表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/514

廿七 欽之助、バスガールを泣かせる

「いいかい? 僕は決して君のことが嫌いで、こんなことを言う訳じゃないんだ」

 見る見るうちに潤んできた瞳にたじろぎながら、(なだ)めるように言う。

「ただ、さっきみたいに僕が真面目に頼んでいるのに、それを茶化すみたいな真似をされると、僕だって人間だ――」


「僕だって人間だって、やっぱり私のことを化け物扱いしている」

「いや、そうじゃなく」

「いや、絶対そう。この間だって、私のことを立派な化け物だろうって――」

 バスガールの目からとうとう涙が溢れ出てきた。

 バスローブ姿で涙の溢れ出てる様は、まるで涙のアフロディテか。


 これには参った。

 コイブミの言う、自分の意志や感情を、言葉を介さずに他者に伝えることができる能力って、かえって邪魔なだけじゃないだろうか。いや待てよ。ひょっとしてこの能力は、自分で制御できるものなんだろうか。いや是非ともそうならなければ、まともな人生が送れない。


 おれは慌てて言った。

「それは全く僕が悪かった。取り消すよ。そして考えを改める。君のことを、実は可愛い子だと思っている。本当だよ」

 そう言いながら、自分で赤面してしまった。


 なんという歯の浮くような台詞(セリフ)を、おれは言っているんだろう。ああ、気持ちが悪い。全くおれらしくもない。これもこいつが言わせているんだ。おれはすっかりこいつの策略にはまってしまったのか……。


 ん? ちょっと待てよ。ひょっとして今そう考えたのも伝わってしまった?



「それに、さっきのあれはひどい。私のことをそのうち人喰いになるだなんて、あんまりだわ」

 しきりに涙を拭っていたが、そのうちタオルに顔を埋めてしまった。


 この様子だと、さっきのは伝わっていなかったようだ。制御できているのか?

「ごめん、このとおり謝る。そんなこと金輪際、大地の果てまで、いや宇宙の最果てまで思ってもいないから。この家にも君が居たいだけ居ていい。いや居てほしいんだ」

「本当?」

 タオルから顔を上げて訊く。

「うん、本当だ」

「本当に本当?」

「本当に本当だとも」


 ああ、こんなやりとりをしているおれって、なんて気持ち悪いんだろう。虫酸(むしず)が走る。背中がぞくぞくする。チクショー、気持ち悪ーい。

 でもそう思っているおれの気持ちは、どうやら彼女には伝わっていないようだ。

 どうやら制御できているのか?


 バスガールは、奇麗な白い歯を見せてにっこりと笑った。こうして見ると、目鼻立ちのすっきりした顔に、清潔そうなショートカットヘアがよく似合っていて、本当に可愛いのかもしれない。


「じゃあ、分かった。モンジ老さんを呼んであげる」

 彼女はそう言うと机の上で両手を組み、何やら呪文のようなものを唱え始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ