拾八 永遠なるもの
いったい何が悲しくてそんな仕事を始めたんだろう。
ぼんやりそう思っていると、それが通じたように、また喋り始めた。
「ノルマ一万枚。一万枚。これ良くないです。良くない。ボーナスみんな無くなっちまう。だから私、一万枚の年賀状持ったまま、自爆しました。自爆ね。そしたら、この仕事をスカウトされたんです。このほうが私に合っている。合ってますね。何てったってみんながお屠蘇を飲んでいる時に、仕事をしなくていいですから。どうかすると百年に1通配るだけでもいいです」
述べつ幕無しに口を動かす。口を動かすたびに長い顎鬚が上下する。唾が飛んでこないか、その間中、ひやひやしていた。
おれはこいつに、コイブミというあだ名を付けてやった。
コイブミの長口上は、まだまだ続く。
「年賀状今度会おうと半世紀。毎年毎年、今度会おうの文字だけ手書きの文字。それで五十年経ちます。でも、五十年も会わなかったら人間死んじゃいます。ええ死にますとも。絶対に死ぬ。とうとう会わないまま死んじゃいます。人間は永遠じゃない。恋は儚いが、愛は永遠。あなた分かります? 分かりますか?」
この男は、どうしてこうもおれの心がズキズキするようなことばかり、次から次に繰り出すのだろうか。
そんなおれの胸の内を知ってか知らずか、児井は続けた。
「永遠じゃない人間が、永遠に存続していくものを生み出す。文字は消えるけれど、文字が表現するものは消えない。永遠です。あなた分かります? 分かりますか?」
その言葉にハッとした。
文字は消えるけれど、文字が表現するものは消えない。永遠に?
そんなことは考えたこともなかった。
もともとおれは何が書きたいんだろう。そんなものも何もなく、やみくもに頭の中に浮かんでくることを、ただ興に任せて書き連ねているだけじゃないか。そんなものは自己満足以外の何物でもない。
寝食を忘れ、命を削り、魂を打ち込み、幽鬼のようになってまで、おれは何かを生み出そうとしているだろうか。
おれには到底無理だ。もともとそんな能力も忍耐力もないんだから。
それをおれは、乱れ髪の所為にして誤魔化していたのだ。卑怯者め。
何が芥川賞を取ったら、結婚しようだ。
京子は、こんなおれではなくキンケツと結婚することになって良かったんだと、つくづく思った。
そんなおれをじっと見ながら、児井は言った。
「あのですねえ、恐らくモンジ老さん、モンジ老さんが棲みついたんじゃないですか、お宅に。モンジ老さん」
それでおれは手に持っていた郵便物を改めて見直し、初めて気づいたのだった。
そうか、バスガールの奴、モンジ老さんを召還したんだなと。
「ああ、そうそう、ところで私、今日はこれを配達しに来たんですよ。これね。いいですか? これですよ」
霊界通信使はそう言いながら、長い顎髭の間をゴソゴソ探っている。
出てきたのは、何と巻紙だった。




