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これまでのあらすじ(2)

 実を言うと、京子と別れたのは二度目になる。一度目はおれのほうから切り出したのだが、それがまた不思議な巡り合わせと言うか、あのあばら屋が縁となって彼女と再会したのであった。


 近所に〈こんにゃく様〉と呼ばれている神社がある。正式な名称を印鑰いんにゃく神社といって、宮司は登世とよさんというお婆さんだ。


 登世さんによると、印鑰神社には次のような言い伝えがある。今はこの宮も地域もわらわんわらわの呪いによりすっかりさびれてしまってはいるが、いつの日か見目麗しき乙女が現れ、宮を再興するとともに、この地域も繁栄に導くことになっている。その人こそ、誰あろう京子だというのである。


 さて、話を本筋に戻さなければならない。間の悪いことに、たまたまあのあばら家に元々あった階段箪笥から京子の靴下が出てきたものだから、中野はますます疑いを強めてしまった。


 しかし京子が見つかるはずもないし、ましてや死体なんぞ出てくるわけがない。中野はいったん引き上げたものの、決しておれに対する疑いを晴らしたわけではなかった。


 おれはその後京子の行先を探り出すために、〈ヴィクターズ〉で川辺一谷かわべいっこくと会うことにした。彼はおれが昔勤めていた新聞社の主筆であるが、あの中野十一とは互いにジャーナリスト対政治家として丁々発止渡り合ってきた仲であり、中野については本人自身よりも色々なことを知っているような間柄であった。


 そこに藁をもすがるような思いで望みを託したのである。おれはある因縁があって、中野の元秘書である片桐勇司という男を怪しいと睨んでいた。しかし彼の仕業と断定するには根拠が乏し過ぎる。それで川辺から話を聞くことで何らかの手がかりが掴めないか、その僅かな可能性に賭けたのであった。


 川辺には咎められてしまったが、藁というのは、その僅かな可能性のことを指しているのであって、決して彼のことを指しているのではなかった。


 ところが、思いがけず大きな収獲があった。川辺は、自らが立ち上げた『週刊風聞春秋』の記者である松尾憲治という男を連れてきていた。彼は個人的に中野十一と言う政治家に興味を覚え、周辺を調べていくうちに秘書の片桐に不審を抱く。そしてたどり着いたのが、あるホテルで闇カジノを取り仕切り、将来的にはカジノの全てを合法化しようと目論んでいる謎の組織だった。


 どうやらそれに片桐が関係しているらしい。何よりも決定的なことは、そのホテルのカジノ兼社交場に片桐が一人の美女を伴って出没するということだった。おれは、すぐに直感した。京子だ──。しかも、クスリか何かやられたみたいにヘラヘラ笑っているだけだというのである。


 松尾はその情報を、ある高級クラブのホステスから得たのであった。例のホテルの社長が、愛人であるそのホステスに寝物語でいろいろと喋っているのだ。


 おれはつい勢い込んで、そのホステスに直に接触させてくれるよう松尾に頼んだが、その女は死んだという冷淡な返事が返ってきただけであった。


 実は、例の闇カジノが開帳されているのは〈ホテル・キューミノン〉といって、奇しくも昔おれが片桐から呼び出された場所だったのである。奴はロビーの椅子に深々と座ったまま、おれの面前に傲然とコンニャク(百万円の札束が入った封筒)を投げてよこした。そいつを見返りに京子と別れろという。中野十一の指示であった。


 おれはもちろん断ったが、その後も片桐は脅しや暴力まで用いて執拗におれを屈服させようとしてきた。ところがおれは、意気地なしのくせに偏屈ときている。そんなことをされればされるほど、ますますへそを曲げてしまうのだ。したがって最初に京子と別れたのは、あくまでもおれ自身の意志であって、決して彼らに屈したからではないと思っている。


 片桐はほかにもいろいろやばいことをやっているらしい。秘書の中で奴が主に担っていたのは、政界の裏工作である。と言っても、相手は政治家とは限らず、官僚や財界人等、多岐にわたっていた。


 奴はおれに言っていた。先生(中野のこと)の妨げをしたり、裏切ったりするような奴は決して許さないと。では具体的にはどうするか。そいつの一番愛しているものにまず手を掛ける。じっくりなぶるように。そして最後の最後に本人に手を下すのだと。

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