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廿九 欽之助、さらにとどめを刺される

「ほほお。怒ったのか」

 モンジ老は憶する様子も見せない。

「それならばついでに、もう少し言ってやろう。お主は、自分が書けないのを乱れ髪のせいにしておるが、本当は違うではないか」


「何だって? じゃあ、いったい何のせいだと――」

 ついそう口に出してしまったが、そのことをすぐにおれは後悔した。


「ふん、後悔しておるな。ということは、自分でもわかっておるんじゃろう。しかし、お主のような卑怯な奴には、きちんと他人が言ってやらねばいかん。ほうら、お前は人じゃないだろうなどと、またお主は考えておる。馬鹿者めが。


 何が悪戦苦闘しながら執筆した原稿だ。

 お主は本当に真剣勝負のような覚悟で、パソコンの画面に向かっておるのか?

 のたうち回る位に苦しい文章修行をやっておるのか?

 鶴が自分の羽を抜いてはたを織るように、それこそ自分の命を削るようにして文章を紡ぎだそうとしておるのか? 


 いな々――。

 たしかに、お主はパソコンの前でのたうち回っておるが、それはいい小説を書こうという産みの苦しみからではない。自分の作品への訪問者があまりにも少ないからだ。現にお前は、何らキーボードを叩きもせずに、三十分おきにKASASAGIのアクセス解析を眺めては、溜息をついておるばかりではないか」




 図星だった……。

 おれはガタンと音を立てて椅子に崩れ落ちた。

 テーブルの上で頭を抱え込む。

 チクショウ、なんでこんなやつに、ここまで追い込まれなければいけないのか。


「ふん、またこんなやつと来たか。全くどうしようもないやつよ」


 すると、これまで黙っていたバスガールの声が聞こえた。

「モンジ老さん、あんまりだわ。いくら何でもそこまで言わなくたって――」

 まさか、彼女がおれの弁護をしてくれるとは。

 おれは少し嬉しくなって顔を上げた。


「いや、こんなやつは、この機会に徹底的に叩きのめさなければいかん」

 言下に言う。

「何が隠遁生活じゃ。お主は世の中に未練たらたらではないか。幾ら、無だ、くうだと念じてみたところで、お前の心の中は煩悩の塊だ。食欲、睡眠欲、立身欲。それに性欲――。何じゃ、お主のその彼女を見る厭らしい目付きは」


 おれはただ漫然とバスガールのほうを見ていただけだった。

 いや、その筈だった。その筈だ……。

 然し、老人のその言葉を聞いた途端、彼女はキャッと悲鳴を上げて、バスローブの上から両手で胸を覆った。

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