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六拾壱 バスガールの告白

「だから、そんなおれに何ができるんだろう。みんなで寄ってたかって、やれお前には何かを引き寄せる能力があるだの、乱れ髪の問題を解決するのがお前の役目だの言われても、おれにはどうしたらいいのか――」


「あんた、ホントに何にも分かっていないんだね」

「えっ……?」


「だから、言ったじゃない。私たち仲間は、普通、場所を選ばない。人間のいる所なら、どこにでも出るって。それは人間が好きだから」


「いや、それはさっきもたしかに聞いたけど、それが何?」

「もう、この鈍感男! 全く察しが悪いんだから」


 おれが鈍感だって?

 やれやれ、また一つ、おれの欠点が加わった。


「あんたは特別なのよ」

「おれの何が特別なんだ」


 バスガールは、しばらく黙ったまま、一心におれを見つめた。

 やがて言った。


「あなたは、ほかの人たちとは違う。いたずらに私たちを気味悪がったり、忌み嫌ったりしない。

 言葉は横柄だけど、それは決して私たちを見下しているのではなく、私たちの存在を認め、自分と対等に扱ってくれている証拠なんだよ。

 それだけじゃない。私たちの辛さや悲しみを、あなたはちゃんと理解してくれている。それが分かっているから、みんなあなたに引き寄せられるの」


 彼女の両眼に、いつの間にか涙が一杯溜まっていることに気づき、おれはドキリとした。


 口の悪いバスガールが、おれのことをこんなに褒めてくれるなんて……。

 これは剣呑極(けんのんきわ)まりない。

 おれがいくら血の巡りが悪い人間だからって、気づくに決まっている。


「えーと、そ、その……、実はもう一つ聞きたいことがあったんだ」

「何?」


「あの時君は、何故イソベンなんかの所にいたんだ?」

「ああ、あれ?」

「うん」


「いざ家出をしたのはいいけれど、なかなか私にお風呂を使わせてくれる所が見つからなかったの。

 私にも多少の妖力が使えるし、いざと言うときには仲間にも頼める。だから、何か困った問題を抱えている家があったら、私が解決してあげるのと引き換えに、住まわせてくれるような家を探していたってわけ」



「だからって、何故あいつなんかの所に……。あっ、ひょっとして……」


「そう。あいつはキザで厭味ったらしい奴だけど、あんたと同じような能力を持っている。

 だから、その能力を使って、通常の手段では解決できない問題を抱えている家庭と私たちとを引き合わせて契約を結ばせていた。奴はその手数料で稼いでいたの。近頃は、弁護士さんでも食っていけないらしいからね」



「あいつ、化野(あだしの)の悪口なんか言ってたけど、御同業だったんだ」


「そう。だからって、イソベンは半妖ではないけどね。でも、私が行った時は、既にその商売から足を洗っていた。何かひどい目に遭ったらしい。危うく死にかけたそうよ」

「ふーん」


「だから、いくら頼んでも、もう辞めたんだからと、その一点張りだった。その時に、ちょうどあなたが現れた。ただならぬ妖気を漂わせてね」

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