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廿壱 欽之助、霊界通信使に教えられる

「まだお気付きにならないんですか?」

 コイブミが即座に言った。

「あなたには、ある能力が備わっています」


「僕にですか? それは一体……?」

 そう言いながら、あの時のイソベンの言葉を、おれは思い出していた。 

 あいつは、たしかこう言ったっけ。

 このおれが特殊な能力を持っていて、それは何かを引き寄せる能力だということを。


 そのことに関しては、前にも書いたことであるが、おれ自身は漠然とこう考えていた。

 おれには子供の時分からあやかしどもが見えていた。

 その原因の一つとしては、家業が骨董商であったこともあって、色々いわくつきの我楽多(がらくた)どもに囲まれながら育ったこと。

 それからもう一つは、祖父の雲吉の資質を多分に引き継いでいたということである。


 イソベンに指摘された、何かを引き寄せる能力というのは、子供の時分からあやかしどもが見えていたことを指すのだろう位にしか考えていなかった。ところが、豆腐小僧に言われたように、東京に来てからは幸いにも見えなくなる。


 大学では好きな文学にも専念できたし、同好の士も沢山できた。そして何よりも、中野京子と言う恋人ができたことである。この大学での四年間とその後失恋するまでの三年間が、おれの人生で最も安らぎに満ちた幸福な時間であったと言えるだろう。

 

 それが一変したのが、失恋を機にこのあばら家に住むようになってからである。あの乱れ髪を筆頭に続々とあやかしどもが姿を現すようになる。


 化野(あだしの)の言うように、この家がおれを待っていたのか、それともイソベンの言うように、自分でこの家を引き寄せてしまったのか。

 おれがこの家に来たことでこの家の力が増したのか、それともおれの潜在能力が高まったのか、もうおれにはさっぱり訳が分からくなってきた。



 そこまで考えを浮遊させていると、ゴッホゴッホという咳払いが聞こえたので、おれはハッと我に返った。

 コイブミが、じっとこちらを見ている。

「私の言った能力とは、今あなたのお考えになっていることとは違いますよ」


 おれは黙って相手が次に何を言うか待つほかなかった。

 コイブミは続けた。

「あなたは、御自分の意志や感情を、言葉を介さずに他者に伝えることができているじゃありませんか」


 愕然とした。

 自分の意志や感情を、言葉を介さずに他者に伝えることができているって?

 そんなことは今まで考えたこともなかった。道理で化野やイソベン、それに今、眼の前にいる男までもが、まるでおれの心の中を読み取っているかのように言葉を交わせたわけだ。


 すかさずコイブミが言う。

「読み取っているわけではありませんよ。これは紛れもなくあなた自身の能力なんですから」


 おれはせっかちで癇癪(かんしゃく)持ちで、直情径行型ちょくじょうけいこうがたの人間である。だから自分の思っていることが、すぐ顔色や態度に出てしまうのではないだろうか。


「アハハ。なるほど」

 と、相手は笑った。

「それもあなたの能力と言えば能力かもしれませんね。しかし、あなたは間違いなく言葉以上の何か強い力を発しているのです」

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