表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/514

六拾九 あばら家、友を圧倒する

「おい、見ろ。古寺があるぜ」

「本当だ。(いらか)のそばで柿の実が熟しているところなんざ、()になるね」


 バス停からの途々(みちみち)、つる坊とキョンシーは、やたらはしゃいでいる。キンケツはさすがに気にしているのか、黙りこくったまま歩いていた。


(カラス)が枝にとまっていたら、なおいい」

「いや、烏ならやはり夕方だろう。朝の風景には似合わないぜ」

「本当だ。朝ならゴミステーションだ。しかし、俳句にはならないな」


「存外、いけるかもしれない。作者の技量にもよるんじゃないか?」

「そうかなあ。――あっ、鳥居がある」

 キョンシーは山の方向を向いて、ピョンと跳んだ。両手を前にだらんとさせている。羽織袴姿でそんなポーズをとるものだから、すこぶる奇観である。


 こいつ、まだこの癖が直っていないのか。

 そう思って可笑(おか)しくなると同時に、嬉しくなった。


「こっちにはお地蔵さんもあるぜ。赤い前掛けなんかして、可愛いもんだ」

 とつる坊。


「お前らさあ、さっきからしきりに感心しているが、東京の街中(まちなか)にだって、お寺や神社ぐらいあるだろう」

 とおれが言うと、

「いやあ、やっぱり風情が違う」とキョンシー。


「そうさ。古寺というのは、やはり田舎に良く似合う。風景に自然に溶け込んでいる。何よりもわざとらしさがないのがいい」

 と、つる坊が援護射撃をする。


「写生にはうってつけだな」とキョンシーが言う。

「そうそう。写生だ、写生だ」とつる坊。

 キンケツは相変わらず、黙りこくったままである。


 そうこうするうちに、(うち)に着いた。

 三人とも息を呑んでいる。

 キョンシーが門までぴょんぴょん跳んでいった。

「見ろよ、瓦屋根付きの門だぜ」


「素晴らしい」とつる坊が応じる。

 キョンシーは、今度は土塀(つちべい)の壊れた所に跳ねていく。

「おい、見ろ。土塀が崩れている。崩れた所に、四つ目垣が」


「本当だ。風流だなあ。安倍晴明もこんな屋敷に住んでいたんじゃないだろうか」

 と、またつる坊。


「何が風流なものか。いつまでも感心ばかりしていないで、早く中に入れよ」

 と、三人を促した。


 今にも崩壊しそうな二階建てのあばら家は、相変わらず圧倒的な迫力で天下を睥睨(へいげい)している。


「すごい」

 樫木正雄はハンチング帽を取ると、坊主頭を朝日にさらしながら、口をあんぐりと開けて見上げている。


「どうした? 新たな句境でも開けそうかい?」

 と、おれがからかい半分に聞くと、

「む、うむむむ……」

 と何時までも(うな)っている。


 清さんが玄関から出てきた。

「皆さん、よくいらっしゃいました。お疲れになったでしょう。さあさ、お上がりください。お茶でもお出ししましょう」

 そう言って、また奥に引っ込む。


 すると、今まで黙っていたキンケツが、初めて口を開いた。

「何だ、あの婆さんは? 君、家政婦でも雇ったのか? 大した御身分だなあ」

「いや、そんなんじゃない」

 まさか百年以上も前に此処に住んでいた人だとは言えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ