七拾参 君は何を隠しているんだろう
「うーん……」
おれは、また悩む振りをした。
「よし、おれが五分で、残りをお前ら三人で山分けと行こう」
「いや、駄目だ。こんな田舎まではるばるでやってきたんだから、均等に分けてもらいたい」
キンケツが強情を張る。
つる坊とキョンシーも、うんうんと頷いている。
俳人として有名になっても、金には不自由しているらしい。
「分かった。降参だ」
とおれが答えると、キンケツは長靴も履かずに、床下に飛び降りた。
ものすごい勢いで、地面を掘り始める。
「意外と固いもんだな」とキンケツ。
「ツルハシもあるけど、丁寧にやってくれよ。白磁の壺なんかが埋まってたら、大変だからな」
「ああ、分かっている。貸してくれ」
キンケツは早速ツルハシを振り上げたが、その拍子に重さでバランスを崩し、尻もちをついてしまった。
あとの二人は大笑いしている。
おれは、彼らに背中を向けると、ぺろりと舌を出した。
仮に埋蔵金が見つかったところで、ここの地主と折半になるはずだ。
ところが、登記簿上の名義は、とっくの昔に亡くなった人で、法定相続人が百人は下らないときている。一体、どうやって分けることになるんだろう。
まあ、もし万が一出てきたら、イソベンにでも聞いてみよう。
おれは彼らを放っといて、浴室に向かった。
影法師もすっと付いてくる。
人形の手を洗面台でそっと洗うと、すぐに奇麗になった。
影法師が目を見張っている。もちろん、真っ黒だから表情までは見えない。おれが勝手に、そう感じただけだ。
――君には、これに心当たりがあるんじゃないのか?
おれは直接念を送ってみた。
影法師からは何の返事も返ってこない。
しかし、これは今に始まったことではなかった。家の中を音もなくうろつき回るだけで、出逢った時から彼は一度も喋ったことがないのだ。
実は、乱れ髪のことについては、彼が大きな秘密を握っているんじゃないかと、おれは早くから睨んでいた。
だから、これまで何度も彼に問い質そうと試みたが、いつもその度に、二階のほうにすっと消えてしまうのだった。
考えてみれば、乱れ髪の顔は二階から落ちてくる。
ということは、二階に秘密を解く大きな鍵が有るのではないか。
そう思って、ある日、強引に二階への入口をこじ開けようとしたが、到底開くものではない。
あげくの果てに、階段から転がり落ちて、下手をしたら大怪我をするところであった。
それからおれは、改めて考えてみた。
影法師の正体が、安太郎さんだとする。
彼は、特高警察から激しい拷問を受け、やっと家に戻された時はひどく身体が衰弱し、口も聞けない状態になっていたという。
つまり、黙秘を貫いたということであろう。
だとすれば、影法師が一言も口を利かないのは、本人の意思なのか。
それとも、喋りたくても喋れないのか――?
どちらにしても、特高のように強引に口を割らせようとするのは逆効果だ。
そういう結論に、おれは達したのだった。




