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参百九拾四 有識者会議のあり方を考える有識者会議

 これについては、昨年設置された、ある有識者会議の顚末について記しておかねばならない。


 一口に有識者会議と言っても無数にあるのだが、どれも初めから結論ありきではないかとの指摘、或いはその結論にしても、国民一般の感覚からずれているのに、なぜ一部の人間の意見だけを参考にするのかというような批判が、従来からあった。


 そこで政府もやむなく、『有識者会議のあり方を考える有識者会議』なるものを設置したのだが、結局、有識者会議は適切に運営されており、人選の仕方も問題なしとの諮問が出されて終わりだった。


 これには週刊『風聞春秋』が、「国民ドッチラケ」というタイトルで報じたぐらいで、どこのマスメディアも馬鹿らしくなって、それ以上追及する気力を失ってしまったようだった。


 ところが、前年11月の特別国会において野党の民民党が、次のことをすっぱ抜いた。この『有識者会議のあり方を考える有識者会議』の最終日に、有識者たちに食事が振る舞われた。それがのり弁だったということまではいいのだが、一食当たり五千円であったというのである。


 この時の政府の回答は、のり弁はのり弁でも、高級ホテルが高級食材を使って作ったものだから妥当な金額と考えている、というものであった。


 それなら領収証を出せと野党はこぞって要求したが、そこで会期切れとなってしまった。


 当然マスメディアを初め、世間は大騒ぎとなる。その後、今年2月の通常国会において、やっと政府から出された回答は、領収証は廃棄したというものであった。


 廃棄の理由は、書庫の管理が杜撰ずさんで、鼠に食われたり、糞をされたりしたためという。それで担当者を厳しく処分したとのことであった。


 本当は、千円程度のものを五千円に改竄したのではないかと、更に野党は追及するが、政府の答弁はそれ以上変わらなかった。


 これで国会は大いに紛糾したのであるが、しょせんはバラバラな弱小野党ばかり。鼠が猫に立ち向かうようなもので、到底歯が立つものではない。


 与党の慈民党や幸民党内でもごく一部から異論が出たが、一強他弱の中で、その声もかき消されてしまう。それどこれか、後から弓を引くのかと悪口をいわれる始末。


 その後しばらくゴタゴタが続いたが、3月に世間をあっと言わせることが起きた。


 あろうことか、それまで沈黙を守っていた五階堂幹事長が突然、このままでは民主主義が崩壊してしまうと発言するとともに、その職を辞し、自らの派閥の連中を引き連れて、慈民党を飛び出したのである。


 これについては、慈民党員のみならず、マスメディアからも集中砲火を浴びることになる。


 首相寄りの新聞記者の中には、直接意地悪な質問を矢継ぎ早に投げかける者もあった。

「あなたは、本当はこの前の総裁選に出たかったと聞いている。しかし、数の力が足りないばかりか、あなた自身の人望がないばかりに出られなかった。だからって、そんなことをするのは意趣返しみたいなものじゃないのか? 実に陰険だ。失礼ながら、いささか政治家としての器に欠けるのでは? 日本は今、危急存亡のときにあると言ってもいい。プラトンやチンプー、或いはピーチンといった強力な指導者と渡り合えるのは、今の首相をおいてほかにはいない。その首相を一丸として支え、国を守っていくのが政治家の使命というものではないのか?」


 ところが五階堂は怒ることもなく、にやりと笑って言った。

「長いもの、巻かれるよりは巻いちまえだ」


 それから、背丈のわりに太った体を窮屈そうに折り曲げながら車の後部座席に乗り込んだ。しかし、車が発進する前に一度窓を開けて言う。

「そうそう。今度記者会見を開くからね、その時には、またいろいろ質問してくれたまえ」


 記者連中は唖然として彼を見送った。彼は確かに実力者ではあるが、どちらかと言うとちょこまかと動き回るタイプであり、あまり大人物のような風格はない。


 それが何だろう。たった今彼が見せた、あのどっしりと自信に満ちた態度は?


 その後、五階堂は精力的に動く。まず、新しい政党を立ち上げた。


「政党名は、『虹』とする」

 記者会見で、五階堂はそう発表した。

「分断された人と人とをつなぐ。政党と政党とをつなぐ。それが我々の役割だ。しかし懸け橋の役割を終えたら、この虹も消える。我々の究極の目的は、あくまでも二大政党の一方の翼を担えるような強い政党を作りたいということにあるからね」


 すると、集まっていた記者の間から私語が漏れてきた。


「何だか、同じような夢を繰り返し見ているみたいだ」

「悪夢だな」

「デジャブだ」


「烏合の衆」

「呉越同舟だ」

「同床異夢だよ」


「虹の彼方には何があるんだろう」

「何もないさ」

「何もないどころか、恐ろしい世界だよ。一旦そこに足を踏み入れたら、二度と戻れないんだ」

この作品はフィクションであり、実在の人物、団体とはいっさい関係がありません。

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