参百六拾九 はた迷惑な応援団
「何でしょうか?」
「だって、ほら。今日はクリスマスイブじゃない。ご馳走を作ったから二人で食べてね」
そう言って、また笑った。
「あ、はい。ありがとうございます」
「それと……」
そう言って後ろを振り返る。つられて見ると、寅さんが軽トラの脇でうろうろしていた。おれの視線に気づくと、満面の笑顔で手招きをする。
寅さん――。
おれは美登里さんからもらったご馳走を上がり框の辺りに置くと、すぐにサンダルを履いて駆け寄った。
これでやっと仲直りができる。そう思ったら、向こうは何事もなかったような顔で、囁くように聞いてきた。
「おい、どうなってるんだ?」
「何がですか?」
こちらもついヒソヒソ声になる。
「何がですかって、彼女とだよ。俺が明るい将来の設計図を描けるかどうかは、ひとえにお前と京子さんの仲にかかっているんだからな」
「どうもなってませんよ」
おれはむくれたように答える。
「どうかしちまえよ。結果次第では、仲直りしてやる」
「それとこれとは別です」
「じゃあ、頼んだぞ」
人の言ったことを全く聞いてないかのようにそう言うと、今度は自分の妻を手招きで呼んだ。
「邪魔しちゃあ悪いから、今日はこの辺で帰るとしようか」
相変わらず声をひそめて言う。
すると軽トラがもう一台、庭に入って来た。今度は竜之さん夫婦である。二人が降り立つと、寅さんは竜之さんに近付いていった。わざとのように肩をぶつけて言う。
「よお。俺のほうが先だったな」
「お生憎さまだったな」
こっちは、頭に巻いたタオルをきりりと引き絞ると、寅さんを見下ろしながら言った。
「京子さんは、先に俺のほうがコーヒーをご馳走したんだ」
「ところがだな」
寅さんも負けずに農協の帽子をかぶり直す。
「京子さんはその前にうちの家に来てたんだよ。うちのお袋に用があってな。何でも、例の人形の入魂式をしてやるってんでな」
「何だと、こいつめ。いいか、トラ。俺はなあ、京子さんと小作契約を結んだんだ。どうだ、参ったか」
「ふん」
「二人ともいい加減にしなさいよ」
美登里さんと早苗さんが同時に言った。
寅さんは美登里さんと一緒にすごすごと軽トラに乗り込むと、じゃあなと手を振って帰っていった。
「はい、これ」
早苗さんもバスケットを差し出す。
「あのー、これは?」
「今朝から、腕によりをかけて作ってたのよ。素敵なクリスマスになるといいわね」
「は、はい。ありがとうございます」
「おい、欽之助」
と竜之さんが言う。
「あんな奴に何を吹き込まれたか知らないが、まともに相手なんかすんじゃねえぞ。ろくなことはねえからな。なにしろお前は、うちの有力な養子候補なんだから気を付けるがいい」
「ハイハイ」
「ハイは、一度でいい」
「アンタ、帰るわよ」
「ハイハイ」
竜之さんは、早苗さんに耳を引っ張られるようにしながら、いいか欽之助、押し倒せなどと言っている。
何だ、自分のほうこそ押し倒されたくせにと思って見ていると、とうとう軽トラに放り込まれて帰っていった。
ところが、そのすぐ擦れ違いのように、新たな軽トラが入ってきた。やれやれ、うちは農機具の展示販売場じゃないんだからな。そう思いながら見ていると、助手席から米さんが降りてきた。しばらくして運転席のドアが開き、仏頂面のヤンマーが顔を覗かせる。




