七拾壱 手の謎解明に着手
そんなおれの気持ちを知ってか知らずか、キンケツは続けた。
「ただ、君のことをとても心配していた。君がすっかり落ちぶれて……いや、悄気返って病気にでもなってないかと……。うん、元気そうでよかった。彼女には、僕からよく伝えておくから」
つい癇癪が起こりかけて、彼をポカリとやりたい衝動に駆られたが、つる坊とキョンシーがはらはらしていたので、ぐっと堪えながら言った。
「田舎のいい空気を吸って、このとおり元気だ。近所の人たちとも仲良くやっているし、ほかにも友達が沢山できた。だから心配御無用と京子さんには伝えてくれ」
「分かった。実は、彼女とはもう結婚後のことについても、具体的に相談しているんだが、どうやら海外生活になりそうなんだ」
「海外だって?」
「ああ、アメリカ支社で、大きなプロジェクトを任されることになっていてね」
「へえ、そうかい」
おれは胸の中を真っ黒けに焦がしながら言った。
「実は、この家でも大きなプロジェクトがあってね。ちょっとみんなにも手伝ってもらいたいんだ」
「何だい?」
皆が一斉に好奇心の表情を浮かべる。
「何でもいいから。――さあ、退いた、どいた」
おれは、皆を隣の八畳間に追いやると、畳の隙間に物差しを突っ込み、一枚だけ剥がした。
「何をしている。皆も手伝ってくれ。全部剥がして、隣の部屋に移すんだ」
「あ、ああ」
三人とも呆気にとられながら、言うことを聞いている。
幸い、畳は張り替えて間もないので、余り埃も立たずに作業が終わった。
荒床が丸見えになる。
「さあ、次は杉板だ。これも全部剥がすんだ」
「お、おい。いくら何でも、説明ぐらいしてくれよ。一体何が目的なんだ」
つる坊が堪り兼ねたように言う。
そら来た、とおれは思った。当然予想していた質問だ。
予め用意しておいた答えを、おれは言った。
「実は白蟻らしきものをチラッと見たんだ。このとおり古い家だろう? だから、お前らが来たのを機会に、床下を調べておこうと思ってね」
「冗談じゃない」
キンケツが吐き捨てるように言った。
「こんな田舎下りまできて、どうしてそんなことまでさせられなきゃいけないんだ。僕は断る」
「お前のことなんて、最初から当てにしてなかったさ。どっかその変でもぶらぶらしといてくれ」
「ああ、そうさせてもらう」
「樫木と中浜は、いいよな?」
「勿論いいさ。友達じゃないか」
人の好いキョンシーがすぐに返事をした。
「そうと決まれば、思い立ったが吉日だ」
キョンシーは羽織袴を脱ぎ捨てると、尻をからげ、着物にたすき掛けをした。こうなると、ただの物好きである。
つる坊のほうを見ると、暫く目を真ん丸にしていたが、
「チクショウ、今日は何て日なんだ」
と言って、帽子を畳に投げ捨てた。坊主頭が丸出しになる。
こうして見ると、あるお笑いタレントによく似ていた。




