すぐに、

「イタタ」と悲鳴を上げる。

 自分の指を、金槌で叩いてしまったようだ。


「ああ、もう、これだから……。先生方はもう休んでいてください。あとは我々でやりますから」

 寅さんが言う。


「それがいい。良かったらシャワーでも浴びたらどうですか?」

 と、ヤンマー。


 二人とも口に数本の釘を(くわ)えながら、片っ端から金槌で叩いて張り付けていく。

「器用なものですね」

 キョンシーが感心している。


「百姓は、一見使い物にならないような端材だろうが、何だか分からない部品だろうが、皆捨てずに取っておくんです。それで農機具でも家の中でも、自分で直せるものは何でも直します。だからこそ、何とか食っていけるんですよ」


「へえ、そうなんですか」

 寅さんが珍しく真面目に喋るので、キョンシーも神妙に聞いている。

「何の仕事でも、食っていくのは大変なんだなあ。僕だって、いつ飢え死にしてもおかしくない」


「先生がですか? 和服姿でテレビなんかに出て、華やかな生活をなさっているように見えますがね」


「これは仕事道具ですよ。あなたの使う(くわ)やスコップみたいなもんです」

 両手で着物の袖をひらひらさせながら言う。

「華やかなようには見えても、明日をも知れない身です。将来の保証なんて、何もありません」


「キョンシー、僕は先にシャワーを浴びてくるよ」

 さっきから所在なさそうにしていたつる坊が言う。心なしか、憂わし気な表情をしていた。


「僕はその次にさせてもらおう。もう少し見学していたいから」

 と、こちらも何となく沈んだ調子で言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ