四拾九 禁じられた恋
その後、安太郎は益々優しく接してくれるようになる。彼の両親も、母親を亡くしたばかりの清さんのことを何かと気遣い、万事にわたって不足を感じることのないように取り計らってくれたのである。
二人の言っていた「嫁入り」という言葉が、何となく心の隅に引っかかってはいたが、女学校にも通わせてもらい、この家で何不自由なく暮らしていた。
これからも、このままずっとこの家で暮らしていくものとばかり、清さんは一人で思い込んでいたのだった。
ところが、安太郎が高等学校に進んだ頃から、風向きが変わってくる。
清さんが十五歳の時であった。
ある日、清さんが部屋で裁縫をしていたら、安太郎の母親の初枝が来て、
「ちょっといいかい?」
と言う。
改まって何事かと思ったら、突然言い渡された。
もうこれまでのように、安太郎といつもくっついてばかりいてはいけないと。
理由は二つあった。
一つは、嫁入り前の大切な身体であるから、世間様に誤解を与えないようにしなければならないということ。
もう一つは、安太郎が東京帝國大學を目指して猛勉強しているので、妨げにならないようにしてほしいからということだった。
初枝は、言った。
「お前のお母さんが亡くなる前に、私は約束したんだよ。清は、私の手で立派に育てて見せます。そして、きちんとした相手と娶せるようにしますから、安心してくださいってね」
清さんが俯いたまま黙っていると、さらに言い添える。
「だから、女学校を卒業したら、お前も花嫁修業をするんだよ。お前が嫁ぐ時は、私たちが立派な嫁入り支度をしてあげるから、何も心配は要らない。
ああ、でもそれも、遠くない先のことなんだね。それを考えると、私も寂しくてたまらないよ」
清さんは仕方なく、
「これまでも一方ならぬお世話になっておりますのに、そこまでお心遣いいただいて、何とお礼を申し上げたらいいのか……。本当に有難うございます」
と、深々と頭を下げるしかなかったという。
ああ、私は体よく追い出されるのだなと、清さんは思った。
遠縁とはいえ、私は没落した士族の家系。そのうえ、母はこの家でお手伝いさんみたいなことをしていた。しょせん、安太郎さんとは身分違いなのだ。そのうえ、父母とも死に別れてしまい、寄る辺のない身。感謝しこそすれ、恨んだりしてはいけないのだ。
その後、清さんは、なるべく安太郎とは顔を合わせないように気を付けた。
安太郎のほうでも、同様に言い含められているのであろう。食事の時を除いて、二人が出くわすことはほとんどなかった。
たまに出逢うことがあっても、少し言葉を交わす程度で、妙に態度がよそよそしかったし、それどころかぷいと顔を背けて、すれ違うようなことさえもあったのである。
ひどい、と思った。安太郎の親を恨むことはできないけれども、彼のことは恨めしいと思った。そして、その時になって初めて、安太郎がいかに大切な存在であったのかということに、改めて気付かされたのだった。
そうこうするうちに、清さんもとうとう女学校を卒業した。
すると、それを待ちかねたように、安太郎の親がどこからか縁談を受けてきた。相手は、役場の吏員だという。