六拾七 招かれざる客
「ほら、君も知っているだろう、朝陽新聞主筆の川辺一谷さん。あの人が僕を選者として推薦してくれたんだ。
総務が頑として君の連絡先を教えてくれないので、彼を通して、やっとのことで教えてもらえた。いや、大変だったよ」
樫木は、笑いながらそう言った。
「おい、つる坊」
と、おれは呼びかけた。
「つる坊だって?」
彼は鸚鵡返しのようにそう言うと、しばらくして笑い出した。
「君も随分だなあ。僕は、俳人として少しは名を知られるようにはなったんだぞ。そんな昔のあだ名で呼ぶのはやめてくれよ」
「いいじゃないか。お前、相変わらず坊主頭を風にさらしながら、ぼーっとして歩いているんだろう?」
「何、お前だって? 相変わらずだな、君も。――まあ、いいや。僕のことをお前と呼んでいいのは、君だけだからな」
全く、どいつもこいつも、どうして『お前』って言葉にこうも拘るんだろう。
そう思いながら、構わずに続けた。
「お前、学生時代と比べたら、随分話し方も闊達になったじゃないか。何だ、お前らしくもない」
「食っていくためには、そういつまでもボーっとしてばかり、いられないのさ。君のように高等遊民を気取っているわけにはいかないんだ」
「で、何の用なんだ」
「何の用だって?」
「何だ、さっきから。だって、だってばかり、やたら繰り返して」
「いや、だって、君のような傲岸不遜な喋り方をする人間の相手をするのは、めったにないものだから、ついこっちもうろたえてしまうんだよ」
「で、何の用なんだ」
「いや、だから……。全く、君って奴はもう……」
電話の向こうで、溜息が漏れる。
「随分な言い草だな。何の用だとは何だ。君のことが心配だからこそ、こうやって電話をしてるんじゃないか。実は、今度の土曜日に君の家に遊びに行くことにしたから、そのつもりにしておいてくれ」
「それは構わないが……。で、お前一人でくるのか?」
「キョンシーとキンケツが一緒だ」
「キンケツだと? おい、冗談じゃない。奴とおれの因縁は、お前が一番よく知ってる筈じゃないか。それなら来ないでくれ」
久し振りの友達に、つい声を荒げてしまった。
「まあ、そう言うなよ。彼は彼で気にしているんだ。君にきちんと謝りたいと言っていた」
「謝る? ふざけるのもいい加減にしろ。まだこれ以上、おれを惨めな気持ちにさせようと言うのか?」
「実は、マドンナのためでもあるんだ」
心臓がドクンと波打った。
「京子の……?」
「そうなんだ。どこで聞きつけたのか知らないが、キンケツが勝手についてくることになったものだから、マドンナにこっそり相談した」
胸の鼓動は、ますます高鳴っていた。
無論、それがつる坊に分かるはずもない。
「彼女はてっきり反対するものとばかり、僕は思っていた。彼女が反対するなら、断るつもりだった。ところが意外にも、是非、彼も連れて行ってくれと言うんだ」
「何故……?」
おれはすっかり狼狽し、声もかすれていた。