表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/514

七拾参 君は何を隠しているんだろう

「うーん……」

 おれは、また悩む振りをした。

「よし、おれが五分で、残りをお前ら三人で山分けと行こう」


「いや、駄目だ。こんな田舎まではるばるでやってきたんだから、均等に分けてもらいたい」

 キンケツが強情を張る。


 つる坊とキョンシーも、うんうんと頷いている。

 俳人として有名になっても、金には不自由しているらしい。


「分かった。降参だ」

 とおれが答えると、キンケツは長靴も履かずに、床下に飛び降りた。

 ものすごい勢いで、地面を掘り始める。


「意外と固いもんだな」とキンケツ。

「ツルハシもあるけど、丁寧にやってくれよ。白磁の壺なんかが埋まってたら、大変だからな」


「ああ、分かっている。貸してくれ」

 キンケツは早速ツルハシを振り上げたが、その拍子に重さでバランスを崩し、尻もちをついてしまった。

 あとの二人は大笑いしている。


 おれは、彼らに背中を向けると、ぺろりと舌を出した。

 仮に埋蔵金が見つかったところで、ここの地主と折半になるはずだ。


 ところが、登記簿上の名義は、とっくの昔に亡くなった人で、法定相続人が百人は下らないときている。一体、どうやって分けることになるんだろう。

 まあ、もし万が一出てきたら、イソベンにでも聞いてみよう。


 おれは彼らを放っといて、浴室に向かった。

 影法師もすっと付いてくる。

 人形の手を洗面台でそっと洗うと、すぐに奇麗になった。


 影法師が目を見張っている。もちろん、真っ黒だから表情までは見えない。おれが勝手に、そう感じただけだ。


 ――君には、これに心当たりがあるんじゃないのか?

 おれは直接念を送ってみた。

 影法師からは何の返事も返ってこない。


 しかし、これは今に始まったことではなかった。家の中を音もなくうろつき回るだけで、出逢った時から彼は一度も喋ったことがないのだ。


 実は、乱れ髪のことについては、彼が大きな秘密を握っているんじゃないかと、おれは早くから睨んでいた。

 だから、これまで何度も彼に問い質そうと試みたが、いつもその度に、二階のほうにすっと消えてしまうのだった。


 考えてみれば、乱れ髪の顔は二階から落ちてくる。


 ということは、二階に秘密を解く大きな鍵が有るのではないか。

 そう思って、ある日、強引に二階への入口をこじ開けようとしたが、到底開くものではない。


 あげくの果てに、階段から転がり落ちて、下手をしたら大怪我をするところであった。


 それからおれは、改めて考えてみた。

 影法師の正体が、安太郎さんだとする。


 彼は、特高警察から激しい拷問を受け、やっと家に戻された時はひどく身体が衰弱し、口も聞けない状態になっていたという。


 つまり、黙秘を貫いたということであろう。

 だとすれば、影法師が一言も口を利かないのは、本人の意思なのか。

 それとも、喋りたくても喋れないのか――?


 どちらにしても、特高のように強引に口を割らせようとするのは逆効果だ。

 そういう結論に、おれは達したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ