七拾五 謎解きと宝探しと白蟻検査の顛末
彼女は割烹着を着て、台所で忙しそうに立ち働いていた。だし汁のいい匂いが、漂っている。
「清さん」
と声を掛けると、
「何でしょうか。後にしていただけますか?」
と、バタバタしながら言う。
「あっ、そうなんだ。実は――」
「ちょっと坊ちゃん、そこ邪魔ですよ」
と、追い払われる。
「今、お昼の準備で大変なんです。何しろ、お客さんが大勢ですからね」
大勢……? 3人を大勢と言うのだろうか。
まあたしかに、自分は食べないとしても、おれを含めて4人分の食事を作るのは、大変と言えば大変だ。
「申し訳ないけど、よろしくお願いします」
おれは、人形の手をポケットに忍ばせたまま、座敷に戻った。
すると、キョンシーが縁側で裸の両脚を投げ出して、早くもくたばっている。
「いやあ、久しぶりに身体を動かしたものだから」
仰向けになったままこちらを見上げ、苦笑いをしている。
「どこ、行ってたんだよ」
つる坊がプンプンしたように言う。
「トイレだよ、トイレ」
と、おれは誤魔化す。
キンケツは、相変わらずものも言わずにツルハシを振るっている。
これだけの熱心さを発揮するなら、商社でもがっぽがっぽ稼いで、大いに出世することだろう。京子も、将来は社長夫人かもしれない。
おれは、形ばかりスコップを使う振りをすると、言った。
「おい、そろそろ昼飯にしようじゃないか」
「ああ、それがいい」
つる坊とキョンシーが即座に同意する。
「まだまだ」
キンケツは汗びっしょりになりながら、まだ頑張ろうとする。
ところへ、清さんが顔を出した。
「おや、まあ……。一体、どうなすったんです?」
座敷の様子を初めて見て、すっかり驚いている。
おれが目で合図すると、すぐに気付いて言った。
「ああ、そうでございましたか。それで何か出てきました?」
おれは慌てて、顔をぶるんぶるんと振った。
「何にも出て来やしない」
と、キンケツが腹立ちまぎれに言う。
「おい、落目、本当にあれが出てきたのか?」
床の間の古備前を見ながら言う。
すると、キョンシーが無邪気に言った。
「そう言えば、大学時代に同じようなのがアパートになかったっけ?」
「馬鹿言え。床の間もないのに、そんなもの置いとくものか」
清さんも何か言いかけるのを遮って、おれは言った。
「さあさあ、清さん。もうそろそろ、昼御飯の支度ができたんじゃないですか?」
「いいえ、もう少し時間がかかります。それに、ここをこのままじゃあ、お膳が並べられません」
「なあに、ここじゃなくったって、この人数なんだから居間で十分ですよ。食事を運ぶ手間も省けるし」
「あ、でも……」
頬に片手を当て、困っている様子。