表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/514

六拾七 招かれざる客

「ほら、君も知っているだろう、朝陽新聞主筆の川辺一谷(いっこく)さん。あの人が僕を選者として推薦してくれたんだ。

 総務が頑として君の連絡先を教えてくれないので、彼を通して、やっとのことで教えてもらえた。いや、大変だったよ」


 樫木は、笑いながらそう言った。


「おい、つる坊」

 と、おれは呼びかけた。


「つる坊だって?」

 彼は鸚鵡返しのようにそう言うと、しばらくして笑い出した。

「君も随分だなあ。僕は、俳人として少しは名を知られるようにはなったんだぞ。そんな昔のあだ名で呼ぶのはやめてくれよ」


「いいじゃないか。お前、相変わらず坊主頭を風にさらしながら、ぼーっとして歩いているんだろう?」


「何、お前だって? 相変わらずだな、君も。――まあ、いいや。僕のことをお前と呼んでいいのは、君だけだからな」


 全く、どいつもこいつも、どうして『お前』って言葉にこうも(こだわ)るんだろう。

 そう思いながら、構わずに続けた。

「お前、学生時代と比べたら、随分話し方も闊達(かったつ)になったじゃないか。何だ、お前らしくもない」


「食っていくためには、そういつまでもボーっとしてばかり、いられないのさ。君のように高等遊民を気取っているわけにはいかないんだ」


「で、何の用なんだ」


「何の用だって?」

「何だ、さっきから。だって、だってばかり、やたら繰り返して」


「いや、だって、君のような傲岸不遜な喋り方をする人間の相手をするのは、めったにないものだから、ついこっちもうろたえてしまうんだよ」


「で、何の用なんだ」


「いや、だから……。全く、君って奴はもう……」

 電話の向こうで、溜息が漏れる。

「随分な言い草だな。何の用だとは何だ。君のことが心配だからこそ、こうやって電話をしてるんじゃないか。実は、今度の土曜日に君の家に遊びに行くことにしたから、そのつもりにしておいてくれ」


「それは構わないが……。で、お前一人でくるのか?」

「キョンシーとキンケツが一緒だ」


「キンケツだと? おい、冗談じゃない。奴とおれの因縁は、お前が一番よく知ってる筈じゃないか。それなら来ないでくれ」

 久し振りの友達に、つい声を荒げてしまった。


「まあ、そう言うなよ。彼は彼で気にしているんだ。君にきちんと謝りたいと言っていた」


「謝る? ふざけるのもいい加減にしろ。まだこれ以上、おれを惨めな気持ちにさせようと言うのか?」


「実は、マドンナのためでもあるんだ」

 心臓がドクンと波打った。

「京子の……?」


「そうなんだ。どこで聞きつけたのか知らないが、キンケツが勝手についてくることになったものだから、マドンナにこっそり相談した」


 胸の鼓動は、ますます高鳴っていた。

 無論、それがつる坊に分かるはずもない。


「彼女はてっきり反対するものとばかり、僕は思っていた。彼女が反対するなら、断るつもりだった。ところが意外にも、是非、彼も連れて行ってくれと言うんだ」


「何故……?」

 おれはすっかり狼狽し、声もかすれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ