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これまでのあらすじ(3)

 それを聞いた時は、誇張表現であろうという程度にしか受け止めていなかった。つまり、一途に私淑する人のために尽くしていきたいという気持ちが思い余って、つい上滑りしてしまったとでも言おうか……。まさかそんなことを片桐が本当にやる、あるいはやっているとまでは、おれには考えられなかったのである。


 中野は国会議員を辞職したが、二大政党制を実現するために政治活動は続けるとして、事務所も畳まず秘書も相当数残していた。しかし、政治資金規正法違反を犯した矢部とともに片桐をもクビにした。


 彼を守るためだの、泣いて馬謖を斬るだの、もっともらしい理屈をつけていたが、要するに、ていのいいトカゲの尻尾切りではなかったのか。将来、政界に返り咲くためにも、奴のような危険な男をそばに置いておいてはいけないと。


 そう考えているうちに、おれは突然思い出した。子どもの時分に爺ちゃんから聞かされていた〈竜尾身りゅうびしん〉という妖怪のことを。


 主人や上司に散々尽くしてきたのもかかわらず、最後は切り捨てられてしまうような人間が、歴史的にも、また現在社会においても大勢いる。そういう人間たちの恨みが集積し妖怪と変じたものが、竜尾身である。ひょっとして、片桐はその妖怪に取り憑かれてしまった、あるいは妖怪そのものかもしれない──。


 そんなことを川辺たちと話していた時に、寅さんから電話があった。彼には、顔を知られているおれの代わりに〈ホテル・キューミノン〉に宿泊したうえで、片桐らしい男が現れないか、それとなく様子を調べるよう頼んでいたのである。


 ところが、あいにく部屋は全て塞がっていたという。不思議なことに、もう夜の七時を回っているもかかわらず、最上階以外はほとんどの部屋で明かりがついていないとのことであった。


 これはまさに今、闇カジノを開いているということを示しているのではないか。つまり、それが露見しないように一般の人間をシャットアウトしているのだ。しかも寅さんの話では、高名なヤメ検弁護士や大物歌手を偶然見かけたというのである。


 松尾はそれを聞くと、スクープを取るために直ちにそのホテルに向かった。おれは彼の行動力を羨むと同時に、何もできない無力な自分を呪うのであった。


 だからといって一緒についていくわけにもいかない。そのまま〈ヴィクターズ〉で川辺と一緒に松尾からの連絡を待つことにした。すると、思いがけず中野十一が秘書を伴って店にやってきた。なぜこちらの居場所が分かったかと言うと、おれのスマホに盗聴アプリを仕掛けたうえで皆の会話を全て聞いていたからであった。


 娘の失踪に関しておれを疑ってのことであったが、そこまでやったことで逆にその疑いが晴れることになった。そんな彼から、次のような驚くべき話がもたらされる。


 〈十一人衆〉という謎の組織がある。そのことは政治家や財界人、警察関係者、さらには暴力団など、一部の人間たちの間だけでまことしやかに語られてきたことであった。しかし、その存在が実際に確認されたことはなく、長い間都市伝説のように伝えられてきただけである。


 時代はかなり遡るが、室町から戦国時代にかけて会合衆と呼ばれる自治組織があった。一時は戦国大名に抵抗するほどの勢力を持っていたが、やがて信長に服従する。そして秀吉の命により利休が切腹させられた後は、ほぼ壊滅状態となった。


 ところが、密かに組織を継承する人間たちがいた。彼らが大いに恨みに思ったことは、散々利用された挙げ句に、最後は用済みとばかりに切り捨てられてしまったことである。


 特に許せないのは、たかが秀吉ごときやからによって、利休のような一流の文化人かつ有徳の士が殺されてしまったことである。


 それならば信長や秀吉の命に従わなければよかったのか? いや、それは不可能だっただろう。ではどうすればよかったのか?


 答えは面従腹背である。表では権力者のほしいままにさせているように見せかけながら、裏ではしっかり金と力を蓄え、その影の力で自分たちの都合のいいまつりごとをやらせればいいのだ。


 こうして彼らは地下に潜って脈々と存在し続け、最終的に〈十一人衆〉という形に落ち着き、今に至っているのである。


 カジノを完全合法化しようとする謎の組織こそ、この〈十一人衆〉ではないか。中野は、そう狙いをつけたのである。


 しかも、片桐の口走っていたことは、この〈十一人衆〉のおきてと完全に一致する。


 つまり、裏切者は間違いなく殺されるが、その前に当人が一番愛しているものが始末される。それも簡単には行わない。当人を散々じらし、いたぶり、最後に当人の目の前で残虐なやり方で殺すというのである。


 京子が危ない!

この作品はフィクションであり、実際にあった事件若しくは実在する人物又は団体等とはいっさい関係がありません。

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