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百四 スズメのおつかい

 不意にバタバタという羽音が聞こえたと思ったら、

「いちゅまで、いちゅまで。百年ちゅぎまで」

 という鳴き声が聞こえる。


 がばっと跳ね起きて、辺りをキョロキョロ見回した。

「何だ、素っ頓狂な顔をして」

 寅さんが呆れたような顔をする。


「変な奴」

 すかさず、ヤンマー。

「欽ちゃんって、ホント可笑(おか)しい」

 美登里さんが腹を抱えて笑う。


 以津真天(いつまで)らしき姿は見当たらなかったが、隣の田んぼに沢山の雀たちが群れている。恐らく数日前に稲刈りを終えているのであろう。人間のいないことをいいことに、落ち穂をあさっているようである。チュンチュン、チュンチュンと賑やかなものだ。


 こちらが見ているのに気づいたのか、一羽がさっと飛び立つと、他の雀たちも、向こうのお山へ一斉に飛び去ってしまった。


 ひょっとして、以津真天があの雀たちに託して、警告してきたのではないだろうか。百年はもう過ぎていると――。


 しかし、寅さんにそんなことを言っても、何を寝惚けてるんだと、一笑に付されるだけだろう。何しろ、今は稲刈りのことしか頭にないみたいだから。



 午後もまた同じように、コンバインに乗った寅さんに散々叱られながら、仕事をした。

 おのれ、どうやって仕返しをしてくれよう。晩飯には、必ず酒が出る筈だ。酔った振りをして、また美登里さんの膝枕で寝てやろうか。


 そんなことばかり画策しながら仕事をしていたら、直ぐに夕方になった。


「家に帰って、一っ風呂(ひとっぷろ)浴びてこい」

 と、赤トラが命令する。

「ついでに(きよ)さんも連れてきてね」

 と、美登里さんが下知する。


「分かりました」

 おれは子供のように言うことを聞く。



 ところが、家の中はがらんとして誰もいない。

 もう薄暗くなってきたというのに、一体どうしちゃったんだろう。

 試しに、二階の安太郎さんにも声を掛けてみたが、やはり返事はなかった。


 今朝、乱暴者の寅さんが急にやって来たものだから、少し用心しているのかもしれない。


 すると、庭のほうから、キーコキーコという音が響いてくる。


 続いて、

「ゆうびんやさ~ん、はよおいで」

 という呑気な歌声。


 霊界通信使、児井(こい)文好のお出ましだ。

 喜び勇んで玄関から外に出ると、丁度自転車のスタンドを立てているところであった。


「どうしたんですか、コイブミさん」


 幽便配達夫は、この前と同じように長い髭を押さえながら、ゴッホゴッホと二度咳をした。

「お久し振りです。コンニチハ」

 礼儀正しくお辞儀をする。


「ひょっとして、爺ちゃんから何か便りでも……?」


「お元気でしたか? コンバンハ」


「いやあ、挨拶はもういいから。今日は何用ですか?」


「実はですね、実は清さん、清さんね――」


「えっ? 清さんに何かあったんですか?」


「そうそう。そうなんです。実はあの閻魔さん、閻魔さんは怖いです」


「そうですね。僕も怖い」

 頼む。早く続きを……。


「清さん、清さんね――」


「いや、だからそれは分かりましたから」

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