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四百四拾七 謎の組織

「カジノそのものを合法化するって?」

 驚いて聞き返した。


「そうだよ。そうすれば、もう闇カジノではなくなる」


「馬鹿な! いとも簡単に言うが、そんなことができるのは、政府だけだぞ。いや違った。立法府である国会にしかできないことだ」


 松尾は、ヒューっと口笛を吹いた。

「いいぞ。素晴らしい間違いだ」

 拍手までする。


 こいつは、本当におれを愚弄しているのだろうか? そう思って怒り半分に黙っていると、松尾は続けた。


「発明や発見というものは、偶然の誤りからなされる。発想の転換だよ。政治や経済だってそうだ。人間の歴史はそうやって進歩してきた」


「いったい何を言いたいんだ?」


「まあ、そうカリカリしなさんなって。悪気はないんだから。つまりこういうことさ。いくら法律を犯していたって、行政がそれを放置していたら合法化されているも同然だろう?」


「行政というのは、ひょっとして警察のことを言っているのか? 考えてみると警察というのは行政に属するのか、それとも司法に属するのか、よく分からない機関ではあるが」


「どちらでも構わない。いずれにしても、カジノを容認しようという一定の勢力があって、それが警察権力のどこかに食い込んでいるとしたら?」


「まさかそんなことが……? さっきの竜尾身りゅうびしんではないが、妖怪の話よりも荒唐無稽なことだぞ」


「それが人間ってやつだ。妖怪が、いったい何人の人間を取って食った? たかがしれているじゃないか。それに比べて人間はどうなんだ。たった一発の爆弾で何十万人、何百万人もの人間を殺してやろうというんだからな」


「それはそうだが、やはり合点がいかない」

 おれはなおも食い下がった。


 闇カジノというのは、暴力団の資金源にもなっている。現に警察がガサ入れをしても、次々に場所を変えるので、なかなか摘発ができないということを聞いたことがある。それをみすみす容認するということがあろうか?


 おれはその疑問を、改めてそのままぶつけてみた。

「カジノ法案の目的は、税収を増やすことと景気浮揚を図ることなんだろう? だが一方では、治安が悪化したり、ギャンブル依存症の人が増えたりする恐れがある。だからこそ、反社会的勢力を完全に排除すると同時に、日本人だけは制限を設けたりするなど、一定の手立てを講じているんだ。にもかかわらず、闇カジノをわざと放置するんなら、全てがなし崩しじゃないか」


「なし崩しにするのさ」

 松尾は挑戦的にそう言い放った。その両眼が、再び怪しい光を放ちだした。


「……」

 あまりの言い草に言葉を失っているおれに、改めて彼から聞かされた話は、次のようなものであった。



 実はカジノそのものを合法化しようと目論もくろむ謎の組織がある。当然それは政府機関とは全く別の組織ではあるが、政府の権力機構の中のどこかに、ひそかに食い込んでいるというのだ。

 

 何よりもその組織の顕著な特色は構成員にあるという。一つ、反社会的勢力の関係者ではないこと、一つ、自らが莫大な資金力を持つこと、一つ、当代における超一流の文化人であり、かつ経済人であること、一つ、組織を絶対に裏切らないということであるらしい。


 では、なぜそんな妙な組織が政府の権力機構のどこかに食い込むことができているかというと、もちろん彼らの資金力に負うこともあるのだが、それよりも彼らのなそうとしていることが、政府の目的と一部が合致しているからである。


 闇カジノについて言えば、これを合法化することによって、暴力団の資金源を断つことができるうえに、税収も大幅に増やすこととができること。一石二鳥だ。いや、それどころではない。お金を使いたくてたまらない金持ちは、今でもたくさんいる。そこから吸収した潤沢な資金を低所得者層や高齢者など、弱者の福祉のために回すことができるのだ。


 そうやって正式に合法化した場合、その実際の運用として第一に暴力団などの反社は徹底的に排除する。第二に、イカサマが絶対にできないようIT技術などでシステム化するとともに監視カメラなども設置する。第三に入場できるのは、会社社長、機関投資家、スポーツ選手、芸能人、不労所得者等、裕福な人間に限ることとし、入場にあたっては身分証明の提示を義務付けること、第四に、カジノはあくまでも紳士淑女の上品でかつ文化的な社交場とするなど、様々な条件や制限を設けたうえで、なおかつ厳格にこれを適用するというものであった。




「もちろん、今直ぐにという話ではない」

 と松尾は言った。

「まず最初のステップとして、IRによってカジノが限定的に公認されれば、人々のカジノに対する拒否感がだんだんと薄らいでいく。そこで次のステップとして、今のうちから隠密裡に予行演習をしておこうというわけだ。まあ言ってみれば、既得権の確保ということだな。しかし、警察の手入れが入ってはまずいんで、警察権力もしっかりとおさえておかなければならない。だが言ってみれば、警察権力の側にとってみれば、願ったり叶ったりなんだ。だってそうだろう? カジノから暴力団を追放して、曲がりなりにも健全に運営することができるのは警察しかないし、ひいては警察組織の強化にもつながるんだから」


 そこまで話を聞いたものの、にわかには信じることができなかった。


 現実にそんなことがありうるだろうか。そんな大それたことを目論もくろむばかりか、実行できるような組織が本当に存在するのであろうか。しかも警察まで抑え込んでしまえるような……? 


「何だか都市伝説でも聞いているみたいだな。そんな話を君は本気にしているのか?」

この作品はフィクションであり、実際にあった事件若しくは実在する人物又は団体等とはいっさい関係がありません。

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