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丗九 坊ちゃん、先生となる

 それじゃあ、(きよ)さんは優に百二十歳を超えているのか?

 まあ、メイド服を着て御主人様とお呼びしましょうか、などと年に似合わぬ冗談を言う位だから、そんな途方もないことだって平気で言いかねない。


 おれはもうこのことについて、それ以上掘り下げないことにした。


 それからは特に何の事件も起きなかった。

 清さんは家事をてきぱきとこなすだけでなく、どこから材料を調達してきたものか、障子も襖もさっさと張り替えてくれた。


 こうなると、畳もそのままと言うわけにはいかないので、とうとう畳職人に来てもらった。予定外の出費だったが、まあ何とかなるだろう。


 前にも書いたが、清さんはおれに給仕はしてくれても、当人が食べるのを、おれは見たことがない。一緒に食べましょうと勧めても、いや、奉公人が一緒に食べるのは良くないと、頑として応じない。


 当初は心配もしたが、清さんが来てから逆に食費がかからなくなった。どうやら米も野菜も、どこからかもらってきているようである。


 ある日玄関のほうで、「頼む。頼む」と言う声がするので、やつめまた来たかと行ってみたら、清さんがすでに紅葉豆腐(もみじどうふ)を買おうとしている。


「幾らかね?」

 と清さんが尋ねると、

「一丁で、五十文」

 と答える。


 おいおい、そんな金どうやって払ったらいいんだいと思っていたら、前掛けから財布を出してちゃんと払っている。


 清さんの活躍は、そればかりではない。庭が広くて勿体ないので、畑にしましょうと言って、これもどこから調達してきたのか、古い鍬やスコップで勝手に耕している。実に達者なものだ。


 おれが縁側から眺めていると、少し怖い顔をして、もうニンニクなどは決して植えてはいけませんよ、などと言う。

 そう言えば、乱れ髪はどうなったのだろう。


 乱れ髪以外のあやかしたちは、相変わらずである。

 豆腐小僧も雨戸荒らしもやってくる。バスガールも、勝手にジャブジャブお湯を使っている。

 影法師もお構いなしに家の中をうろつく。

 以前はおれの様子をじっとうかがっていたが、最近では清さんのことばかり、物陰からそっと見ている。


 清さんはこんな家で質素な暮らしをしながらも、至極満足の様子である。

 おれは相変わらず小説を更新することもなく、投稿サイトへのアクセス数ばかり気にしながら暮らしている。


 ある日、いつものように昼間から座敷でゴロゴロしていると、縁側に何かをどさりと置く音がする。

 見ると、ナスやトマトやキュウリなどがどっさりと山積みになっており、そばにはヤンマーが腰かけている。


「先生、相変わらずだね」

 何、先生だと――? こいつまた、何かの嫌味でもわざわざ言いに来たのだろうか。


 おれがむくりと起き上がると、両手で制するように慌てて言った。

「おいおい、この前のようなことはもう無しだぜ。俺はあんたにちゃんと謝りにきたんだからな」

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