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四百拾壱 もしも、江戸時代が民主制だったら

 チョウナンカイは河原記者に向かって、笑顔でグッジョブのポーズを取ってみせたが、当然、彼女を含めて会場内の誰にも見えていないようである。


「参ったな」

 中野十一は、マイクを再び手にとって言った。

「うちの娘に限らず、女というものは情け容赦というものを知らないからなあ。おっと、これはセクハラになるか。危ない、危ない。今言ったことは取り消しだ。


 さて、一つめの質問に対する答えだが、私はLGBTだけでなく、Q+も加えた。性というものは、それほど多様性に富んでいて、よく分からない面もあるらしい。もともと性的少数者に配慮するための言葉のようだが、言葉というものは、一人歩きするからね。悪くすると、かえってそれが新たな差別を生むことだってある。もちろん、私にそんな意識はないし、政治利用する意図も全くない。


 彼らに限らず、どこに居ようが、何に所属していようが、そこに必ず居づらさや息苦しさを感じている人たちはいる。自分のせいではないのに、社会の枠組みから外れてしまって苦しんでいる人たちも大勢いる。そういう人たちの声なき声を聞くのが、私の政治信条でもあるし、またそういう人たちこそ自ら声を上げてほしいと望んでいるんだ。なぜなら、少数者だからこそ斬新で素晴らしい発想を持っているかもしれないし、難しい局面を打開できるような力を持っているかもしれないからだ。


 二つめ。指摘していただいたことを感謝しなければならない。不注意な発言だった。しかし、これは外国人がどうということではなくて、あくまでも雇用と経済の問題なんだ。外国人労働者だって日本人と同じように、低賃金と重労働で苦しんでいる。にもかかわらず、安月給を工面して国元の家族に送金したりしているんだ。本当に頭が下がる思いだし、日本人として申し訳なく思っている。中には、本当に日本のことが好きで来てくれている人もいるし、介護現場で働く人たちなどは高く評価されているということも聞いている。そんな人たちを排斥しようなんて気持ちは、これぽっちもない。そもそも外国の文化に触れ、また外国の文明から色んなものを吸収してきたからこそ、今の日本があるんだから。


 私が特に問題視しているのは、世界の市場で勝ち抜いていくためには、とにかく安い賃金で労働者を働かせることによって安い品物を生産し、かつそれを売ってさえいればいいという安直かつ貧困な発想から抜け出せないことなんだ。そこには、労働者に対するリスペクトがまるでないし、そして何よりも世の中で本当に喜ばれるようないいモノを提供しようとしてきたモノづくり日本の矜持、技術力がいつの間にか失われてしまったことではないだろうか。


 その結果、株価は上がり、会社は儲かったかもしれないが、労働者は働きがいを失ったばかりか、賃金は下げられ、家族は崩壊してしまった。結果、将来の日本を背負って立つはずの子どもたちが貧困の中に放置されているばかりか、飢餓にさえ晒されているわけだ。こんな日本に誰がしたと言いたいが、私も一応は政治家だからね。しかも、ついこの前まで政権与党の一員だったわけだから、大いに反省しなければならないと思っている。

 

 三つめ。これがまた非常に厄介で、かつ難解な問題だ。実に悩ましい。与党も野党も、同じ政党の中で様々な意見があるし、支持者の間でも同様だ。我が国の弱みは、なんと言ってもエネルギー資源の乏しいことにある。2018年の現在いま、自給率は10パーセント前後といったところだろうか。当然、外国に依存せざるをえないが、これも食料と同じで、国際情勢でどうなるか分からない。しかも、地球温暖化で化石燃料の使用を削減しなければならないときている。


 一方では、原発はいろんなリスクを抱えている。まず、日本が地震大国であること。次に、ミサイルなどで攻撃をされる危険性。さらに、高レベル放射性廃棄物の問題だ。本当に悩ましい限りだよ。情けないが、今の私には答えがまだ見つかっていない。まさか江戸時代の生活に戻るわけにはいかないだろうし……。だが、どうなんだろう。もし巨大地震やテロ攻撃などでメルトダウンが起きたうえに、完全に制御不能となってしまったら? 或いは放射性廃棄物が溜まりにたまって、とうとう処分のしようがなくなったとしたら?


 もし本当にそんなことになったら、いやでも江戸時代の暮らしに戻すしか、道はないのではないだろうか。当然、車もパソコンもコンビニもない生活だが、放射能で死ぬよりはましだろう。だからと言って、封建制はお断りだ。やはり民主制がいいと思うが、無理かな?


 まあ余談はさておき、そんな極端なことになる前に、みんなで叡智を振り絞って答えを見つけなければなるまい。旧皮質も新皮質も、かつ右脳も左脳も全てフル稼働させてね。それで究極の正解が導き出されるかどうかはわからない。しかし少なくとも、より正しい、よりベターな答えは出せるかもしれないじゃないか。ただし、今のような政治状況下では駄目だな。ただもう強い者になびく。多数におもねる。そうやって虎の威を借る狐が幅を利かせた挙げ句に、とんでもない意見が通ってしまう危険性があるからな」

この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係がありません。

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