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四百弐拾九 へっぽこ探偵団、発足

「で、京子さんの居場所だが、何か思い当たることはあるのか?」

 寅さんが、改めて聞く。


「実は、片桐が裏で政治工作のようなことをするのに、根城にしていた所があるんです。しかし、中野さんはおそらくその場所を知りません。片桐は法律に触れるようなこともやってましたからね。

 中野さんとしては、自分に累が及ぶとまずい。だから何かあったあとで知らない振りをするよりも、初めから知らないほうがいいわけです。大まかな指示だけをして、あとは全て奴に任せる。自分は、その成果だけ得られればいい。それが中野十一という政治家のやり方なんです」


「それでその根城にしていた場所というのは、どこなんだ? すぐに乗り込んで──」

 タツユキさんが、ギリリと鉢巻を締める。


「待ってください。へたに動いて相手が察知でもしたら、直ぐに京子に手をかけてしまうかもしれない。手を下さないまでも、別の場所に移す可能性だってあります。そうなったら、永久に彼女の居所が分からなくなってしまう」


「じゃあ、どうすればいいんだ。そんなに悠長に構えていていいのか?」


「もちろん余裕はありません。行方が分からなくなって、一週間も経ってますからね。しかし、だからと言って、拙速は禁物です。取りあえず、片桐がそこに出入りしているのか、まずそれを確かめてみましょう」


 おれはそう言うと、例のホテルの名前と場所を皆に告げた。

「僕は奴に顔を知られているので、動けません。だから、皆さんに交代でそれをお願いしたいと思います」


「しかし、俺たちはそいつの顔も知らないんだぞ。どうやって奴だと分かるんだ?」

 タツユキさんが言う。


「せめて写真でもあればいいのだが。そうだ、中野さんなら持ってるんじゃないのか?」

 寅さんが言う。


「いや、それには及びません。奴には特徴があるから、簡単に見分けがつきます」


「ほお、どんなだ?」


「まず、僕よりは背が高いです」


「そんな奴ならいくらでも居るぞ。ここに居るタツだって。なあ、タツ──」


「そうとも。それだけで見分けがつくはずがない」


「まあ、待ってください。奴は、いつでもスーツをきちっと着てます。夏もそうです」


「何だと、このくそ暑い時期でもか?」

 タツユキさんが目を剥く。

「俺はあんなもの、冬だって暑苦しくって嫌だのに。──よし分かった」


「バカ、いくらクールビズと言ったって、やはりスーツを着る人は着るんだよ。特に営業職の人なんかは、仕方ないんだ。ホテルなら尚更だろう。そんなもので分かるもんか」

 寅さんが、即座にダメ出しをする。


「もちろんですよ。まだあります。奴は筋肉質です。外からでも、はっきりと分かりますから。まるでスーツの下に鋼鉄の鎧をまとっているような感じです」


「ブルース・リーのような奴だな。目つきも鋭いんだろう」

 と、タツユキさん。


「はい。顔も浅黒く、精悍な感じです」


「年の頃は?」


「四十代だと思います」


「よし、分かった。俺が早速──」


「いや、それでも情報不足だ。まだ、何か特徴的なことはないのか?」

 寅さんは結構、慎重である。


「うーん……」

 おれは考える。

「あっ、そうだ。一番肝心なことを言ってなかった。奴は艶のある長い髪をオールバックにしているんです。まるで、由比正雪みたいに」


「よし、それで十分だ。おい、タツ──」


合点承知之助がってんしょうちのすけ!」

 また鉢巻をギリリと締めると、直ぐにでもそこを飛び出そうとした。さすがは、昭和のおいさんだ。


「駄目だよ、タチュユキ──」

 早苗さんが、すかさず止める。

「格式の高そうなホテルだから、そんな服装じゃ、怪しまれるだけだからね。でもあなた、一張羅のスーツを破ってしまったというのに、そのまんま放置してるじゃないの。ほら、この前のクラス会で飲み過ぎて」


「あっ」


「私が怒ったら、あなた逆ギレして言い返してきたじゃない。いいんだ、あれはもう要らない。息子の八十八やそはちが結婚するまでは、もう絶対にスーツなんか作らないからなって。すっかり居直っちゃってさ」


「うっ」

 二の句が継げないまま、頭に巻いたタオルを取って、汗を吹き出した。


「ああ、いいよ。俺が行くから」

 寅さんが見かねて助け舟を出す。それから、急に思いついたように妻を振り返って言った。

「美登里、一緒にどうだ? 二人でホテルに泊まるなんて、しばらくなかったからな。九州を旅行して以来じゃないか?」


「本当だね。ホテルと言えば、ほら、あの湯平ゆのひら温泉の旅館、素敵だったなあ。ちょっとひなびた感じで」


「ああ、あそこか。ジュリーと田中裕子が出逢った所だったよな」


「そうそう。──違う、三郎と蛍子だよ」


 二人で盛り上がっていたが、そのうち美登里さんがハッと気づいたように登世とよさんのほうを見て、顔を赤らめた。

「でも、お義母かあさんを一人にするわけには……」

この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とはいっさい関係がありません。

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