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四拾五 事情聴取

 あばら家だろうが何だろうが、おれはここの主だ。ともかく威厳は保たなければいけない。

 図柄が空っぽの掛け軸と汚い古備前が鎮座した床の間の側に、とりあえずおれが座る。その横には、(きよ)さん。


 対面には、バスローブをまとったバスガール。それに、着物と寝床を兼ねた(むしろ)姿のモンジ老。二人とも、(かしこ)まって正座している。


 まずは、二人のほうを相手に問い(ただ)そうとした。

「最初に、モンジ老さんに聞きたいと思います」

 すかさず、清さんから異議を唱えられる。

「坊ちゃん、いけません。こんな者に、敬語を使う必要はありません。」


 おれは、彼女の剣幕にたじたじとなりながらも、反駁を試みる。

「いや、でも、モンジ老さんは僕より年長だから、矢張りそれなりの敬意を払わなくっちゃ……」


「そうだ、そうだ。婆さんは黙っておれ」

「お黙り」

 清さんはモンジ老を一喝すると、不満そうにおれに向かって言った。

「あなたがそう(おっしゃ)るなら已むを得ませんが、こんな者を調子に乗らせては不可ませんよ」


「分かりました。――それではモンジ老さん、もう一度お尋ねします」

「ふん、お主がそう下手(したて)に出るんなら、協力してやらないでもない」

「何だって?」

 清さんが塩を掴む真似をすると、一瞬で首や手足を莚の中に引っ込める。


 おれは尋問を続けた。

「先日僕は、あなたにはっきりと伝えたはずです。あなたが新聞や郵便物はおろか、僕が苦心の末に書いた原稿まで食べてしまうものだから、大迷惑していると。それなのに、何故まだここに――」


 するとモンジ老は、不機嫌そうな顔だけを、莚からにょきっと覗かせながら答えた。

「それは、ここにおる小水女から頼まれたからじゃ」

 咄嗟に、バスガールがきっと睨みつける。

「その名前では、呼ばないで」


 睨まれたほうは、不思議そうに言う。

「何故じゃ? お主は水かけ女の娘だから、小水女(おみずむすめ)と呼ばれておるではないか」


 バスガールは、顔を真っ赤にしている。

「厭だから、厭なの。私は欽之助から、バスガールという立派な名前をもらったんだから。もう二度とそんな風には呼ばないで」


「ふん。どいつもこいつも――。わしは頼まれたから、わざわざここに残って仕事をしてやっただけなのに。そんなに言うなら、もう勝手にするがいい」

 モンジ老は、そう捨て台詞(ぜりふ)を履くと、勝手にまたドロンパと消えてしまった。


「おのれ。坊ちゃんを呼び捨てにするとは、何事ぞ」

 清さんが、バスガールに怒る。

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