表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
410/514

四百八 超厄介、超難解な問題

「やれやれ、これはまた大変な難題を吹っかけられたものだ。『聞春砲』炸裂ってやつだな。おまけに君の背中には、ファットマンが取り憑いているんだからなあ」


 そう言う中野のマイクを、チョーヤッカイが背伸びをして取り上げようとしている。ところが中野が何気なくマイクを左手に持ち替えたものだから、その拍子にずっこけてしまった。チョーヤッカイはべそをかいているが、もちろん誰も気づかない。


 中野は続けた。

「核共有ってやつだな。すでにNATOでもやっている。しかも、日本と同じく世界中の嫌われ者だったドイツとイタリアにさえ配備されているんだからな。しかし、日本だけは国是として非核三原則を貫いている。実のところ、昔から国内でもそういう意見を言う者があったが、そのたびに世の中の顰蹙ひんしゅくを買ったり、更迭されたりで、議論そのものが立ち消えになってきたんだ。唯一の被爆国として、そういうことを口に出すことさえタブーとされてきたからね。


 だが、東アジアを含めて国際情勢は緊迫の度を増している。昨年の2017年、あの国は17回もミサイルを発射し、うち2発は日本の頭の上を飛んでいった。核実験も1回行っている。だから、そういう意見がまたぞろ出てきても無理はないし、私はこの際、集団的自衛権や敵基地攻撃能力も含めて、むしろ徹底的に議論すべきだと思っているぐらいだ。


 だから、今の与党、野党に限らず志のある者たちを糾合して新たな政党を作る際には、国家観や憲法改正についての考え方などをもってふるいにかけたりはしない。排除の論理は取らないということだ。政権交代を可能にするような強い野党を願う者であれば、誰でもOKだ。だが、新たな政党が無事に結成できたあかつきには、専門家だけでなく、国民の意見にもしっかり耳を傾けながら、議論に議論を重ねたうえで、一定の結論を出すつもりだ。ただし、くれぐれもいては不可いけない。これは仕損じるどころの話ではあるまい。なにしろ、日本人の生命と日本の未来がかかっているんだから。


 さて、君たちはどうせ問うんだろうね。私自身の考え方はどうなのかと。だから、あえて先に言っておこう。私個人は反対だ。製造すること、保有すること、持ち込まないことはもちろん、アメリカから借りることもね。理由は単純明快だ。あんな悲惨なことはもう二度と人類の歴史上、決して起こしては不可いんだ。そのことを、日本は唯一の被爆国として、これからも世界に訴えていくべきなんだよ。その日本が核を使用するというのか? 核共有を主張する者は答えるだろう。こちらから積極的に使うつもりはなく、抑止のために持っておくだけだ。先にち込まれたらやり返すという構えさえ見せておけば、相手だって躊躇するはずだと。

 

 だが、考えてもみてごらん。日本の小さな国なんて、ほんの数発、数十発の核爆弾で、あっという間に息の根を止められちまうんじゃないのか? それこそ一瞬で世界地図から消されてしまうわけだ。先制使用されたら、やり返すいとまさえないだろう。仮りにできたとしても、何百発、何千発も保有している大国が相手だったら、広大な国土のうちのほんの僅かな地域に被害を与えるに過ぎない。たとえそれほどの相手であろうが、破滅させてやるだけの核を日本が持つというのも非現実的だろう。だからと言って、せめて一矢いっしだけでも報いてやりたいというのは卑小な考えだし、不毛極まりない。


 日本はやはり、愚直に平和外交を貫いていくべきだし、核兵器不拡散条約にとどまるだけではなく、最終的には核兵器禁止条約にも加盟すべきだと、私は思っている。被爆国として当たり前のことじゃないか。しかし問題は、アメリカの核の傘に守られていることだ。大きな矛盾が生じるからね。では、日米安保を廃棄すればいいのか? それでアメリカ軍がさっさと引き上げてしまったら、日本は丸裸も同然ではないか。


 いや、安保を廃棄するまでもない。傘をたたんでもらうだけでいい。今や通常兵器も相当進歩しているから、それだけで十分に抑止たりえるという考え方もある。いったいどれが正解なのか? いろいろ考えると実に悩ましいし、ますます分からなくなるんだ。たった今自分で主張したことが、ずぶずぶになってしまう。そして、段々と暗い気持ちに陥ってしまうんだ。いっそのこと、みんな滅んじまえと。さっき誰かが言った情動ではないが、人間はみなタナトスと言うのか、死への情動を抑えきれず、破滅へとむかってしまうのかと。本当に厄介で難解な問題だよ。だからこそ何度も言うように、ムードや勢いで簡単に答えを出しては不可いんだ。

この作品はフィクションであり、実在する人物、団体とはいっさい関係がありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ