拾 骨まで愛し手
ここに越してきてから、何となくこの家のパワーが増してきたような気がする。
それともおれ自身の潜在能力が、段々と形を現し始めたのだろうか――。
こんな田舎でも、市立図書館がある。
どうせ家にいても小説が書けないので、ある日出掛けてみることにした。
車を持たないので、1時間に1便しかないバスを利用するほかなかったのだが、その帰りに、小事件があった。
図書館からバス停まで歩く途中で、突然の雨に祟られてしまったのである。
天気予報でもそんなことは言ってなかったので、無論傘などは持っていない。たまたま近くにあったお寺の門の下で、雨の止むのを待っていると、不意に傘を差しかけてきたものがある。
色が白くて髪の長い、清楚な顔立ちの女だった。
心臓がドクンと波打った。
新たな恋の予感?
髪はぐっしょりと濡れていて、一筋、二筋乱れるように顔にかかっている。ぞっとするほど艶っぽい。
いや髪だけでなく、全身ずぶ濡れである。それはそうだろう、傘はほとんど骨だけの破れ傘だったから。よく見たら、傘を差し出す手までが、骨だった。
それで思い出した。子供の頃、爺ちゃんに聞いたことがある。
にわか雨のような日には、こんな女が現れる。その時は、決して邪険に扱ってはいけないということを。
それでおれは、
「折角のお心遣い痛み入ります。しかし、この雨もやがて止むでしょう。御親切、決して忘れません。あなたもどうかお元気で」
と言って、丁重に断った。
すると女は、くるりと背中を向け、骨だけの手でバイバイをした。
ボロボロの破れ傘を差したまま、歩きながら唄い出す。
雨に濡れたら冷たかろ
冷めた心は、癒せぬか
われの思いも通じぬか
癒せぬならば、やり過ごせ
お天道様、雲間から
お久し振りと出るわいな
ああ、こりゃこりゃ……
唄いながら、だんだん消えていく。
何が、ああ、こりゃこりゃだ。
傘骨女だった。
こいつに祟られると肺炎になって死ぬことがある。爺ちゃんがそう言っていた。




